第21話:貸し借り
そこに現れたのは、これまでうんともすんとも言わなかったヨシカワだった。
このタイミングで現れるなんて、何考えてるんだ。
変に刺激したくないから今回は手を出せないんじゃなかったのか。
「レイさん。いや、”レイド”さん。今回はこの辺にしておいていただけませんか。」
いま、なんていった?
レイドだって?Ninety Eight Percentのギルド長の名前じゃないか。
でも、この人のステータスを確認したときは、確かに
名前:レイ
と表示されていた。
……名前を隠すようなプログラムが簡単に作れると、
そういうことか?
俺は今までずっとこの人を闇ギルドのリーダーと気づかず、
一緒にアイリを助けに来ていたというのか。
とんだピエロだ。
レイは、大きな猫目で強烈にヨシカワをにらみつける。
「ヨシカワ。これ、完全に干渉よね。」
「はい、そうですな。」
「やめてあげてもいいけど、貸しになるわよ。」
「はい、それもそうですな。」
ふん、と鼻を鳴らしたレイドは、紫電をしまいながら、言い放つ。
「分かったわ。あと、レイドって呼ぶのやめてくれる?レイでよろしく。」
「そうでしたな。」
先ほどまで必死になって争っていたことが嘘のように、
物事がすごいスピードで片付いていく。
こんなに簡単に済む話なら、なぜ俺が出向く必要があった?
ヨシカワには説明してもらわないと気が済まない。
「その女の子に何があるのかなんてしらないけど、あんたが出てくるってことはよっぽどね。」
「そうですかな?何をいっているかよくわかりませんな。」
レイも何かに感づいているようだが、ヨシカワはしらばくれる。
ヨシカワは床に付したままの俺に簡単な回復処置を施し、
HPを全回復させる。
体は動くようになった。
しかし欠損した左腕までは治らない。
自然体ではあと2時間はデバフとしてついて回る。
このまま始まりの街に戻ってから、ヨシカワを問い詰めた後、病院にいこう。
「では、我々はこれで失礼します。レイさん、お元気で。」
「ヨシカワ。」
レイは、去ろうとするヨシカワに声をかける。
「これからもよろしくね。」
ニヤニヤと不気味な笑いを浮かべながら3人を見送るレイであった。
左腕が欠損したジュンの代わりに、ヨシカワが眠ったままのアイリを背負い、
3人は、そそくさとNinety Eight Percentの館を去る。
敷地内にいる間、ヨシカワとは一言も交わしていないが、
館から少し離れ、カジノの横に来たときにヨシカワが口を開いた。
「馬車にのって夜の国まで来てもらったところ申し訳ないですが、いったん私の転移でレイヴンまで戻りましょう。」
「いろいろと聞きたいことがありますので、よろしくお願いします。」
「そうでしょうな。」
ヨシカワは、転移のスキルを発動し、
見慣れたレイヴン内のヨシカワの執務室まで移動した。
すると不自然なほどに深い眠りについたアイリが、
うぅん、という少し色っぽい声とともに起きるしぐさを見せた。
強く心配していたからか、思わず名前を呼び掛けた。
「アイリさん!」
「あ、おはようございます~。なんか私眠っちゃってたみたいですね……。」
「何が起きたか、覚えていますかな?」
ヨシカワがアイリに問いかける。
アイリはねむけ眼をこすりながら、答える。
「なんか、ジュンさんと夜の国に来て、静謐の森に向かおうとしたら急に眠気に襲われて……。起きたらここにいました。」
そうか。そうすると闇ギルドの本拠地ではずっと眠っていたんだな。
何が目的でアイリを誘拐したんだ。
どうせロクな目的ではないだろうが。まったく。
眠っていた間のことをヨシカワがアイリに説明する。
「そ、そんなことが…。衝撃です。」
「ひとまず、何か危険な目にあう前だったようで、本当によかったです。」
「ジュンさんがいたからですよ。本当に助けていただいてありがとうございました。」
「いえ、私はボロボロにされましたが……。最終的にはヨシカワさんですよね。」
少し苦々しい気持ちになりながらヨシカワにお礼を言うようアイリに促す。
結局でてくるなら、そもそもヨシカワのおっさんが先に行けばよかったんだ。
「ヨシカワさん!本当にありがとう!」
「いえいえ。」
いつもの調子を崩さないヨシカワを少し責めてみる。
「しかし、あの赤髪の女性がギルドマスターだと気が付いていたなら、なぜ彼女が出てきた段階で警告してくれなかったんです。」
「あの場では、彼女が何が目的かわからなかったからですな。変にお伝えしてプランが崩れるよりは、レイさんが何もアクションを起こしてこないなら、このままプランを継続したかったんですわ。」
レイが現れた段階でプランが崩れているだろう。
まったく説明になっていない。
「では、結局最後にはヨシカワさんが現れたのは?」
「結局出てくるなら最初からでろ、ということですかな。」
そうだよ。
「気を悪くしないでほしいんですが、私が出るのは、最終手段だと考えていました。ジュンさんが首尾よくアイリさんを奪還できるなら、それでよし。もしだめなら、レイさんに借りを作ることにはなりますが私が出ると、そういう算段です。」
けっ、当て馬じゃないか。
うまくいったらラッキー程度の運試しだったってことか。
俺が失敗しても、プランBでアイリは奪還できるように
進めていたということか、ほんと食えないオヤジだ。
「人が必死になって頑張ったのを何だと思ってるんですか。私がいなくても解決したならそれでよかったじゃないですか。おかげで散々な目にあいましたよ。」
「いえいえ、ジュンさんが出てくれたおかげで最小限の交渉で済んだんですよ。レイさんは面白いものが好きですからな。」
レベル20が必死こく姿がそんなに面白かったのか。
いたぶって喜んでいるようにしか見えなかったが。
「こんな雑な使い方をするなら、Ninety Eight Percentに入りますからね。ちょうどレイさんに加入するように誘われましたし。」
「おお、そうですか。あのレイさんがヘッドハントですか。」
はっはっは、と大きな声で笑うヨシカワ。何が可笑しい。
「いや、非常に面白いですな。」
シバサキもニコニコしながら後に続いて言葉を発する。
「ジュンさんが入れば、99名になりますしね。」
シバサキまでよくわからんことをいっている。
何が面白いのか結局わからないことだらけが、ひとまず一件落着だ。
アイリも戻ってきて、なによりだ。
―――――――――Ninety Eight Percent本部
「ヨシカワがでてきましたね。」
「ええ。」
ジュンたちが去った後、Ninety eight percentの館では、一際きらびやかな一室で
レイドともう1名のフードを深く被った人物が言葉を交わしている。
「やはり、あの娘は目覚めているようだな。」
「ええ、そのようです。」
「すんなり返してよかったのか。」
「我々のやっていることが、Kokoro entertainmentの領分を犯した時、彼らは間違いなく我々を取締りに来るでしょう。」
レイは鋭い目つきでフードの人物を見る。
「いまの均衡を崩してでもヨシカワがでてきた。これは、警告でしょうね。」
「あの娘には手を出すな、ということか。」
「ええ。ヨシカワたちが私たちの目的に気がついているかどうかは不明ですが、あの娘はヨシカワたちにすでに取り込まれているようです。」
「そのようだ。……引き続き、ヨシカワどもに我々の動きを感づかれないよう、これまで通り計画を進めてくれ。」
「承知しました。」
レイドはその一室から瞬時に移動する。
「これからが面白くなるな……。」
第一章 終




