第18話:危機
「…うっ。」
このゲーム、プレイヤーを倒しても経験値などは入らないが、
プレイヤーキルの証である「カルマ」マークがたまる。
いわゆるプレイヤーキラーを判別するためのマークだ。
1人倒すごとに1ずつ増えていき、
10を超えたときに禁忌スキルを獲得するのと引き換えに
プレイヤーキラーとしてゲーム内で指名手配される。
禁忌スキルは、プレイヤーを倒す数が多くなるごとに増えていくようだ。
聞いた話だと、基本的な禁忌スキルは、
プレイヤーに与えるダメージに追加ボーナスが加わるという恐ろしい仕様だ。
この非常に”ユニーク”なスキルを得る代わりに、一生追われる身だ。
指名手配が解除されるためには、
カルママークがなくなるまで他のキャラクターに倒されるか、
善行を積むかしなければならない。
ちなみに、1人倒せば1カルマ得られるが、
1カルマ減らすには10度ほかのプレイヤーに倒されなければならない。
カルマプレイヤーは、1度倒されると経験値が10%減るうえ、
2時間程度各ステータスに重いデバフがつく。
一方でカルマプレイヤーを倒したプレイヤーには、
カルマの度合いに応じて報酬を与えられる。
善行については、各地のクエストやプレイヤーからの
依頼にこたえ続けることで徐々に回復させる方法だ。
プレイヤーからの依頼にこたえ続けることが一番手っ取り早いが、
NPCのクエストと違っていつでもそうしたクエストが
存在するわけではないので、これもまた大変な道のりだ。
なお、カルマプレイヤーがカルマプレイヤーを倒しても
カルマ度合いは上がらない。
プレイヤーキラーをしないプレイヤーを倒すことでのみ
カルマが積み重なっていくというものだ。
つまり、先ほどのパラディンはプレイヤーキラーではないということだ。
闇ギルドに所属しつつ、プレイヤーキルをしていないのか。
なんだか複雑な気分だ。
ジュンのカルマは初期段階の1。
これはクエストをこなしていれば自然と治る程度だ。
ヨシカワの権限で下げてくれといいたいが、
おそらくデータをいじることは不可能なのだろう。
「アンタ、やるじゃない。確かに低レベルのプレイヤーが逆転勝利するにはクリティカルヒットしかないわね。」
背後から先ほどの戦いを見ていたレイが声をかける。
「あなたのプレイヤースキルが高かったのかしら、それともパラディンのスキルが無さすぎたのかしら?」
「さぁ……。いずれにしても、たまたま、だと思いますよ」
クリティカルヒットは、単純に首を切ればいいというものではあるが、
当然そのことはプレイヤー全員が理解している。
そうした中で慣れているプレイヤーであれば
当然対人戦では首をガードするものだ。
特に低レベルプレイヤーとの戦いの中では。
だからこそ、先ほどのパラディンも防御を強く固めたのであろう。
一旦、盾に打ち込ませてカウンターでもとるつもりだったのだろうと思う。
しかし、これはパラディン側の対人戦経験不足からか、
後ろから鎌を回されてクリティカルヒットを
狙われるところまでは思い至らなかった。
プレイヤースキルやノウハウを磨きあげれば、
レベル差もひっくり返せるのもMalice Onlineの醍醐味だ。
ただ、同じようにプレイヤースキルやノウハウを磨き上げているプレイヤーで、
レベル差が生じれば圧倒的に高レベルのほうが勝つ確率が高くなる。
早くレベル上げをしていくぞ、と改めて心に誓ったジュンであった。
警備をしているパラディンが持っていた鍵を拾い、
アイリが捕らえられているゲストルームの扉を開ける。
中は約60平米くらいのかなりの大きさになっていて、
奥に置かれたベッドにアイリが寝ていた。
ショックで気絶したのか?
攫われてから数十分しか経っていないのに
寝ているのはおかしい。
アイリは、ジュンとレイが扉を開けて入ってきたことには気が付かず、
ずっと眠りについているようだ。
アイリを揺り動かし、起こそうとする。が、起きない。
やはり、おかしい。
一時的な眠り状態に入っていても大体揺り動かせば起きるものだ。
ゲーム中にプレイヤーをここまで深い眠りに陥らせる方法が
あるとは聞いたことが無い。
「アイリさん、アイリさん。起きて下さい」
「うぅん。」
だめだ、全く起きない。
……。
むむ、しかし、寝ている姿も美しい。
今なら少しぐらい触ったりしても、ば、ばれないか?
「ねえ、なに呆けてんのよ。」
「はっ。」
あ、あぶないあぶない。
申し開きのできない部分に手が伸びかけていた。
ジュンは、「アイリと合流したものの、不自然なほど深い眠りについています。
とりあえず、このまま抱えて帰ります」とヨシカワに連絡する。
相も変わらず返答はない。
返事がないというのは、
「問題ない。続行せよ。」の意であろうが、
ちゃんと見てくれているのだろうな。
眠っているアイリを背負い、この屋敷を後にする準備を進める。
「すみません、レイさん。この子を連れて帰ります。ここから出れば、僕のやりたいことは終わりです。」
「そう。」
ゲストルームを後にしようと扉に向かう。
すると、レイが扉の前に仁王立ちで立ちはだかる。
鮮やかなチャイナドレス風の服に
あしらわれた龍の刺繍も相まって強大な威圧感を放っている。
背筋に冷たいものが走る。
「えっと…すみません。道を開けてもらえませんか。」
「まぁ、このままいかれちゃうとちょっと困っちゃうのよね。」
それはどういう意味か、
という言葉がでかけた瞬間、
強い殺気を感じて眠ったアイリを抱えたままステップバックする。
ジュンがいた場所にはレイが振るった斬撃の軌跡が残る。
「よく避けたわね。褒めてあげるわ。」
今の斬撃、間一髪避けることはできたが、
明らかに80lv以上のスピードだ。
信じたくはないが、絶対に遭遇すべきでない相手……
Ninety Eight Percentのギルド3位と遭遇してしまったのだ、そう悟った。




