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VRMMO「Malice」―銀髪少女の悪意  作者: Hon_S
第三章:目覚め
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第30話:善意?悪意?

レベル上げを手伝う?


それはさすがにレベル差がありすぎてムリだ。

Malice Onlineでは、グループで狩りをしていると倒したモンスターの経験値はグループ内でシェアされる。


ただし、レベルに応じた配分率が決められていて高レベルのプレイヤーに多く経験値が入る。

高レベル帯のプレイヤーのグループに入っていてもレベル差がありすぎると

低レベルのプレイヤーには経験値がほとんど入らない。


「いや、フレイム……。それはシステム上無理だろ」

「まぁ、普通はムリや。だが、お前は元トッププレイヤーだ。違うか?」

「それはそうかもしれないけど、それは今は関係ないだろ」

「いや、そのお前にしかできん方法や。正確にはきる郎とお前にしかできない方法やな」


先程まで語気を荒げて俺を責め立てたきる郎が、気まずそうに俺を横目でみながらフレイムに尋ねる。


「フレイム、詳しく教えてもらえるかい?」

「簡単や。きる郎、お前のユニークスキル『ルミナス・ブレード』を使えばええ」


きる郎はレベル80の時に、自分の剣に超高密度の光の粒子を纏わせる『ルミナス・ブレード』を得た。


これがかなりのとんでもスキルだ。どんなに硬い甲殻を持つモンスターでも、分厚い鎧を身に纏ったプレイヤーであっても、剣に纏わせた超高温の光の粒子で全てを溶かして切り裂く。


言ってみれば、物理防御完全無視のチートスキルだ。Malice Onlineの中でも間違いなく最上級の攻撃スキルといっていいだろう。


しかし、これがなんで俺のレベル上げに関係してくる?

『ルミナス・ブレード』はあくまできる郎の剣だけにしか纏わせることができない。

50レベル以上なら”伝承”によって自分のスキルにするという方法もあるが、それはあくまで同じ職業同士だけに可能だ。大鎌使いはソードマスターの装備は覚えられない。


「いや、フレイム。『ルミナス・ブレード』はきる郎限定のスキルだろ。俺には使えないよ」

「そんなことは知っとるわ。最後まで話を聞け。せっかちやのう」


フレイムが咳ばらいをして改めて話を続ける。


「ジュン、お前は大体のモンスターのクリティカルヒットポイントを熟知しとるな?」

「ああ、そうだな。知ってた方が効率的に狩りを進められるしな」

「そんでもって、それを狙う技術もある」

「そうだな」


そして、フレイムはきる郎にむき直る。


「きる郎、お前が『ルミナス・ブレード』でジュンがクリティカルヒットを狙えるところまでお膳立てしてやればええんや」


きる郎は何かに気が付いたように目を丸くする。


「フレイム、それは名案だ」


おい、どういうことだ。2人だけで合点して先に進まないでくれ。

さっぱりわからないぞ。


いまいちきる郎とフレイムの言っていることにピンと来ていないのは俺だけではなかったようで

先程から会話の行く末を見守っていたリエが口を開く。


「ちょっと。二人だけで納得してないで私たちにもわかるように教えてくんない?何やるにせよどうせ皆でやるんでしょ」

「おお、すまんな。まぁ、百聞は一見に如かずや。とりあえず、黒龍の谷のダンジョン手前までいくで」

「はぁ?」

「ええからええから。ジュンもそれでええな?」


正直、具体的に何をしようとしているかピンと来てはいないが、とりあえず頷いておく。


「したらイリス。空間転移頼むで」

「よしきた!まかせなさい!」


どんとこい、といったように胸をたたくイリス。そして、彼女が自分のアイテムインベントリをチェックし始めると、きる郎が静止する。


「イリス、ちょっとまってもらっていいかな?どうしてもジュンに確認しておきたいことがあるんだ」

「う、うん。」


イリスが動きを止め、きる郎が俺に向き直る。


「ジュン、さっきは熱くなってごめん。ただ、ジュンの活躍を一番楽しみにしていたものとして、ジュンの言葉は到底受け止められるものではなかったんだ」

「こちらこそ何の相談もなく、申し訳ない」

「いや、それはいいんだ。でも1つだけ、確認させてもらえるかい?」

「ああ」

「レベルを初期化した理由は分かった。受け止めることはできないし、理屈も通ってないし、賛成もできない。ただ、キミの言い分はわかった」


俺はだまってきる郎の話を聞く。


「これは……この”レベル初期化”は何か君の悪意による行いの結果、生じた事態ではないんだよね?僕らを裏切るようなことは何もないと、信じていいんだよね?」


不安そうにきる郎が訪ねてくる。

長い付き合いだ。きる郎の気持ちも痛いほどよくわかる。あれだけゲーム内のアセットを積み上げたキャラクターを初期化するなんて正気の沙汰ではない。


もしこんなことが起きるとすれば、チートや改造プログラムを使った結果、アカウントがBANされたなんてことだろう。

きる郎は、みんなに気を遣って聞き方をぼかしてはいるが、レベル初期化の理由としてこういった類のものが関係しているのではないかと疑っている。


全くもって心外なことではあるが、そう疑うのも仕方はない。なんせ自分の理屈は、極限まで細くした蜘蛛の糸以上に論理の線が細い。目を凝らしてもその繋がりがみえるかどうか怪しい虚偽の糸だ。


しかし、はっきりとこう主張させてもらおう。


「ああ、それは大丈夫だ。俺を信じてくれ」

「そう聞けて安心したよ。それに、今の君の眼は、嘘をついていないときの目だ」

「なんだそれ。嘘ついてるときはわかるのか」

「うん、とても分かりやすい」


ふふ、っときる郎が笑みを浮かべるのにつられて自分も顔の緊張が解けたのがわかった。

ギルド員の連中も同様に笑みを浮かべている。場の雰囲気が和んだのを感じる。


ん?待てよ。

俺が嘘をついているときはわかるっていうと、さっきの言い訳はギルド員に嘘だとバレていたか?


まぁ……みんなも深く突っ込んでこないし、いいとするか。


「よっしゃ。それじゃあ、今度こそ黒龍の谷に出発や。イリス、頼むで!」

「今度は座標設定間違えないでよね」


リエがじろりとイリスをにらむ。


「だ、大丈夫だってえ」


イリスが自分のアイテムインベントリから転移術式が込められたイリスオリジナル巻物『転移スクロール』を取り出そうとする。


イリスはレベル90のアイテム製作職であるクラフトマスターだ。攻撃アイテムから補助アイテムまで、材料さえあれば何でも作ってしまう。


レベル80の時に『とびっきりアイテム製作術!!』なるユニークスキルを手に入れてからは、規格外のオリジナルアイテムばかり製作してギルドの連中を驚かせている。

スキルの効果だけじゃなくて名前もユニークなのはイリスらしい。


このスキルで制作したオリジナルアイテムの1つが、この『転移スクロール』だ。ワールドマップの正確な座標さえ把握していればどこにでも瞬時に移動することができる。


ちなみに、<Malice>では、ドラゴンや鳥獣を飼いならして高速でマップを移動するような方法はあるが、マップ間を転移するようなアイテムは実装されていない。

それだけでもこのアイテムの価値が分かる。材料も相当レアなものばかりで、本来はそうホイホイと使える代物ではないのだが。


イリスが『転移スクロール』を開き、空中に高度な術式を展開する。

意識を集中させ、手を上下させている。適切な座標を探っているのだろうか。


流石に店内の注目を集めたようで、周りのプレイヤーたちが物珍しそうに見つめている。

店主も不安げな顔で近づいてきて「おい、これ大丈夫だろうな?」と尋ねてくる。「心配をおかけしてすみません。大丈夫です」と声をかけておく。


時間にして2~3分程経っただろうか、イリスが丸々とした目を開いて「よし!」と声を出す。

何かが完了したようだな。


「みんな、座標設定完了だよ!今からポータルを開くね。開いたらすぐ入ってねー!」

「ほんとに大丈夫でしょうね。黒龍の谷は私たちでも油断してたら危ないところなんだからね。黒龍の巣のど真ん中になんて転移させないでよね」

「し、信じてよお」


ふん、とリエが鼻を鳴らす。

少し不安だが、まぁ、この5人がいれば大丈夫だろう。


「じゃ、じゃぁ、ポータル開くよ。『Portal to the Another World』!」


イリスの詠唱とともに俺たちが座っていたテーブルの横に光輝くポータルが出現する。

さぁ、黒龍の巣に出発だ。


ギルド員たちは手際よくそこに飛び込んでいく。その後ろから俺もついてポータルをくぐる。

俺がポータルをくぐった時、後方から店主の怒号もついてくる。


「おい!!!メシ代払ってけよ!!!」


や、やべ。完全に忘れていた。


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