第2話 どんな宝石も価値があるのですわ
カモミールティーの衝撃から、すでに数日が過ぎていた。
数日で改めて確認したのは、ここは、魔法が使える世界である、という事。
残念ながらルティには、魔法の才能は欠けていた。
どうやら自分は10歳らしい。年齢を鑑みても、魔力量が乏しく、魔法を取り扱う技術も、元々そんなのがない世界から来たのだ。すぐに使えるようになるわけがなかった。
「まあ、構わないけど」
魔法の力は、どうやら第一子である兄が、とてつもない力を有しているらしい。
自分は、他のことに邁進させてもらうとしよう。
そう、素材である。
「すごい、すごい、すごーい」
ルティの目の前には、色とりどりの宝石が並んでいた。
例の衝撃事件の翌日。
朝の身支度を女の子ーーミアナというらしい、聞き出せたーーに手伝ってもらい、身支度を済ませた。
今日の予定は、午前は魔力についての勉強、午後は、宝石商が来られます。と告げられた時から、ワクワクしていた、待ちに待った瞬間だった。
「アナストリア様、ルクレティア様、お久しぶりでございます。」
どうやら馴染みの宝石商のようである。微かにルクレティアとしての記憶にある。
少しふっくらとした、愛嬌を感じる顔立ちだが、瞳の奥には、勝機を逃さない、迫力を感じさせた。
「本日は、ルクレティア様の誕生の儀用の宝石、以前ご希望をいただきました石を、お持ちいたしました。また同じ石で日常で使えるものも、取り揃えてございます」
商人が一緒に連れてきた、少し年若い、濃い茶色い髪色の使用人に、合図をおくる。使用人が、一つ一つ丁寧に、2人の前の、テーブルに置いていく。
「ルクレティア様のお生まれ月は、2月でございましたね。こちらがブルーサファイアでございます」
大小様々なブルーサファイアが並べられた。
光を纏いキラキラと輝いている。
「伯爵様と、アナスタシア様の瞳の色と合わせて、緑と、茶色の宝石はこちらでございます」
ブルーサファイアより、少し小ぶりな宝石が並ぶ。
「また、お兄様の瞳の色の赤もお持ちしました」
どうやらまだ会っていないお兄様は、瞳の色が赤らしい。
ーー緑、茶、赤…色とりどりでさすが異世界って感じねえ
緑と茶から、赤って産まれたかしら?ふ、と頭によぎるのは学生時代に習った遺伝の話し。
「どうぞお手に取ってご覧くださいませ」
「ありがとう」
そんな事を思っていると準備が整ったらしい。
アナスタシア様ーーどうやら私のお母様が、優雅に微笑みながら宝石を一つずつ確認してゆく。
ーーああっ幸せ。
ブルーサファイアは、これからアクセサリーに仕立てるのであろう、綺麗にカットが施されている、いわゆるルースになっていた。
緑、茶、赤は、ルースもあるが、既にネックレスや、イヤリングや指輪になっているものもある。
大人しくしなくてはいけないだろうなと、心の中で思いながらも、嬉しさを抑えきれない。
ふ、と年若い使用人が、お母様の侍女になにか手渡しているのが見えた。
ガラス瓶の中に、色とりどりの宝石の小さな小さなカケラがたくさん詰まっていた。
「そ、それ見せてっ!!」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて両手で口を押さえるルティ。
「ルクレティア、はしたなくてよ」
「…ごめんなさい、お母様」
お母様がたしなめる。
ふ、と優しい笑みを浮かべ、商人に、頷く。
商人が、使用人からガラス瓶を受け取り、ルティの前に置く。
「どうぞ、ご覧くださいませ」
お礼を言うのも忘れ、目を輝かせながら、そっとガラス瓶を持ち上げる。
青、赤、黄、白それぞれの形はとても小さいが、光を受け、キラキラと光り輝いている。
「…綺麗…」
ほう、とため息が漏れる。
「手にとってもいいかしら?」
お母様が商人に頷く。
使用人が、ガラス瓶の中身を入れるケースを、商人に手渡し、商人がルティの前に置く。
「ありがとう」
ガラス瓶の中の宝石のカケラを、一つ一つ丁寧に、そっとケースに並べてゆく。
色別、大きさに揃えてゆくことも忘れない。
「これは、ダイヤモンド…かしら?これは…ルビー?これは…」
集中し、周りの存在を少し忘れた頃。
「…出来た!」
以外と時間をかけていたのか、お母様、商人、部屋にいる皆の視線をようやく気がついた。
はっとし、少し気まずそうにお母様に笑いかける。
「あら、綺麗に並べられたわね」
お母様が褒めてくれた。
「はい、ルクレティア様は基本が出来ております」
商人もにこにこ笑顔だ。
「お、お母様、こちらはなぜ侍女に渡されたのですか?」
まだ慣れない呼び方で、若干どもってしまう。
そういえばと、気になったことを聞いてみる。
ああ、とお母様が答えてくれる。
「魔法具の素材になるのよ」
商人が続ける。
「アナスタシア様は、魔法具を作られる才能がおありなのですよ」
魔法具…さすが異世界…
「奥様、そろそろルクレティア様の、ダンスのお時間でございます」
お母様の侍女ーー侍女頭のマーサが言う。
「あら、もうそんな時間なのね」
お母様が、ルティを見る。
今日見た中で1番美しい笑顔で。
「さ、ルティ、お稽古してらっしゃいな」
楽しい時間は、突然終わりを告げた。




