第19話:油断と油断
ヨシカワとシバサキは何やってるんだ?
遠隔で十分なサポートを提供するっていっていただろう。
2人の落ち度に強い憤りを覚える。
この人がNinety eightのメンバーだって分からなかったなんてことは無いはずだ。
最初にレイと行動を共にするって伝えた時にこちらに連絡するべきだろう。
アイリを連れて帰った後ヨシカワたちを詰問してやる、とジュンは心の中で呟く。
ただ、今ここにいない2人を責めても仕方がない。
ジュンはそう思い、改めてレイに向き直り問いかけた。
「レイさん……Ninety eightのメンバーだったんですか。」
「メンバー……ねぇ。」
一瞬の間の後、今世紀最高に面白い冗談を
聞いたかのようにレイは高笑いする。
ジュンはおかしな事を言ったかどうか判断はつかず、
高笑いし続けるその姿にただただ不気味さを覚える。
「まぁ、そんなもんよ。」
「……どうしてもそこは通してもらえませんか、」
「通りたいなら、どうぞ。」
私を倒して通れ、といわんばかりに戦闘の構えをみせる
レイの右手には鈍く光る黒紫の短刀が握られている。
あれは、ランクS装備『紫電』だ。
期間限定で実装された日本風特別ダンジョンの
「江戸城」でのみ手に入れることが可能だった装備だ。
このダンジョン、攻略途中のマップにも即死級の罠が
多数仕掛けられているうえ、なんとかダンジョンボスのトクガ・イエヤまで
たどり着いたとしても防御力が固すぎるために
倒すためにまともにやって半日かかるというマゾ仕様だった。
極めつけは、トクガ・イエヤを倒しても
第2段階のヌラーリ・ヒョンに変態してからは
全く攻撃が当たらないという始末で、とうとう
クリアしたプレイヤーはでなかったという認識だった。
自分は短刀にあまり興味がなかったので
ダンジョン攻略に乗り出したことはなかった。
クリアすれば『紫電』が手に入ることは知っていたが、
本当に手入れた人がいるとは。
先ほどの斬撃スピードから見るに、彼女は少なくとも80lv以上。
事前のブリーフィング情報と合わせればギルド3位の83レベルプレイヤーだ。
しかし、ギルド3位のプレイヤーは、”レイ”何て名前だったか……?
しっかりと記憶していなかった自分を呪う。
そして、今はそれを確認する余裕はない。
彼女は83lvだ。
強力な短刀とユニークスキルのコンビネーションで、
どんな攻撃を仕掛けてくるかわからない。
本気をださなければならないな。
背負っていたアイリを優しくベッドに横たえる。
「すみません、アイリさん。もう少し待ってくださいね」と小さく声をかける。
ジュンは改めてレイに向き直り、大鎌を右手に出現させる。
そして、レイとの間合いを図る。
「いつでもどこからでもかかってきなさいな。」
レイは先ほど斬撃を放った位置から全く動いていない。
こういったときは、先に大ぶりな攻撃を仕掛けた方が負ける。
間合いを適切に保ち、相手の攻撃が当たらないところから
自分の攻撃を繰り出す。
PvPの基本だ。
余裕な表情のレイにまずは、3mの位置までステップで近づき、
ダークスラッシュを放つとともにすぐにステップバックする。
ヒット&アウェイだ。
しかし、レイはダークスラッシュをいとも簡単にはじいてしまう。
そもそも、はじかなくても大したダメージは入らなかっただろう。
通常のスキルではこのlv差で与えられるダメージはほとんどない。
狙うは、クリティカルヒット、その1点だ。
レイを翻弄するように縦横無尽にステップを繰り返しながら、
間合いに近づいたと同時に何度もダークスラッシュを放つ。
1発・2発・3発…と放ち、そのすべてをレイははじく。
数十発放った頃だろうか、憤ったレイが叫ぶ。
「もう、うざったいわね!」
レイは一直線に高速なダッシュステップで近づいてくる。
この瞬間を待っていた。
レイがダッシュするのと同タイミングで大鎌をレイの首元めがけて投擲する。
「あっ……ぶないわね!」
レイは一瞬驚いたような表情を見せつつ、
それを短刀で右上方へと弾いた。
レイは、弾いたあとジュンに再度ロックオンしようと顔を正面に向ける。
しかし、そこにもう俺はいない。
レイが大鎌をはじいた右上方。
レイがはじく前から大鎌が弾かれる先に先回りしておいた。
ダークスラッシュを何度もレイに向かって放ったが、真正面から放った際には
はじく方向が、ほぼ右上方だった。
大鎌もダークスラッシュ同様正面から投擲すれば、
右上方に弾かれると予想するのは、難しくない。
既に回り込み、はじかれた大鎌をキャッチ、
レイの真上から猛スピードの急降下斬撃を放つ。
もちろん、首元めがけて。
武器の投擲を、戦いをあきらめるかわりに不意を突いて
一矢報いてやろうというイタチの最後っ屁だと思ったのだろう。
価値を確信した瞬間が一番油断する。
実際、レイは急降下して首元に斬撃を運ぶジュンに気が付いていない。
いまだにジュンを探して回りをみてきょろきょろしている。
自分が弾いた上方方向に投擲の主がいるとは思わなかったのだろう。
上方から放たれた高速の斬撃は、
レイの首もとを切り裂いた。
頭と胴体が離れ、深紅の髪をした頭部が
柔らかそうな床に鈍い音を立てて落ちる。
……勝った。
不意打ちだが勝ちは勝ちだ。
油断した隙をついて、ユニークスキルが使う前に
クリティカルヒットができてよかった。
倒れたレイを確認しようと切り裂いたレイの体に目をやると、
あろうことか、黒い煙をたてて霧散していた。
通常、切り裂いたプレイヤーオブジェクトは一定期間残るはずだ。
黒い煙を放って霧散するのはあのスキルのみだ。
「残念だったわね。」
ジュンの背後には何事もなかったように立つレイの姿あった。




