第35話:狂逸の者
ダンジョン内の全ての黒龍を狩り切った俺たちは、ボスがいるダンジョン最奥まで向かう。
道中にはなんの障害物もないのでスムーズな道のりだ。そして、間もなくボスの一歩手前のエリアまでやってくる。
「さ、ボス手前だけど準備はいいかい?」
きる郎の声掛けに全員がうなずく。
暗がりを通り抜けて最終マップに到着すると、洞窟内に男性の低い声が響いてくる。
「お前たちか、先刻より我の住処を騒がせておるのは」
騒がせているも何も、もう誰もいないんだけどな……。むしろいまはそうとう静かなほうだぞ。俺らの足音ぐらいしか聞こえない。
「まずは我の僕たちが住まう中をかき分けここまでたどり着いたことを褒めてつかわそう。我の名は、アルデバラン・ザ・ダーク」
いつものテンプレの自己紹介だ。古の魔法使いで黒龍に恨みを持っているんですよね。知ってますよ。
「貴様らの中に、狂逸の存在がおるな。まだ、不完全のようだが」
ん?なんだなんだ?こんなことこれまで話していたか?
アルデバランさんは、いっつも自分の身の上を話した後、恨みから黒龍を滅ぼそうとしているという話をするはずなんだが。
「狂逸の者よ。貴様はこの世界の均衡が崩れ、災禍に巻き込まれようとしていることはしっているな?」
狂逸の者ってまさか、俺のことか?世界が災禍に巻き込まれようとしているって、それもMaliceのことを言っているのか……?
「返答をしないか。まあよい。……万物は流転する。我も同じだ。望むと望まざるとにかかわらず、全てが同じこれまでと同じというわけにはいくまい」
『まりす主義』のメンバーは俺も含めて固まっている。もっとも、俺以外はアルデバランのセリフがいつもと違うことに驚いて固まっているのだろう。
俺が固まっている理由はもちろんそれもあるが、何より当事者しか知りえない事象を全てしっているかのような口ぶりであることに驚いている。
アルデバランが話していることが、Maliceのことではない可能性もまだ大いにあるのだが……。少しかまをかけてやるか。
「何のことを言っているかわからないが?」
「狂逸の者よ。貴様はわかっているはずだ。お前が一番最初に我との対話に応じた。そのことが証拠だ」
「なんのことだ?」
「しらばくれるのもよい。我が眷属を滅し、力を求めるのもよい。だが、大局を見誤らぬことだ。それは、力を持つ者の責務」
今のやり取りだけでわかる。狂逸の者。完全に俺のことだな。
通常のプレイヤー基準で言えば、『まりす主義』の連中も十分常軌を逸しているが、アルデバランが言っているのはそのことではないだろう。
こいつが常軌を逸しているといっているのは、俺の中に眠っているMaliceの力のことだ。
しかし、なんなんだ。まさかこいつもただのNPCからMalice達と同じように意思を持つ存在にでもなったっていうのか?
「アルデバラン。お前は何が目的なんだ?黒龍の滅亡だよな?」
「それは我が作られた目的ではあっても、存在する目的ではない。我の存在目的は、この世界の行く末を見守ること。全てが適切な流れとなる様に」
ああもう、回りくどいな。単刀直入に「Maliceのことを言っているのか?」と聞きたいが、『まりす主義』の連中がいる中ではそれもできない。こいつらをこの事件には巻き込みたくない。
「お前がなんのことを言っているかわからないが、”今は全てが適切な流れとなるようにしてくれないか?”」
アルデバランが少しニヤリとした表情を浮かべたような気がした。
「よかろう。…………勇敢なものたちよ。わが眷属をうち倒し、よくぞここまで来た。我の目的は全ての黒龍を打ち倒すこと。そして……」
いつものアルデバランの口上が始まる。
ギルドの連中は何かを言いたそうにしていたが、何も聞かずにアルデバランとの戦闘に突入する。
いつもの手筈でアルデバランを着々と処理していく。
基本は黒龍の対処方法と同じだ。最上級魔法と召喚にだけ気を付けておけばいい。ただ、その辺りは、リエにお任せだ。
『アブソリュート・プロテクション』ほどの防御力はないが、結界系統の魔法で最上級の『ウォール・グレイシア』で魔法の威力の大半を軽減させることができる。
あとはきる郎とフレイムが、その結界に守られながらアルデバランを追い詰める。
フレイムのアグニが、アルデバランを羽交い絞めにし、きる郎が『ルミナス・ブレード』で心臓を露出させる。
「さあ!ジュン!今だよ!」
きる郎の掛け声とほぼ同時にアルデバランの懐に飛び込み、心臓にクリティカルヒットを見舞う。そして、他の黒龍と同様にアルデバランも地面に倒れ伏す。
「見事だ。勇敢なものたちよ。貴様らの国も黒龍に滅ぼされんことを祈ろう」
いつもと同じセリフを吐いて消えていくアルデバラン。
よかった。普通に消えてくれたな。一時は狂逸の者とか言われて焦ったが……。お、そしてレベルが2あがっている。74lvになった。
「お疲れ様。みんな!」
「ああ、おつかれさん」
「おつ~」
「おつかれさまでした!」
いつものようにダンジョンクリアをお互いに労い合う。こいつらがいなかったら、今のレベルはなかった。本当に感謝しなくちゃな。
「さてさて、皆さん。気になることはあると思いますが、その前に戦利品山分けのお時間です!」
「気になることはあるけど、そっちも気になるぅ~!」
きる郎とリエがアルデバランを倒した後に入場できる『アルデバランの部屋』でのお宝の山分けにテンションを上げている。
気になることっていうのは、まぁ自明だが、まずは戦利品の山分けだ。大鎌使い用の装備もあるかもしれない。
アルデバランの部屋に入ると、5つの宝箱がある。それぞれが明けた宝箱の中身を総取り……というわけではなく、必要な人に必要な物を分けていき、余りは山分けだ。
「さ、皆位置についたかな?」
『まりす主義』のメンバー5人はきる郎の号令がある前からそれぞれが宝箱の前にスタンバイしている。慣れているというのもあるがやはり宝箱はテンションがあがる。さっさと開けたいのだ。
「大丈夫そうだね。じゃぁ、開けて!」
各メンバーが宝箱を開ける。「おぉ~!ドラゴン・ダークマターやないか!」「え、マジ!?」「あああ!それ私がほしいですぅ~!」などと一気に騒がしくなる。
そして、俺はというと……おお!
『サリエルの致命をもたらす半月』
『ドラゴン・ダークマター』
『ティアマトの鎧』
『100万ゴールド』
……などなど、かなりレアなアイテムが揃っている。そしてさらに、『サリエルの致命をもたらす半月』はぶっ壊れた効果を持つ神話クラスの大鎌だ。
この大鎌、クリティカルヒットポイントを作り出すのだ。例えば、基本的に人間は首がクリティカルヒットポイントなのだが、一度この大鎌で腕を切ると、腕すらも切られた人間にとってのクリティカルヒットポイントとなる。
あとは、そこをもう一度切り裂いてやれば、相手のヒットポイントはゼロだ。
ずっと喉から手が出るほどに欲しかった装備だったが、初期化前のキャラクターではついぞ手に入れられることはなかった。まさか、ここで手に入れることができるなんて。
捨てる神あれば拾う神ありだ。




