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夜の灯り


夜はすっかり深くなっていた。


村の広場には提灯が吊るされ、柔らかな灯りがゆらゆらと揺れている。


焚き火の火が赤く弾け、

香ばしい肉の匂いと焼きたてのパンの香りが空気に混ざっていた。


笑い声。

音楽。

人の話し声。


村の広場は、昼とはまるで別の場所のようだった。


ラティアは串焼きを手に持ったまま、きょろきょろと辺りを見ている。


「……すごい」


ぽつりと呟く。


カイルが隣で肉をかじった。


「まだ言うか」


ラティアは首を振る。


「だって……」


灯りを見上げる。


木の枝から下がる提灯。

踊る人たち。

笑い合う村人。


胸の奥が少しだけ熱くなる。


「こんな景色……」


少し考えてから、ラティアは小さく言った。


「前世でも、なかなか見なかった」


カイルが眉を上げる。


「前世?」


ラティアははっとして口を押さえた。


「あ」


サラがくすりと笑う。


「物語の中、という意味でしょうか?」


ラティアは慌てて頷く。


「そ、そう!」


(危ない……)


少し焦る。


けれど、目の前の景色は本当にそう思わせるものだった。


灯り。

音楽。

人の笑顔。


結界の中では見たことのない光景。


そのときだった。


広場の中央で、音楽が変わった。


軽やかな笛の音。

太鼓のリズム。


村人たちが輪になって踊り始める。


ラティアは目を丸くする。


「……踊ってる」


カイルが笑う。


「祭りだからな」


ラティアは興味深そうに見つめる。


くるくる回る人たち。

楽しそうな笑い声。


そのとき。


「よかったら」


声がした。


振り向くと、さっきの村娘だった。


「一緒に踊りませんか?」


ラティアの目が丸くなる。


「え?」


「簡単ですよ」


娘はにこっと笑う。


「ほら、みんなやってます」


ラティアは広場を見る。


本当に、楽しそうだ。


少しだけ。

ほんの少しだけ。


やってみたい。


でも。


「……わたし、踊ったことない」


娘は笑う。


「大丈夫です!」


そして、手を差し出した。


ラティアはその手を見る。


少し迷う。


(……どうしよう)


そのときだった。


ふと胸の奥がざわついた。


次の瞬間。


空気が、ぴんと張りつめた。


ラティアが顔を上げたのと同時に、


ユリスも、ゆっくり視線を動かしていた。


広場の灯りの外。


村の奥の闇の中に、何かがいる。


カイルが低く言う。


「……おい」


サラも小さく息を呑む。


「……魔力です」


ラティアの背中に、ぞくりと寒気が走る。


(……これ)


思い出す。


雪山。

黒い魔物。


あのときの、黒い気配。


ユリスの手が剣にかかる。


「ここで待ってろ」


短い命令。


だが——


ラティアが小さく首を振った。


「……違う」


ユリスが見る。


ラティアは闇を見つめていた。


「魔物だけど……」


声が少し震える。


「普通じゃない」


そのとき。


広場の外の闇が、ゆらりと揺れた。


人の形のような影。


だが次の瞬間——


影が崩れた。


黒い霧のように形を変え、


地面を這いながらゆっくり広場へ近づく。


カイルが舌打ちする。


「なんだあれ」


サラが静かに言った。


「……魔王の魔力に似ています」


ラティアの心臓が強く鳴る。


(やっぱり)


あの遺跡。


あの焦げ跡。


自分が消し飛ばしたはずのもの。


その残り香のように、


黒い魔力がまだ世界に残っている。


影が形を作る。


腕。

爪。

歪んだ顔。


だが完全な姿にはならない。


まるで——


壊れた影のようだった。


カイルが剣を抜く。


「残りカスか」


ユリスは短く言う。


「魔王の残滓だ」


その言葉と同時に、


黒い魔物が唸り声を上げた。


「グ……ァ……」


不完全な声。


壊れた存在。


だが——


その赤い目が、


まっすぐラティアを見た。


ラティアの背筋が凍る。


(……え)


次の瞬間。


魔物が跳んだ。


一直線に——


ラティアへ向かって。


ユリスの剣が、抜かれた。


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