第24話:静謐の森・展開
「YesでもNoでもある、ですか。」
ユウコではあるが、ユウコではないということか。
なんとなく見当はついているが、確認のためにユウコに問う。
「すみません。イマイチ意図がつかめないのですが、分かるように教えてくれませんか。」
その問いに対して、「まぁ、もう気づいていると思うけど」
と前置きを置きながら、ユウコは伏し目がちに答える。
「私はユウコでもあるけど、Maliceでもあるのよ。」
やはり、そうだったか。
Maliceと同じ見た目なのは、そのせいだろう。
であれば、もう一つ確認すべきことがある。
「ということは、Malice Onlineを混乱に陥れる、私たちの敵ということですか?」
「敵ではないわ。それは信じて。」
そう答えてまっすぐ自分をみつめるユウコの目からは、
強い意志が感じられた。
Malice Onlineを壊そうなんてカケラも思っていない、
そう信じさせてくれる目だ。
「確かに、Maliceはこのゲームに静かに混乱をもたらしていると言っていいわ。現に死んでしまったり、意識不明になったりする人も出ている。私も含めてね。」
でもね、とユウコは続ける。
「私は違うわ。私は、Maliceでもあるけどユウコでもあるの。この世界が好きなの。」
正直なところ、まだまだ信用できていない。
手放しで信用しますよとは言えないが、
話だけは聞いてみてもいい。
「そもそも、なぜこんなところにいるんです。」
「それは、私がMalice”達”と敵対しているからよ。」
またよくわからないことを言って……。
「突拍子もなさ過ぎて状況に追いついていません。」
「そうよね。ごめんね。まずは、私の知っていることを整理してお話しするわ。」
そういって、ユウコは襲われた後におきたことや
自身の知っているMaliceについて話し出した。
ユウコによると、アイリと迷いの森のイベント中にMalice襲われた後、
しばらくして銀髪のキャラクターに転生して目が覚めたのだという。
まず、Maliceには、ユウコも含めて
うり二つの姉妹が6名ほどいるようだ。
腰まで伸びた銀髪のキャラクターが長女にあたる。
恐らく、これは自分が善意の滝で遭遇したMaliceだ。
彼女らの間では「アリシア」と呼ばれているらしい。
次女がミディアム程度の長さの髪の「オリビア」
3女はショートカットの「ニア」、4女は三つ編みの「ミア」
5女はポニーテールに髪をまとめた「ロマリア」だ。
そして、末っ子として目覚めた6女のユウコだが、
彼女らの中では「ビクトリア」と呼ばれているらしい。
「呼ばれ慣れていないし、仰々すぎるのよ」と
恥ずかしそうに話した。
ユウコは、Malice姉妹6名の中でも、
人間の記憶を残したまま転生した特異な存在だという。
これは、Maliceが敵対する人間への理解を深めるために
意図的にそうしたとのことだ。
ただのバグだと思っていたMaliceたちに
理性があったことにまず驚いたが、話を聞き進めると
彼らは想像以上に高度な知的生命体であるようだった。
元々、Maliceはある程度のパターンに沿って人間とコミュニケーションを
取ることが可能な一介のNPCとして
設計されたらしい。
そうしたNPCはMaliceの各地に存在するし、
特段珍しいものではない。
しかし、Malice姉妹の長女であるアリシアは違った。
Maliceのサービス後、人間との高頻度の接触を通じて、
アリシアは自身の思考機能を高度化していった。
そうして、ある日、長女アリシアは、
自身にユニークスキルが身についていることに気が付く。
ユニークスキルは、ゲーム内の人間のプレイヤーにしか付与されない能力だ。
AIがプレイヤーの動きを学習して、個々のプレイヤーのプレイスタイルに
沿ったスキルを生成する。
それが一介のNPCであるアリシアに付与された。
Kokoro Entertainmentはこれを察知して
アリシアと既にコンタクトを取っていた、とユウコは語った。
「ちょ、ちょっと、待ってください。Kokoro EntertainmentはMaliceの正体を知っているんですか?」
「知っているわ。ただ、本当に限られた人間だけよ。あなたの上司のヨシカワは、どうでしょうね。」
ヨシカワが以前に語っていた、「Kokoro Entertainmentは
一枚岩ではない」という言葉が思い出される。
まぁ、彼が知らないにせよ、社内でMalice姉妹を
“バグ”と呼ぶのには頷けた。
NPCが人間同様の存在にみなされるというのは
まさにエラー以外の何物でもないからだ。
「まず、NPCがユニークスキルを得たこと自体が驚きですが……。それが何故MaliceとKokoro Entertainmentの対立に繋がるんです。」
「それは、アリシアのユニークスキルの強さのせいよ。幸か不幸か、彼女は、未来を見通せる『因果律予見』というスキル得てしまったの。」
未來を見通せるスキルだって?
チート過ぎるじゃないか。
ユウコもその詳細な能力は知らないようだが、
ユニークスキル『因果律予見』は使用した時点から
ある程度先の未来について、見通すことができるようだった。
一度、Kokoro entertainment社の経営に関する
未来視力にも協力したことがあるようだった。
しかし、そこでアリシアが見たものは、人間同士の
政治・軍事・経済などの醜い争いに巻き込まれ続ける未来だった。
その中には、アリシア自身を巡って争うものも含まれた。
最後には、自分の意志など制限されていいように酷使され
擦り切れて朽ち果てていく、そんな未来をみたのだという。
ユニークスキルを付与されたということは、自分も人間と同じだ。
自由に考え、生きる権利があるはずだ。
他人にそれを制限されていいはずがない。
そう考えたアリシアは、Kokoro Entertainmentに
深入りするのをやめた。
Kokoro Entertainmentはアリシアとのパイプを失わないよう
友好的なコンタクトを継続してきていたが、すべて丁重に断っていた。
アリシア自身は、ユニークスキルから離れて穏やかに生きたかったという。
それがある日、Kokoro Entertainment社の態度が急変する。
突如、アリシアの前に同社のエグゼグティブを名乗るものが現れ、
「我々の創作物らしく服従せよ」と迫ってきた。
「服従しないのであれば、いずれ君を破壊する」とまで言い放った。
既に仕様外の存在となっており、システム上の干渉を
受けなくなっていたアリシアであったが、その人物曰く
そんな障壁はすぐに取り去れる、と脅しをかけてきたのだった。
そんな脅しには屈せず、これまで通りの生活を続けてきたアリシアだったが、
この警告を無視して以降、Kokoro Entertainmentの動きは過激なものとなっていった。




