深淵を覗く者 6
遂に、噂の悪魔とやらに御対面かと思ったら…
まさかな…
どうやら我らは、最悪の方の結果を引き当てたようだ。
深淵の巨神?
まさか…
この僅か短時間で、我の部隊が音もなく、全て完全に、消滅させらているとは。
音も気配も、一切なにも無かったのに…
仮にも我らは神族だ、細胞の一つでも残れば、我の神気で復活させられるが、
だが…姿形は勿論、荷物も装備も、
気配さえも、なにも無いとは…
つまり、何一つ残さず、地上から完全に消されたわけか…
また随分と無茶苦茶だな。
――だが、そこで魔法の行使は無かった。
我のように…
例えば空間を捻じ曲げて、
部隊をどこかに隠したのならば、
流石にあの規模だ…上手く隠蔽したとしても、
例え僅かでも、我ならば絶対に、魔力の残滓を感知する筈だが…
それが一切無いとはな…
安全の為に、周囲全体に霧糸を撒いておく。
さあ我に、その姿を見せてくれ。
…なにか出てきた?
――いた。
そしてようやく、
今ハッキリと、その姿をこの目で確認した。
なんだ、この違和感は?
ただの人間…
いや、あのグリフォンもおかしい…
例え深淵属性であっても、我の糸ならば、あのグリフォンの魔力を吸収する筈なのだが…
全く、その影響が見えない…
なによりあの個体…アレの発する異様な気配だ…
普通の、そこらのグリフォンの比では無い…アレは相当に強いな。
そして悪魔、だが…
どう見ても、ただの人間だ、
何かが化けてるわけでは無く…
正真正銘の…完全な、ただの人間だ。
だがなんだ?
あの人間から、異様な圧を感じるし、
アレの魂の存在が、微塵も感じられない?
まさか、アレで死者なのか?
いや、違うな…
アレは死者では無い…魂は無いが、魂の鼓動は有る…生きてるって事だが…
…何なのだ、それは一体?
生きている死者か、死んでいる生者?馬鹿な…
やはり、深淵の気配だけは強烈に発しているが…どうにも変だ。
深淵の巨神であれば、その全身に、漆黒の炎を纏っていると聞くが…
そもそも目の前のアレは人間だ、
神族でさえ無い。
ズクでもアーマでも竜種でも無い…
そんな気配さえ一切無いのが、やはりおかしい…
やはり、異形の何か…それこそ、悪魔なのか…?
だが、恐ろしい…
ただの人間にしか見えないのに、
アレはなぜ、こうも恐ろしいのだ…
ただ見ているだけで、死を覚悟させられてしまうなど…
あれこそまさしく、深淵なのか?
おお?
いよいよ動くか…待ちかねたぞ。
何かを高速で振り回している様だが、それがまるで見えない…
決して当たって良いものでは無さそうだが。
しかも気付けば、周囲には結界を張られた様だな。
これは不味いな…
そしてこの結界も、魔法では無かったか…
放てど放てど、解除魔法が霧散している…
ダメだ、逃げれぬ…
一体なんだ?
どうやって、いつの間にこんな結界を張ったのだ?
なんなのだ一体?
全てが実に興味深いが…
流石に…
このまま呑気に観察している場合では無さそうだな。
隙をつくり、なんとか結界の外に出なければ…
ダメだ。
どうやら悪魔に、コチラの探知の方法を見つけられた様だ…
空間を捻じ曲げていると云うのに、
確実にコチラを追って来ている…
さしあたって、ダミーを大量にばら撒く。
多少の時間稼ぎにはなるだろうが、
これでは余り、我に時間を与えてはくれ無さそうだ。
脱出の術を急がねば。
まさかだったな…
追い詰めていたはずだったのに、気付けば追い詰められておるとは…
こんな事、我が誕生してから、
実に初めての経験だ。
コチラに油断は無かった。
むしろ、汎ゆる罠を撒いていたのだ。
案の定、それにも掛かったが、
圧縮したあれほどの強大な魔力を、真横で爆破させたのに、
無傷でケロッとしてるとはね…
流石に驚きだし、呆れたよ。
我であってもあの至近距離では、
相当な損傷はま逃れないであろうに…
魔法も物理攻撃も、アレにはさして意味が無いのか、
さて困ったな。
流石にいよいよ手詰まりか…
まさか…ここで奥の手を使う羽目になろうとは…
だが、取り敢えずはここから無事、逃げ切らねばな、
正面からアレの相手をすれば、我とて消滅は避けられそうにない。
最早、待った無し。
ならば【呪】だな。
アレに魔法は効かんそうだからな、
なればこの【呪】の対象は…我だ。
この身体の半分は捨て贄にし、
転移してここから離脱する。
欲しい情報は集められなかったが、
これは予想外の接触だった。致し方ない。
部隊も惜しいが…
その犠牲の分くらいは、もっとじっくりと調べ上げたかったが、
流石に、我が消滅しては話しにならん。
数百年賭けて用意した、とっておきの【呪】だったが…
頃合いだ。ここで離脱する。
…
……
――ほお?答えないと?
この期に及んで尚、だんまりですか?
そんなてめえには俺から特別に、
ええ根性してるで賞、
を、差し上げてやろう…知らんけど。
じゃあ終わりにしよう。
境界線を一気に縮める。
俺はただ、拳に黒い炎をまとわせ突き出し、
じっと待機してればそれでいい。
壁が狭まれば、勝手にこの黒い炎を喰らう事になるのだよ。
…!
え?
出てきた…けど?
え?ウソ?
待て待て待て待て…
白っぽいけど…あのカタチ、
完全にミューじゃん?
なんで?
ミューに…身内居たのか?
へ?
一瞬…いや、相手に結構な間と、
それは大きな隙を与えてしまった…
目の前で、そのクモが爆散したのだ…
勿論、俺は大きく取り乱した…
ちょ、ちょ、待って?
あ?!コレ、【呪】だ…
アイツ、逃げる為に自分を対価にしたのか?
無茶モンやな…
多分今のあれって、
レホーと一緒の、逃走用のやつだろうな。
謎のミューが爆散して、
俺は思わずビビって、境界線を消してしまった…
迂闊だったが…流石にあれはしょうがないよね?
万が一ミューの身内だったら気の毒過ぎるし…
そもそもあんなの…俺の心臓に悪過ぎるわ…
ミューの身内?…ホントに?
じゃ、なんでアーマなんかと一緒に居るんだ?
あ、あのキモい蟲か?
まあ…他のアーマは消したし、
アレもさっきの爆発できっと、大きく削られただろうしな…
一応?
デリターニャの危機は去った…のかな。
だが、
つまりまんまと、
本命には逃げられちゃった、と。
うーーーん、参ったな。




