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VRMMO「Malice」―銀髪少女の悪意  作者: Hon_S
第三章:目覚め
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第29話:転機

店の天井を豪快に破壊したイリスとともに、店主であるプレイヤーに深々と頭を下げる。

修繕費と営業にあたえる損害への補償は当然イリス持ちだが、金銭面ではなんとかだった。

まぁ、ここにいるヤツらはレアアイテムの売却なんかでたんまりと財産はあるからな。


俺を除いて。


店を破壊してはしまったが、店主とは顔なじみだったこともあり、

「引き続きゆっくり飲んでいってくれ。酔っ払いが店を破壊することはしょっちゅうだからよ」

と粋な心遣いを受けて、幸いにも元のテーブルで飲みなおすことができた。


ありがたいことだ。


5人が着席し、初めに口を開いたのはギルドマスターのきる郎だ。


「みんなお疲れさま。トラブルはありましたが、無事揃えて何よりです」

「ごめんねぇ。きる郎」

「いいよ、イリス。次から気を付けてね。というわけで、皆で揃うのは1か月振りになるのかな」


俺がコロッセウムの準備に向けて1人で追い込みを始めた頃がちょうど1か月前だから、そのくらいになる。

一応心配してくれていたみたいだし、ちょっとは謝っておくか。


「そうなるね。特に連絡を取らずに心配させて申し訳ない」

「いやいや、大丈夫だよ。集中してトレーニングする時間も必要だろう。それで、仕上がりはどう?」


来ると思っていた質問でもどきっとせざるを得ない。

申し訳ないが、Malice以外については事実を伝えるしかない。


「それなんだけど、皆に伝えておかなければいけないことがある」


一同、俺に視線を向けて静かになる。

メインフロアは相変わらず賑やかだったが、このテーブルだけ世界と切り離されて静寂に包まれているような妙な感覚を覚えた。


さぁ、言うぞ。


「トレーニングの結果、俺は全てを初期化することに決めた。今、俺はレベル24だ」


静寂さという言葉が陳腐に思えるほど空間が動きを止めた。

現実世界で言えば、まさに全ての物質が運動を止めてしまい、

絶対零度の空間にいるかのような、寒気すら感じる。


あのフレイムですら、冷え切ってしまっている。


ひたすら沈黙の時間が続いたが、とうとうリエが最初に口を開く。


「もっかい言ってくれる?ちゃんと理解できたか不安でさ」

「あー、いうぞ?……トレーニングの結果、俺は全てを初期化することに決めた。今、俺はレベル24だ」

「冗談よね?」


オウムのように同じことを繰り返した俺に、リエがかぶせ気味に質問を投げかけてくる。

突飛な出来事すぎて受け止めきれないといったような表情をしている。


「本当だ」

「ちょっとまって。ごめんジュン。ステータスを見せてもらっていいかい?」


さすがのきる郎も驚いているようだ。

俺はステータスを公開する。


名前:ジュン

レベル:24

職業:大鎌使い


きる郎をはじめギルドメンバーは驚きのあまり言葉を失っている。

俺の元のレベルは91、レベルだけ切り取ってみたってプレイヤーの中では当然のトップランナーだ。

サービス開始から1年半、精魂込めてプレイしてやっとこの高みに到達できる。


このステータスは、その全てを無かったことにしたということを示している。

そして、Malice Onlineではサブキャラクターを作成することはできない。

大鎌使いジュンは、まさに今ここにいるキャラクターだ。


きる郎が、なんといっていいかわからないといったような複雑な表情で尋ねる。


「ジュン……。どういうことか説明してもらっていいかな?トレーニングすると、なんでレベルがこんなに下がるんだ」

「それは、あれだよ。やっぱり自分の限界をためすには、レベルに頼っちゃいけないと思ってな。ユウジの鼻の穴をあかすためには、膨大なレベル差があってもプレイヤースキルだけで勝てるということを見せつけてやろうと思ったんだよ。そのほうが、観客も楽しいだろ?」

「何をいっているんだ、ジュン。いくらジュンのプレイヤースキルが優れているからって、このレベル差じゃ勝てるものも勝てなくなるよ。当たり前の話だろ」


珍しくきる郎が語気を荒くしている。


「これまでどれだけ君との訓練に付き合ったと思って……。まぁ、それはいい。僕が好きでやったことだ、ただ……」


きる郎があふれる怒気を抑えながら、俺の目をまっすぐに見て言う。


「正直、こんなことはして欲しくなかった。観客が喜ぶといったが、そんなこと、ここにいる皆もはじめ、誰も望んじゃいない」


みんなが見たいのは……ときる郎が続ける。


「Maliceプレイヤーの頂点だ。究極だ。レベルやステータス、スキル、装備も磨きぬいたプレイヤーが戦うと何が起きるのか。自分たちが目指すその先に何があるか。それが見たいんだ。特にジュン、君はここにいるトッププレイヤーの中でもトップだ。トップ・オブ・トップなんだよ。なのに、なんでそんな理屈の通らないことをするんだ……」


そんなの、分かっている。俺だってできることならそうしたいに決まっている。

誰が好きこのんで丹精込めて育て上げたキャラクターを削除するんだ。


正直、こういう反応が来ることはわかっていたが、いざ目の当たりにすると心が痛む。

俺だってどうしようもないんだ。今すぐにでもMaliceのことをゲロってしまいたいぐらいだ。


皆が期待しているのと同じくらい、いや、それ以上に俺は、

大鎌使いジュンがどこまでいけるか楽しみだった。


ユウジはいけ好かない奴だが、あいつと本気のバトルをしているときはやっぱり楽しい。

あいつだってキャラクターやこの世界への愛情は本物だ。

それ以外は別として、この点だけについてはアイツとは共通している。


「なあジュン。黙ってないでなんか言ったらどうなんだ」


事前に脳内リハーサルをしていたことなんか、全く役に立たない。

実際のきる郎の熱量に押されてしまい、出る言葉も出なくなってしまった。


「まぁ、落ち着くんや。きる郎。ジュンにも何か考えがあってのことやろ」


珍しくフレイムがきる郎をなだめている。いつもは逆なのにな。


「それにしてもや。やっぱり俺も知りたいわ。何があったんや、ジュン」

「申し訳ない。言えないんだ」


しまった。思わず準備していた言葉とは違う言葉を口に出してしまった。

プレイヤースキルを見せつけたい、という説明をするつもりが……。


「言えない?なんやそれ」

「……いや、違う。なんでもない。ただ、プレイヤースキルを見せつけるためにはレベルダウンをする必要があったという結論にたどり着いただけだ」

「それが分からんゆうてんねん。誰もそんなの見たくないで」

「ああ。イノベーションを起こす奴はさ、変なヤツなんだ。誰も今までにやったことないことをやるからな。誰にもその考えを理解されない。だけど、俺は真剣だ」

「おお、そうか。まぁ全く分からんねんけど、だったらレベル1で戦ったらええやんけ」


ぐっ。フレイムのくせにまともなことをいう。

プレイヤースキルを見せつけるためならレベルは低ければ低いほどいい。


「それに。わざわざレベル1にしなくても、装備を外すとかそうやって挑むんでもよかったんちゃうんか」


ぐぐっ。こいつなんで急にまともなツッコミができるようになっているんだ。

誰だこの燃えかすの脳みそに知恵を与えたやつは。


「なんか、理由があるんやろ?初期化して、それでもレベルをあげにゃならん理由が」

「……俺が言えることは、1つだけだ。プレイヤースキルを見せつけるためにはこれが必要だったんだ」

「ほう。じゃぁ、どこまでレベル上げるつもりやねん?お前の目的からしたら本来はレベル1でええはずやろ」

「……レベルは、できる限り上げたい」

「全然理屈が通ってへんな」


ああ、分かってる。支離滅裂なことをいっているのはわかる。

だが、レベルはこのままでは良くないんだ。今後来る災厄のためにも。


少し考え込んでいたフレイムが、まさかの提案をする。


「事情は知らんけど、レベル上げることに問題ないなら、俺らが手伝ったらええんちゃうか?」


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