第14話 他者
2026年9月29日 火曜日 午前6時54分
久世透は、目覚ましが鳴る前から起きていた。
机の上。
昨夜のノートが開いたままになっている。
『水城澪への情報開示』
その下。
『話す場合の条件』
一。
『能力を見せる前に、知ったことで生じ得る危険を説明する』
二。
『途中で断る権利があることを伝える』
三。
『研究協力を当然のものとしない』
四。
『人・動物への意図的損傷は禁止』
五。
『能力について第三者へ話さないよう依頼する。ただし強制はできない』
そして。
最後。
『水城さん本人に選んでもらう』
透は椅子に座った。
話す。
昨日までなら、それ自体を危険だと判断していた。
今も。
危険性が消えたわけではない。
能力の存在を知る人間が増える。
秘密が漏れる可能性も増える。
水城自身が巻き込まれる可能性も。
ゼロではない。
なら。
話さない方が安全。
それは正しい。
だが。
「……誰にとって?」
透は呟いた。
自分にとって。
水城にとって。
同じとは限らない。
危険だから話さない。
それは。
相手のために見えて。
相手の判断を、自分が代わりにしているだけかもしれない。
透はペンを取る。
『開示するかどうかを決めるのは俺』
その下。
『開示された後、関わるかどうかを決めるのは水城さん』
「……これだな」
ノートを閉じた。
*
午前8時17分
通勤電車。
スマートフォンが震えた。
悠真。
『昨日大丈夫だった?』
透は画面を見る。
『何が』
『お前んちの上』
『警察が来た』
『そうじゃなくてお前』
『問題ない』
数秒。
『ならいい』
続けて。
『警察の人も来たんだろ?』
『来た』
『また?』
『近くにいたらしい』
『絶対目つけられてんじゃん』
『分からない』
『例の刑事?』
『そうだ』
『こわ』
透は少し考える。
『俺は何もしていない』
『それは知ってる』
すぐに返ってきた。
透の指が止まる。
短い文章。
だが。
15年以上の付き合いがある人間から言われると。
妙に重かった。
『ありがとう』
送信。
10秒。
『お前最近素直すぎない?』
透は画面を閉じた。
*
午前8時39分 川崎警察署
「主任」
高瀬直人が椅子に座りながら言った。
「昨日のマンションの件、DVの可能性が高いみたいです」
榊原慎吾が顔を上げる。
「被害届は?」
「まだです。女性は事情聴取には応じてます」
「怪我は?」
「打撲。重くはないです」
「そうか」
榊原は資料を見る。
昨夜の通報者。
久世透。
「久世さん、本当に事件に遭いますね」
「自宅の上階だ」
「はい」
「遭ったというより、住んでいただけだ」
「分かってますよ」
「それに今回は、不可解な現象は何も起きていない」
「そうですね」
榊原は資料を閉じる。
高瀬が少し考えてから言った。
「逆に、重要だったりしません?」
「何が」
「久世さんがいたのに、普通に警察呼んだだけ」
榊原の目が高瀬へ向く。
「続けろ」
「主任、一応あの人と今までの変な現象を結びつけて考えてたじゃないですか」
「可能性以前だ」
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
高瀬は続ける。
「でも今回、久世さんがいた。事件も起きた。でも変なことは何も起きなかった」
「だから?」
「久世さんが何かやってるって考え、弱くなりません?」
榊原は少し考える。
「わずかにな」
「わずか?」
「仮に久世が何かできるとしても、毎回使うとは限らない」
「……主任、それズルくないですか?」
「何が」
「何も起きなかったら『使わなかった』。起きたら『使った』。それじゃ何でも説明できる」
榊原が笑った。
「その通りだ」
「え?」
「だから、その仮説には今のところ価値がない」
「自分で言うんですね」
「反証できない仮説は捜査には使えない」
榊原は資料を脇へ置いた。
「久世がいるときだけ不可解な現象が起きる、なら検証できる」
「でも違った」
「ああ」
「じゃあ?」
「今は何もない」
高瀬が少し安心したような顔をする。
榊原は別の資料へ手を伸ばした。
「昨日の転倒事故の方は?」
「そっち?」
「医学的な説明がつけば終わりだ」
「まだ確認中です」
「じゃあ待つ」
「了解です」
高瀬が自席へ戻る。
数秒後。
「主任」
「何だ」
「やっぱホームズ好きですよね」
「今それ関係あるか?」
「ないです」
「仕事しろ」
「はい」
*
午前11時47分
透は午前の打ち合わせを終えた。
スマートフォンを見る。
澪からメッセージが来ている。
『昨日、大丈夫だった?』
透は一瞬考える。
『何がですか?』
『なんとなく』
「……」
『大丈夫です』
『ならよかった』
『なぜ聞いたんですか?』
少し間。
『昨日からちょっと様子変だから』
透の指が止まる。
『メッセージだけで分かるんですか?』
『返信遅いし』
続けて。
『文章いつもより考えてる感じする』
透は画面を見る。
実際。
考えていた。
『よく見ていますね』
『研究者なので』
数秒。
『って言いたいところだけど』
『はい』
『久世さんが分かりやすいだけかも(笑)』
透は眉を寄せる。
『初めて言われました』
『でしょうね(笑)』
意味が分からない。
透は返信しようとして。
止めた。
代わりに。
『水城さん』
『はい』
『昨日の相談の続きですが』
既読。
『うん』
『近いうちに時間をもらえますか』
返信は早かった。
『いいよ』
続けて。
『ついに聞ける?』
透は少し迷う。
『その前に、説明することがあります』
『怖いやつ?』
『人によっては』
既読。
しばらく。
返信が来ない。
20秒。
『めちゃくちゃ気になるんだけど』
「……」
『そうですか』
『その返事おかしくない?(笑)』
透は少しだけ口元を緩めた。
*
午後0時28分
昼休み。
透はノートアプリに新しい項目を作った。
『水城澪への情報開示』
何を話す。
何を話さない。
能力の存在。
話す。
能力の基本的な特性。
必要な範囲で話す。
9月12日の事件。
保留。
警察。
保留。
覚醒条件。
保留。
性交経験。
不要。
射精経験。
不要。
「……」
最後の二つを消す。
現時点で説明する理由がない。
透は画面を閉じる。
人間関係まで。
実験条件のように整理している。
自分でも。
少しおかしいと思った。
*
午後3時42分 川崎警察署
「主任」
高瀬が資料を持ってきた。
「昨日の転倒した人」
「原因分かったか?」
「画像検査では大きな異常なし。ただ、腰椎由来の神経症状の可能性が高いそうです」
榊原が受け取る。
「本人、以前から右脚がしびれることがあったそうです」
「なら、それが第一候補だ」
「ですよね」
「事件性は?」
「ありません」
「なら終わりだ」
「早っ」
「何が」
「もっと疑うかと思った」
「合理的な説明がある」
「じゃあ12日の男も?」
「別件だ」
「似てるのに?」
「似ているから同じ原因だとは限らない」
高瀬が少し笑う。
「主任がそう言うと安心します」
「何が」
「まだ普通の刑事なんだなって」
「俺を何だと思ってる」
「ホームズに脳を焼かれた人」
「帰れ」
「勤務中です」
高瀬は笑いながら戻る。
榊原は転倒事故のメモを取り出した。
『9/27 右足運動不能』
その下に。
『腰椎由来の神経症状で説明可能性高』
と書く。
一本線を引いた。
消去ではない。
保留。
ただし。
優先順位は大きく下がった。
*
午後6時22分
透は会社を出た。
今日は実験をしない予定だった。
帰宅して食事。
風呂。
少しだけデータ整理。
それで終わり。
駅へ向かう途中。
小さな人だかりがあった。
「?」
透は歩みを緩める。
歩道の端。
高校生くらいの男子がしゃがんでいる。
その横で。
別の男子が慌てている。
「大丈夫?」
「分かんない……息……」
透は足を止めた。
呼吸が速い。
過換気。
パニック。
あるいは。
別の原因。
断定できない。
周囲の大人が声をかける。
「救急車呼ぼうか?」
「いや、大丈夫……」
男子は胸元を押さえている。
透の頭に。
9月19日の男性が浮かんだ。
『楽になればいい』
そして。
強い疲労。
生体への干渉。
再現できるか?
すぐに。
自分で思考を止める。
人間で実験しない。
男子は意識がある。
会話もできている。
通常の手段が使える。
能力を使う理由はない。
誰かが119番している。
それでいい。
*
午後6時25分
男子の呼吸が。
少し落ち着いてきた。
透は離れようとした。
そのとき。
「久世さん?」
聞き覚えのある声。
振り返る。
「水城さん」
澪だった。
仕事帰りなのだろう。
淡い色のブラウスに、細身の黒いパンツ。肩には小ぶりのバッグを掛けている。
鎖骨より少し下まで伸びた茶色い髪は下ろしていて、歩いてきた勢いのまま、毛先が肩の上で揺れた。
研究室で会うときより少しだけ柔らかい印象だった。
派手な服装ではない。
それでも、すっきりとした細身の体型と整った顔立ちのせいか、人混みの中でも自然と目に入る。
「また会った」
澪が笑った。
「そうですね」
「何かあった?」
「高校生が体調を崩したみたいです」
澪が人だかりを見る。
表情が変わる。
すぐに近づいた。
「救急車、呼んでます?」
「今呼んでます」
「意識は?」
「あります」
澪は高校生の前にしゃがむ。
「聞こえる?」
男子が頷く。
「苦しいね。無理に大きく吸わなくていいから」
声は。
さっきまで透と話していたときより低く。
落ち着いている。
「吐く方を、ゆっくり長くしてみようか」
男子が頷く。
澪は必要以上に触らない。
状態を見ながら。
話しかけ続ける。
透は。
少し離れた場所から見ていた。
数分後。
救急隊が到着した。
引き継ぐ。
男子は介助されながら自分で救急車へ向かった。
澪が戻ってくる。
「びっくりした」
「知り合いですか?」
「全然」
「そうですか」
「久世さんも?」
「通りかかっただけです」
「そっか」
澪は。
透を見る。
「……使わなかったんだ」
透の動きが止まった。
「何をですか?」
「それ」
澪が透を指差す。
「今、誤魔化した」
「……」
「やっぱり」
「なぜ分かるんですか?」
「質問に質問で返したから」
「それだけで?」
「あと顔」
「顔?」
「さっきから、あの子のことずっと見てた」
「体調を崩していたので」
「うん。でも」
澪は少し首を傾ける。
「心配してる人の見方と、ちょっと違った」
透は黙る。
「観察してたでしょ」
「……否定はしません」
「何を?」
「話せません」
「そっか」
澪は。
それ以上聞かなかった。
透が見る。
「聞かないんですか?」
「話せないんでしょ?」
「はい」
「じゃあ聞いても困らせるだけじゃん」
「……」
「なに、その顔」
「いや」
「またなんか考えてる」
「水城さんは」
「うん」
「知りたいと思わないんですか?」
澪の目が。
少しだけ大きくなる。
そして。
「めちゃくちゃ知りたい」
即答だった。
「……」
「今すぐ聞きたい」
「そうですか」
「昨日からずっと気になってる」
「はい」
「たぶん今日帰っても考える」
「……はい」
「でも」
澪が笑う。
「知りたいのと、勝手に聞いていいのは別でしょ」
透は。
何も返さなかった。
*
午後6時41分
二人は駅へ向かって歩いていた。
「水城さん」
「はい」
「一つ質問していいですか?」
「内容による」
透が澪を見る。
澪が笑った。
「久世さんの真似」
「そうですか」
「で?」
「仮に」
「また仮に」
「自分だけが確認できる、再現可能な未知の現象があったとします」
「うん」
「それを他人へ話す場合、どの段階なら十分な証拠があると思いますか?」
澪はすぐには答えなかった。
「それ、研究として?」
「研究でもいいです」
「再現可能なら、まず第三者の前で再現するかな」
「一回?」
「当然何回も」
「対照条件」
「必要」
「観測者バイアス」
「できるだけ排除」
「記録」
「残す」
透は頷く。
「では」
「まだあるの?」
「あります」
「どうぞ」
「現象そのものが、話した相手を危険に巻き込む可能性がある場合は?」
澪の歩みが。
少し遅くなった。
「それは……研究倫理とは別の話になるね」
「はい」
「久世さん」
「はい」
「それ、本当に仮の話?」
透は答えない。
澪が。
前を向く。
「じゃあ、私から一個だけ」
「何でしょう」
「話さないことで、私が危険になる可能性は?」
「現時点では低いと思います」
「ゼロじゃない?」
「ゼロとは言えません」
「そっか」
澪は少し考える。
「じゃあ」
立ち止まる。
透も止まった。
「私が聞くかどうか、私に決めさせて」
透は澪を見る。
「どういう意味ですか?」
「久世さんが一人で『危険だから言わない』って決めるんじゃなくて」
澪は。
真っ直ぐ透を見る。
「どの程度危険なのか教えて。その上で、続きを聞くかは私が決める」
「……」
「危険だって分かったら、やめるかもしれない」
「はい」
「それでも知りたいって思ったら、聞く」
「はい」
「だから」
澪が少し笑う。
「そこまで久世さんが決めないで」
透は黙った。
合理的だった。
むしろ。
自分が昨夜ノートに書いた問題への。
回答だった。
相手に判断材料を渡す。
選択権を奪わない。
「……分かりました」
「今日話す?」
透は即答しなかった。
「今日はやめます」
「なんで?」
「準備が必要です」
「準備?」
「見せるなら」
透は。
そこで止める。
澪の目が。
わずかに見開いた。
「見せる?」
「……はい」
「何を?」
「今は言えません」
「えー」
初めて。
澪が露骨に不満そうな顔をした。
「そこまで言って?」
「はい」
「あとちょっとじゃん」
「その『あとちょっと』が重要です」
「研究者にそれ言う?」
「水城さんだから言っています」
「……」
澪が止まった。
「何ですか?」
「いや」
澪は一度、透から視線を外した。
それから、耳にかかっていた髪を指先で直す。
「今の言い方、ちょっとずるくない?」
「何がですか?」
「……分かってないならいい」
さっきまで透を真っ直ぐ見ていたのに、今はなぜか前を向いたままだった。
「そうですか」
「そうです」
澪は少しだけ歩く速度を上げる。
透には、その理由が分からなかった。
数歩。
澪がまた透を見る。
「いつ?」
「何がですか?」
「見せてくれるの」
「水城さんの都合がいい日に」
「明日」
「……明日?」
「空いてる」
「急ですね」
「久世さんに言われたくない」
「なぜですか?」
「未知の現象チラつかせて『待ってください』って言ってる人に言われたくない」
「……」
「明日」
澪が念を押す。
「分かりました」
「よし」
明らかに。
機嫌が良くなった。
透には。
その理由がよく分からなかった。
*
午後7時32分
帰宅。
透はノートを開いた。
『水城澪への情報開示』
まず。
『能力の存在』
そこに丸をつける。
全ては話さない。
覚醒条件。
射精経験。
9月12日の事件。
警察。
榊原。
それらは。
能力の存在を確認してもらった後。
必要性を判断する。
まず。
能力そのものを。
第三者に確認してもらう。
問題は。
どう見せるか。
危険性が低い。
トリックと疑われにくい。
再現可能。
複数回。
そして。
水城自身が条件を決められる。
「……箱か」
第三者が対象物を置く。
透は見ない。
水城が位置だけを伝える。
能力で動かす。
さらに。
使用する物体も。
水城に選んでもらう。
透が事前に仕掛けを準備できないようにする。
場所も。
自宅ではない方がいい。
自宅なら。
仕掛けを疑える。
公共の場所。
人目がある。
能力を見られる。
貸し会議室。
「……それがいい」
個室。
時間貸し。
机と椅子。
必要十分。
透は川崎駅周辺の貸し会議室を検索する。
明日夜。
空き。
予約。
澪へ送る。
『明日19時からでどうですか?』
既読。
『大丈夫』
『駅近くの貸し会議室を予約しました』
少し間。
『貸し会議室』
『はい』
『何する気なの(笑)』
『明日説明します』
『今日寝られないんだけど』
『睡眠は取ってください』
『誰のせいだと思ってるの』
「……」
『俺ですか?』
既読。
『久世さん以外に誰がいるの(笑)』
透は少し考える。
『すみません』
『そこ謝るんだ(笑)』
意味が分からない。
透はスマートフォンを置いた。
*
午後8時16分 川崎警察署
「主任」
「何だ」
「昨日の転倒事故、腰の神経でほぼ説明つきそうですね」
「ああ」
「これで一件減った」
「何からだ」
「主任の怪奇現象リスト」
「そんなものはない」
「あるでしょう」
「ない」
「じゃあ風船」
「忘れろ」
「自転車」
「事故」
「12日の男」
榊原が止まる。
「それは別件だ」
「残ってるじゃないですか」
「だから?」
「一件だけなら、やっぱ偶然じゃないですか?」
榊原は上着を着る。
「可能性はある」
「じゃあ久世さんも終了?」
「最初から始まってない」
「……」
「何だ」
「主任って逃げ道作るの上手いですよね」
「言葉を正確に使ってるだけだ」
二人は署を出る。
高瀬が先に歩く。
榊原は。
少し遅れてついていく。
9月12日。
一件。
人間が。
説明なく動きを止めた。
それだけなら。
不可解な事件ですらない。
医学。
心理。
錯覚。
供述の誤り。
いくらでも残っている。
なら。
久世透を考える必要はない。
少なくとも。
今は。
*
午後9時04分
透は明日の計画を書いていた。
『第三者への能力実証』
被験者。
ではない。
二重線。
『観測者:水城澪』
目的。
『能力の存在を第三者に確認させる』
方法。
一。
『場所は貸し会議室』
二。
『使用する物体は水城さんが現地で選択』
三。
『透は対象物に事前接触しない』
四。
『可能なら複数物体』
五。
『水城さんが任意の方向を指定』
六。
『複数回実施』
七。
『危険性のある重量は使用しない』
八。
『生体への使用は行わない』
そこまで書く。
新しい項目。
『説明』
何と言う?
超能力。
念力。
能力。
どれも。
科学的な名称ではない。
透は考える。
明日。
実際に見せれば。
言葉は。
後でもいい。
*
午後10時17分
澪は自宅で。
ベッドに寝転がっていた。
スマートフォンを見る。
貸し会議室。
明日19時。
「……」
閉じる。
10秒後。
また開く。
「何する気なんだろ」
原因不明の現象。
身体への作用。
使用基準。
再現可能。
そして。
『見せるなら』
「……見せるって何」
普通なら。
関わらない方がいい。
そう思う。
危険かもしれない。
知らない方がいいことかもしれない。
それも。
分かっている。
「……」
スマートフォンを閉じる。
5秒。
また開く。
「長いな、明日まで」
自分で言って。
澪は笑った。
少し怖い。
でも。
それ以上に。
知りたい。
そして。
もう一つ。
何を考えているのか。
ほとんど顔に出さない男が。
自分には。
何を見せようとしているのか。
それも。
少しだけ。
気になっていた。
*
午後11時02分
透は照明を消した。
明日。
悠真以外の人間へ能力を見せる。
失敗すれば。
それはそれで。
重要な結果になる。
成功すれば。
自分一人の記録だったものが。
初めて。
専門知識を持つ第三者によって観測される。
水城澪が。
この力を知る。
それが何を変えるのか。
今の透には。
まだ分からなかった。




