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少年機関士と白い油 "JungFyhrer un VajxOyl"  作者: じんべい・ふみあき
3章 〈白い油〉と密輸団の罠
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22/31

21 装甲列車、来る


 フランツが三人に説明をしていた、同じ時間に。


 リンテはパオロ号の屋根であぐらをかいていた。

 両手は頭の上で、正面には黒服の男が二人、銃を片手にリンテを見張っている。

 しかし、リンテに銃のことを気にするそぶりはない。理由は簡単「さっき撃たなかった」からだ。

 

 リンテは不機嫌さを全開にして、目の前の黒服凸凹コンビを下から睨む。

 「ちょっと、ノド渇いたんだけど?」


 「だからなんだ?」

 ひょろ長いヤギ黒服が、いかにもうるさそうに聞き返す。


 「運転席から、水、取りたいんですけどー?」


 「ダメに決まってるッス!」

 答えたのはとなり、ふとっちょで背の低い、子豚ちゃん風の黒服だ。

 その包帯ぐるぐる巻きの頭には、まるでジャガイモのようなたんこぶが、真っ赤になって盛り上がっていた。


 「さっきみたいにスパナで殴られたらたまんないッス!」

 子豚ちゃん黒服がたんこぶを指して吠えた。


 彼はついさっき、リンテの〈特大スパナ〉で殴られたばかりだ。

 「暑いから上着を脱ぎたい」と言ったリンテに、一瞬のスキを突かれたのだ。

 やっとの事で武器を取り上げたのに、運転席で次の武器を調達されたのではたまらない。


 リンテは舌打ちして、武器の調達をあきらめた。


 「まあそういうことだ。さっきは油断したが次はそうは行かん。しばらくは我慢してもらおうか、お嬢ちゃん」

 ヤギ黒服が、紳士くさった態度でリンテに声を投げる。

 だがその視線は、声とは裏腹にとても下品だ。まるでなめ回すようにネットリと、彼女の体を上から下へと這い回る。


 (ああもう、勘弁してよ気持ち悪い!)

 いいかげん気分が滅入ってしまい、リンテは顔を上半身ごと背ける。


 横を向いたリンテには、最後尾の貨車に取り付いてあれやこれやと作業する、黒い作業服姿の男たちが見える。

 その数ざっと十数人。結構な大人数だ。

 (そりゃまぁ、密輸「団」だしね。一人二人じゃないとは思うけど、大すぎじゃない? それに、空の貨車なんか調べて、何してんのかな……)


 リンテはフランツから、ここ数日の事情を詳しく聞かされていない。彼女が〈白い油(ヴァイシュオゥル)〉のことを詳しく聞くのも、この後になってからだ。

 だから当然、密輸団が何をしたいかなんて、知っているはずもない。


 そんな、不満と疑問でむくれるリンテに構うことなく、黒服二人は拳銃片手の内輪話で盛り上がっている。

 内容に興味があるわけじゃないが、他にすることもない。

 リンテは黒服コンビの会話に耳を傾けた。


 「それにしてもカルステン兄貴、無事に見つかってよかったッスね」


 「まったくだともヤーコプ。まったくだ。一時はどうなることかと思ったぞ。団長からお仕置きを食らうところだったからなぁ」

 ヤギ黒服、カルステンというらしい、がヒヒヒッと心寒そうに笑う。


 「にしてもまさか、あっちが四両目などとは、つゆほどにも思わなんだわ。道理で見つからんはずだ」


 「そうッスよ。機関庫からいつ出てくるか、見張りながらヒヤヒヤしたもんッス」

 言いながら額の汗をぬぐう子豚ちゃん黒服。こちらはヤーコプというらしい。


 (どっちの名前も、偉そうで似合ってないなぁ)

 どうでもいいことを考えて、リンテは時間を潰そうとする。


 「しかしまぁ、おかげで罠を張るのに団長の手を煩わせてしまったな。ここら辺の中継局をを押さえるのは大変だった。しかし、あいつらまだ終わらんのか? 長引くとまた団長の機嫌が……」

 とカルステンが首を伸ばす。


 そこへ待ってましたとばかりに、黒作業員の一人が、ハシゴを登って屋根の上に顔を出した。


 「カルステンさん、すんません。仮修理で板が張り付けられてて、人力じゃ外せないみたいです。いま団長たちの車に応援呼んだんで、今のうちに心の準備しといてください」

 軽薄な作業員の報告。

 それに対して、なぜか「おぉぅ」とうめき、頭を抱えてガタガタと震える黒服二人。


 作業員は下り際にリンテをチラッと見て「ヒュー、楽しみだ」と口笛を吹いた。


 その態度に無性に腹が立ち、リンテはスパナを投げてやろうかと思ったが、残念、愛用の武器はヤーコプの手の中だ。


 (くっそー、何か言わんとムカムカが収まらん!)

 リンテは腹立ち紛れに、黒服二人に声をかける。

 「ちょっとオッサンたち、なに探してるか知んないけどさ。あの貨車、空荷だよ。なんも入ってないよ?」


 黒服二人は一瞬ピタッと動きを止めると、次の瞬間には盛大に笑い出した。

 その態度に、リンテは本格的にむかっ腹が立つ。


 「んだよ!?」


 カルステンがいかにも芝居がかった様子でかぶりをふり、リンテに身を乗り出して指を突きつけた。


 「いやいやいや、お嬢ちゃんすまんねぇ、あんまり可笑しかったもんでね。……はぁ、いやお嬢ちゃん。あの貨車にはちゃんと積まれてるのさ、あの、〈白い油(ヴァイシュオゥル)〉がね」

 たっぷり、もったい付けてそう宣言するカルステンだったが、もちろんリンテには何のことだかわからない。


 「あにそれ? 食えんの?」

 即答するリンテ。


 格好付けたまま、カルステンがピシッと凍る。


 「あの、て言われてさ、どの、て感じだし。白い油って、ドレッシングか何か?」

 腹いせ半分のリンテの追い打ちに、カルステンが白く燃えつき灰になる。今にも風に散ってしまいそうだ。


 そんな彼に代わって、額に青筋を浮かべたヤーコプが身を乗り出した。

 「〈白い油(ヴァイシュオゥル)〉を知らないなんてヒジョーシキな女ッス! いいッスか? 〈白い油〉ってのはスッゲー禁輸品ッス。高いんスよ! マジ高いんスよ! バケツ一杯売ったら、一生遊んで暮らせるッスよ!」


 「ふーん、そーなんだ……って一生遊んで? マジで? スッゲーじゃん」


 「そーッス! それがウチらの荷物ッス。偽物の圧力タンクに入れてあるんスよ! どーだッスか!」


 鼻息も荒く無駄に胸を張るヤーコプから、リンテは暑苦しそうに顔を逃がした。


 「なに偉そうにしてんのか、わかんないんですけど…………じゃあなに? オッサンたちまさか、この何もない場所で、人力でタンク外す気なの?」


 「その予定だったんだが、見ての通り上手くいきそうもないんでな。まぁ、応援を呼んだというわけだ」

 ようやく復活したカルステンが説明し、なぜかヤーコプのとなりで同じように胸を張る。


 無意味に偉そうにする二人を、リンテはジトッとした目で睨め付けた。


 「あっきれた。なにそれ……まるで考えてないじゃん」


 「なんだとッス!」ヤーコプが拳銃を振り回して怒る。


 しかしそんな相棒を、カルステンは左手で押さえる。そして、彼は締まらない包帯顔に、いかにも悪そうな笑いを浮かべた。

 「はははっ、威勢のいい嬢ちゃんだ。どれ、私たちにも考えがあることを、ちょっと教えてやろうじゃないか」


 カルステンはしゃがみ込むと、銃の握りでパオロ号の屋根をコンコン叩いた。

 「さすがに、列車が向こうに着かないと、保安隊シュトレジが出る騒ぎになるからな。タンクを取り外したら私たちは隠れて、この列車はちゃんと動かす予定なのだ」


 「それって、あたしを解放してくれるってわけ? あたしが、ここにあんたたちがいまーす、とかしゃべんないと思ってる?」


 リンテの挑発に、しかしカルステンは乗ってこない。

 彼はニヤニヤと笑って首を横に振った。

 「もちろん思ってない。だから、お嬢ちゃんは私たちと一緒に来てもらう。この機関車には、別の機関士に乗ってもらって、フェルナ・ブルッハイに着いたら乗り捨ててドロン、という具合だ」


 「なら、その後は? あたしはどうなるのよ?」


 スルッと立ち上がるカルステン。格好付けた仕草でヤギひげに手を当てる。

 「さぁて、どうなるかな。ま、そのまま帰しはしないから、せいぜい怖がるといい」


 「そおッス」となりでヤーコプまでもがニヤニヤと笑う。


 「こんなガキだと値は下がるッスけど、人買いに売るという手もあるッスねぇ。まぁ、その前に俺たちが楽しんだ(・・・・)後になるッスけどねぇ、ケケケッ」


 「こら、ヤーコプばらすんじゃないよ、楽しくないだろう? ハハハハハッ」


 何が面白いのか、声を揃えて笑う二人。


 リンテは面白いどころか、青筋を浮かせて怒り心頭だった。

 (黙って聞いてりゃこの有様! てごめ(・・・)ついでに人買いコースとか冗談! ふざけんな、()ぁ噛み切ったろか!? ラッツならともかく、ヤギとブタ相手にそんな趣味あるもんか!)


 リンテがわりと真剣に飛びかかろうとしたその時、ボウォォーゥという、低いうなりの汽笛が谷に轟く。


 「なに!?」


 とっさに見回したリンテは、すぐに汽笛の主を見つけた。

 廃鉱山に続く線路の向こうから、黒塗りの列車が近づいて来る。

 それは、とても古い型の装甲列車だった。四方を分厚い鉄板でおおわれ、まるで走るレンガブロックのようだ。

 一度壊れたのだろうか、鉄板にはあちこちツギハギが見える。後ろには平積み貨車が何両かつながれ、上には小さな電動トラックや、背の高い蒸気クレーンなどが乗っている。

 

 装甲列車は、手入れの悪い線路をガシギシと鳴らしながら、まるでリンテを押しつぶそうとでも言うかのように、威圧感たっぷりに走ってくる。


 「うそ……何あれ?」


 「あれが」居住まいを正したカルステンが、ヒゲと鼻を上に向ける。


 「私たちの装甲列車〈ユーヴェルキステ(宝石箱)号〉、だ」


 (宝石箱っていうか黒いゴミ箱? とにかくカッコ悪い)

 心のすみでそう考えながら、リンテは奥歯を強く噛みしめた。どうやら、事態を何とかするための時間は、それほど残っていないらしい。

 

 パオロ号に近づいた装甲列車が、ブレーキをゴリゴリと鳴らして停車する。


 リンテは思わず天を仰いでつぶやいた。


 「……ラッツ、どうしよ?」

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