第5話 余すとこなく探索ですわ
午後は日差しが強くなるため、午前中早々に庭に出てこられたルティ。
「さ、カモミール、カモミール。どーこかなー?」
うふふ。と笑みを浮かべながら軽い足取りで庭に出る。
「ーーっすっごい!」
さすが…貴族…伯爵だっけか、スケールが違うわあ。
前世で見た、日本の有名な庭園すら霞んでしまうほど、壮大な光景が広がっていた。
赤、黄、白、桃、緑、花もあれば樹もある。
それらが美しく配置されており、目にしたものの心を奪うには、十分なものだった。
「素敵…」
「気に入っていただけましたかな」
近くに、帽子を被った大柄の使用人が来ていた。
「お嬢様、この庭の管理長をしているゼンです」
ミアナが紹介をしてくれる。
帽子を脱ぎ、お辞儀をするゼン。
「ゼンと申します。お嬢様」
「ゼン、今日はよろしくお願いします」
この庭を手がけている人の、まとめ役かー!
「時間をとってくれてありがとう。早速だけど、色々聞きたいし、見たいの」
「では、歩きながらご紹介します」
少し驚いた表情をするゼン。すぐに笑顔になり、ゆっくりと促してくれる。
「カモミールが見たいとお聞きしましたので、まずはそちらからご覧いただきましょう」
さすがミアナしごでき。
事前に要望を、伝えておいてくれたようである。
少し後ろを歩いてるミアナを振り返り、にこりと笑いかける。
ミアナも笑顔を返してくれる。
「こちらがカモミールです」
そこには、白い花がたくさん咲いていた。
うん、前世の記憶にあるカモミールと一緒だわ。名前まで一緒なのは不思議だけど…ありがたいね。
「もう少し近づいてみても良いかしら?」
「ええ、どうぞ」
すずっと、花壇ギリギリまで近づいて、しゃがみ込み、花を観察する。
「お嬢様!」
おっと、スカートが地面に触れてしまったようである。ミアナごめんね。お叱りは後でまとめて受けるから今は集中させて…
「葉の緑も鮮やかで、花もみずみずしい…茎も太い…うん、うん」
ぶつぶつと、つぶやきながら観察をする。
メモを持ってくれば良かったと、内心舌をうつ。
と、そこにひょっこり緑色のモゾモゾが現れた。虫さんだ。
「お、お嬢様!」
慌てるミアナ。
すかさずゼンが取り除こうと、手を伸ばしてくれる、が、その前に。
「あーごめんねー。見せてねー」
ひょいと、虫さんを掴みあげ、そっと地面に下ろす。
「お、お嬢様」
さっきとは、別の意味で慌てるミアナ。
しまった、ルクレティアは、虫得意じゃなかったのかな。そういえば、女の子って虫苦手な子多かったような気がする…
「はっはっは」
ゼンさんの大きな笑い声。
「お嬢様、お強くなられましたなあ。去年は見かけただけで、悲鳴をあげられてたのに」
そう言って、うんうん頷いている。
あれ?これやばい?
「そ、そう。私ももう10才だし。いつまでも怖がってばかりいられませんわ!」
ど、どうしよう。誤魔化せたかしら…
チラリとミアナを見る。
何か察してくれたのか、にこりと微笑むミアナ。
「お嬢様、お時間が限られていますので、カモミール以外もご覧になられますか?」
ナイス!ミアナ!
「そ、そうね。ゼン!お願いします!あ、あと私にもいくつかカモミールをいただけるかしら?自分で加工がしたいの」
「かしこまりました。後ほどお届けいたします」
庭には、前世で見たことがあるような様々な花が美しく配置されていた。中には、見知らぬものもちらほらあった。
「ありがとう…世界!」
心の中の叫びが止まらず、ミアナにたしなめられながら、さらに庭の奥に進んでゆく。
「こちらが温室です。こちらは主にルクレティア様のお兄様のガルディア様が管理なされています」
温室まで…!お兄様とは仲良くなれそうだわ!まだ会ってないけど!
「では、入りましょう」
くしゅん。ちいさなくしゃみひとつ。
あら?
「お嬢様、今日はこちらで切り上げて、お部屋に戻りましょう」
「わ、私なら大丈夫よ」
ーっくしゅん。
ふう、とため息をついたミアナに手を引かれて、屋敷へと戻ってゆく。
あああ私の温室ううう。っくしゅん。
午後は、念のため身体を休めることになりました。
みなさま少し早いですけど、おやすみなさいませ。
温室…。ああ未知の薬草とか…あったの、か…
「…自分で加工がしたいなど、変わっていらっしゃる」
「そうですね」
ルティに頼まれたカモミールを刈り取りながら、ゼン達がそんなことを話していた。
ーー以前のお嬢様とは少し違う。そんなことを思う、使用人達なのであった。




