9話 婚約者様、初めましてですわ
謎の買い占め事件から数日。
父、母、兄と揃って、とある場所に訪れていた。
「ようこそお越しくださいました」
「このような辺境の場所に、誠にありがとうございます」
中から現れたのは、屈強な肉体を持った男性と、これまたドレスに身を包んではいるが、きびきびとまるで兵士のような動きとした女性。
「辺境伯、お招きいただきありがとうございます」
「メディリーア様、お久しぶりでございます」
「お会いできるのを楽しみにしておりました」
ガルディア伯爵と、辺境伯と呼ばれた方はがっしりと握手をし、アナストリアは、メディリーナ様と再会を喜び合った。
アークもお二人とそれぞれ握手を交わした。
・・・ものすごい歓迎ぶりだなあ。
ルティはニコニコしながら、皆のやり取りを眺めていた。
一通り挨拶が済んだ頃、辺境伯がルティの方を見やり、しゃがんで手を差し出した。
「ルクレティア、ご挨拶を」
ルティは、ハッとして、
「お初にお目にかかります、ガルディア伯爵の娘、ルクレティアと申します。以後お見しりおきくださいませ」
「なんと、バーガン辺境伯だ。よろしく」
辺境伯は、驚きに満ちた顔をし、その後破顔した。
「申し訳ない、息子は今狩に行っており、もうしばらくしたら戻る予定です」
「皆様に、ご馳走様するんだと張り切ってしまって・・・」
辺境伯達は、そう言いながらルティ達を応接室へと案内した。
お茶とお菓子が出され、たわいない話が続いた頃、辺境伯夫人がとあるものをメイドから受け取って、机に置いた。
「アナストリア様、こちらがお伝えしていた魔石ですわ」
置かれたのは、人差し指の長さの青い石だった。形は少しゴツゴツし、いびつではあるが、海を閉じ込めたような深い青をしていた。
・・・すごい、なにあれ
「まあ、これが」
夫人は、メイドに命じアナストリアが手に取れる位置に石を運んだ。
そっと優しく取り上げるアナストリア。
ルティにも見えるようにして、観察をする。
「さすが"深蒼"と言われる魔石ね」
耳慣れない言葉に、ルティは首を傾げる。
「その魔石は、この国ではなく、隣国にのみ生息が確認されている、海の魔物の魔石なんだよ」
アークが優しく解説をしてくれた。
「さすがアーク殿」
辺境伯が、伯爵に向かって言う。いやいや、といいながらも嬉しそうな伯爵。
ルティは、そんな周りの話が聞こえていないのか、じっと、魔石を見つめ続けていた。
「他にもいくつか手に入れた素材がありますの」
ルティの様子を見た辺境伯夫人が、さらにメイドに素材を机に運ぶように命じた。
「まあ、あなたは昔から、珍しい素材を手に入れるのに長けていたわね」
懐かしいわと、微笑む伯爵夫人。
す、すごい、すごい
机の上は、さらに10ほどの素材が置かれた。
素材は多岐にわたっており、いずれもルティが目にしたことがないものばかりであった。
ああ、じっくり手に取って確かめたい、匂い、匂いを嗅がせてーえ
「ルクレティア」
伯爵夫人に名前を呼ばれ、あわてて居住まいを正すルティ。
ふふと、微笑む辺境伯夫人。
「気になるものがあれば手にとって観察していいのよ」
「本当ですか!?辺境伯夫人」
「ルクレティア」
思わず立ち上がって、叫んでしまうルティを嗜める伯爵夫人。
「申し訳ありません」
しゅんと、落ち込むルティの頭を撫でるアーク。
「ルクレティア、見せていただきなさい」
伯爵が助けを出してくれる。
ぱあっと笑顔になるルティ。
「では、そちらの紫色の草でしょうか?そちらを見せてください」
メイドが渡してくれた素材をまじまじと見つめるルティ。
紫色の草、なんて綺麗な色をしてるの!?これはなんなのかしら、元々この色味なの?!それとも加工されているの?ちょ、ちょっと匂いを・・・
「ルクレティア」
ルティから不穏な雰囲気を感じ取ったのか、再び伯爵夫人から名前を呼ばれる。
に、においは我慢・・・
じっと、観察するルティ。
ふ、と気になることを言葉にしてみた。
「こちらは、草の一部分を加工したものですか?」
伯爵夫人は、驚きながらも答えてくれた。
「そうですよ。パルファンという草の茎の部分のみ切り落として、乾燥させたものなの」
なるほど、パルファン・・・
伯爵夫人にお礼を言い、また見つめ続けるルティ。
伯爵はははっと笑い。
「これは将来有望ですなあ。学生時代の貴方を思い出しましたぞ伯爵夫人」
「恐れ入ります、ルティはうちの素材の管理も担当しているのですよ」
「なんと、それは」
わいわいと盛り上がり始めた大人達をよそに、ちゃっかり他の素材も、観察を始めたルティであった。
ひとしきり、素材を堪能した頃、扉が開いた。
「大変遅くなりました、父上、母上」
「ぼっちゃま、お客様がお見えです。まずはお着替えを、魔物をこちらに」
扉の前にいたのは、自分で仕留めたのだろうか、鳥の魔物と思われるものを手に持った、土や血で汚れた服を着たルティと同じ頃の少年。
「フレド、お帰り。狩りは上手くいったようだな。さすが私の息子。だが、伯爵方がとっくにお見えになっている早く身支度を整えてこい」
辺境伯は、褒めつつも出直してくるように促す。
フレドと呼ばれた少年は、慌てて居住まいを正し、一礼をして出て行った。
「躾がなっておらず大変申し訳ない。しかし、獲物が手に入ったようなので、楽しみにしてて頂きたい」
「遅くなって申し訳ありません、辺境伯が息子のフレドと申します」
身支度を整えてきたフレドが丁寧な挨拶をする。
「本日は、よくお越しくださいました。ルクレティア様、初めまして、貴方と婚約出来ること、とても嬉しく思っております」
にこにこ笑顔でそう告げるフレド。
前には、フレドが狩ってきたであろう魔物の料理。ほかほかと湯気を立てている。
「初めまして、ルクレティア・ガルディアです」
「では、冷めないうちに召し上がってください」
辺境伯の号令で食事会が始まる。
まさか魔物料理が食べられるなんて!!
ありがとう、婚約者様。




