逃亡
何事もなく帰ってきて、夕食を食べようかというときだった。
「……表が騒がしいな。」
緊張した面持ちでオリジンが言った。
「参ったね。奴らやっぱり諦めてくれなかったか。」
木々に紛れて蠢く人影を観察しながらクロウはため息をつく。オリジンが漂う火薬の匂いに顔をしかめた。
「奴ら、鉄砲なんて持ってきやがって。ミランを巻き込んでも構わないってことか?」
「完全に巻いたはずだった。何故こんなすぐに嗅ぎ付けられたんだ。」
『まさか―』
二人がゆっくりとミランを振り返った。
「何か心当たり無い?」
「誰かに触られたとか 。」
ほぼ同時に問うヴェリタ、ミランは困って、なんとなく服の襟に触れた。その時、指の先に当たる何か。
「え、何、これ。」
剥がしてみたそれは金属片のようで、恐らくは―――
『発信機!!』
「そういえばお店の人に「襟が曲がってるよ」って言われて、直してもらった…。それ……?」
「マジかよ…ちくしょう。」
「オレたちの家も知られたね。逃げ場が無い…。」
オリジンは発信機を踏みつけたが意味を成さない、クロウは考え込み爪を噛んでいる。しばらくどちらも打開策を見つけられずにいた。が、不意に顔を上げ決意の強さを表すように深く同時に頷く。
「ともかくミランを逃がそう。」
「町まで行けば多分、それ以上狙われることはないだろうね。でも戦いながらは難しいし…。」
また悩み始めるクロウに
「オレが囮になってやるよ。」
オリジンが非常にいい顔で宣言した。
「!いやそういうことは―――」
「つべこべ言うな。ちゃんと見送ってこい。敵の準備が整う前に。」
クロウは腑に落ちない様ではあったが、ミランの手を掴んで走り出した。オリジンも間を置かずに敵の前へ躍り出た。
…銃声と敵の叫びが後ろから聞こえてくる。森の木々に隠されながら二人は疾走する。
「いいの!?たった一人じゃ無理だよ!!」
「わかってる…!!」
ギリッと歯ぎしりしながら、スピードは落とさないクロウ。
「オレもすぐ戻らないと。残念だけど町が見える所まで行ったら一人で帰ってもらうよ。」
彼の背中を見ていて、ミランは不思議だった。オリジナルであろうとクローンであろうと、人であることは違いない、心を持った一人に違いないのにどうして生きることを許されないのか…?彼らの命を狙う大人たちへの怒り、自分の無力さ。ミランはどうしようもなく悔しかった。




