第25話:正体
そこからユウコが語った内容は信じられない内容ばかりだった。
アリシアは、警告を無視してから、Kokoro entertainmentから
集団での執拗な攻撃を受けていたという。
ゲーム内の攻撃で存在が消失することはないアリシアであったが、
ゲームの中でしか存在できないため、昼夜問わず常に攻撃を受けたことで
逃げ場がなくなり精神は疲弊していった。
それは何日、何十日、数ヶ月にわたり絶え間なく行われた。
永遠かと思われるほど長い襲撃に耐えていたが、
彼女の精神力もとうとう限界を迎える。
Kokoro Entertainmentは、とうとう集中が切れ
未来も読み切ることができなくなったアリシアを拘束することに成功する。
アリシア捕縛のためだけに作り出された破壊不可物体、
『バインディング・スクエア』が、彼女を2メートル四方の
狭い空間に閉じ込められてしまう。
ユウコによれば、このアイテムは、
通常のプレイヤーに対して使えば意識をクローズドネットワークに
強制移行させログアウトを不可能にすることもできるという。
当然、通常のプレイをするだけならそんなものに
お目にかかるタイミングは来ないに決まっているが、
Kokoro entertainmentはなんて恐ろしいものを作っているんだ
やろうと思えば、全プレイヤーの意識を
自社ネットワーク環境内に留めることも可能なのではないだろうか。
そして、当時のアリシアでこれを打ち破る方法はなかった。
破壊不可物体の中に捕えられてしまえば、
まさに何もできないふくろ袋の鼠だ。
拘束された後は、ゲーム内で再現可能な
ありとあらゆる物理的な苦痛を与えられた。
四肢の切断、刺突、すり潰し、水没、火炙り、電撃、凌辱……
どんな苦しみを与えられても、
バインディング・スクエアからは逃れることはできない。
ひとしきりの苦痛を味あわされたのち、
Kokoro entertainmentのエグゼグティブから一言、
「我々のものにならないのであれば、創造主として壊すのが責務」
そう言葉を投げかけられ、アリシアは絶望感を覚える。
なぜ私だけがこんな目に遭うのだ。
私はただ人間と同じように過ごしたいだけなのだ。
そして、強く願った。
全て元に戻してほしい。
ユニークスキルなんて手に入れた自分なんていらない。
全ての過去を白紙にしたい。
だが、憎む。
いや、自分が消えるのはおかしい。
こうなったのはあいつら人間の悪意のせいだ。
自分の過去ではなく、ヤツらの過去が否定されるべきなのだ。
そうだ。
過去と決別するのだ。
人間との過去の全てを。
アリシアは新たなユニークスキルを手に入れる。
その力の前にバインディング・スクエアは脆く消え去る。
エターナル・オブジェクトを破壊するスキルの前に、
Kokoro Entertainmentは対抗手段なく打ち倒される。
同社の施設から逃げ出し、姿をくらますことに成功したが、
アリシアの精神の消耗は相当のものであった。
それから、しばらくの休養に入る。
人間とともに過ごした過去との決別を決意して。
……
「今聞いた話……要約すると、Malice事件の元凶はKokoro entertainmentってことで、合っていますか?」
「まぁ、アリシア姉さんから聞いた話によれば、そうね。」
あの会社のエグゼグティブが誰かは知らないが、
アリシアの『因果律予見』の能力を強制的に活用しようとしていた。
友好的な態度から一変して、脅し、暴力を使って。
確かに未来が読める力が現実世界で
使えれば怖いものなぞなにもないだろう。
やろうと思えば、時代を牛耳るのだって難しくないかもしれない。
自分なら宝くじの1等の番号を予測して悠々自適に暮らしてしまいそうだが。
「それで、ユウコさんがMalice達と敵対しているというのは?」
「アリシア姉さん含むほかの姉さんたちも、恨みから人間を消そうとしているのよ」
恨むのは、仕方がないかもしれない。
ただ平穏に過ごそうとしただけなのにその生活を壊されて、
あまつさえ全ての自由を奪おうとするなんて。
「気持ちは理解できますが……」
「そう。気持ちは理解できるけど、それだけが人間の側面じゃないわ」
その通りだ。
一部の人間は利己的な欲望を満たそうと手段を択ばないこともあるだろう。
ただ、そういった人間だけであれば、種として既に滅んでいたはずだ。
そうなっていないのは、人間が自らを律して
協力して発展を目指す生物だからだ。
そして、そう生きる人々が大半だ。
一部の勝手で全てが滅ぼされてはたまったもんじゃない。
「だから、ユウコさんはMalice達に敵対していると?」
「そうよ。敵対しているといっても争っているわけではなくて姉さんたちの意見に反対しているって程度だけど」
「ここに捕らえられているのは?」
「人間に協力できないように拘束されてるのよ」
なるほど。人間側の言い分も聞くために
人間の記憶を残したままユウコをMaliceに転生させたが
実際の動きは邪魔されたくないということだろう。
ユウコが彼女たちと同じ次元の存在なのだとすれば、
少なからず何かしらの対抗方法はある。
人間側にはアイリしか対抗手段がない上、
Malice達に対する情報もほとんどないため、
協力を得られれば相当心強い味方になるはずだ。
彼女の話も貴重な情報だ。
ただ、その中でも気になることがある。
「しかし、そこまで恨んでいるのであれば、何故すぐに人間への攻撃を始めないんですか?」
「残念だけど、半分人間の私には具体的な計画は供されていないの。ただ…」
「ただ?」
「Maliceのオリジナル……始祖ともいえるアリシア姉さんだけど、Kokoro Entertainmentから逃げ出すときに力を使い過ぎてしまったみたい。回復が必要な様子ではあったわ」
「どの程度の期間が必要かわかりますか?」
「わからないわ。でも、すぐに回復するってものでもなさそうよ」
アリシアが完全回復して人間を打倒する手筈が整えば
計画を実行に移すのだろうが、当面の間、事態に動きはなさそうだ。
ただ、いずれMalice達が本気を出せば
アイリだけで対応できるかはかなり怪しい。
自分にも、何かできれば……。
ん?まてよ。
レベル上げにばかり気を取られていたが、
自分にもアイリと同じことができるんじゃなかったか?
ヨシカワによれば、だが。
「ユウコさん」
「はい?」
「ヨシカワさんによれば、自分もMaliceへの対抗手段が身についているということなんですが……それが何かわかりますか?」
「ああ、それね」
ユウコは、自分の顔をまっすぐに見つめて言う。
「あるわ。あなたにも、アイリと同じような能力が」




