凋落 2
長い長い、沈黙の時間が流れていた。
皆にまとわりつく、不安と苛立ち…
その静寂を打ち砕いたのは、族長の雄弁な御託でも、
長老の説得でも無く、
出来上がったばかりの、温かい料理の匂いだった。
数日ぶりにまともな食事だった…少なくとも、食事をしている最中だけは、
誰の顔からも、不安も苛立ちも消えていた。
この途轍もなく巨大な蛇…首は無かったが、身体の何処にも、一切傷が無かったそうだ…
多少切ったくらいで蛇は死なないし、
仮に致命傷を負ったとしても、しばらくはのたうち回って、通常なら少なくとも、傷だらけの筈だった…
つまりこの蛇は、それさえも許されぬ程の一瞬で、
完全に絶命したということなのだ。
我には、そんな真似は出来やしない。
やはり異常、異質だ…俺の身体には、激しい痛みと恐怖が、深く刻み込まれた…
我が身に起きたことが、未だ頭で理解出来無い…追い付かないのだ。
全く未知の次元の…圧倒的な力…
あの男…いや、軍神だからこそ可能なのだろう。認めたくは無いが…これは現実なのだ。
腹に温かいモノが入ったせいか、ようやく少し…落ち着いて考えられる。
長老が…グシオンがここまで俺に意見をしたのは、実は初めてだった…
グシオンの言葉…
だが、グシオンよりも先に、
同じ言葉を、軍神からも聞かされていた。
俺は…命を軽んじていると。
容易く死を受け入れた俺に…軍神は激怒していた…
何故お前は足掻かないのか?
大勢の仲間を見捨てて、自分だけのうのうと死ぬつもりかと…
惨めだ…
不甲斐ない…全くそのとおりだ。
敗北…勝てる見込みのあるような相手なら…敗北と言う言葉も成立する。
勝てもしない相手には、そもそも敗北と言う言葉さえ無いのだな。
そうだ…俺はどうやら、随分と思い上がっていた訳だ…
マステマのあの態度には、一瞬ムカついたが…
アイツはちゃんと…そこで一族全体を…命の重さを見れていた訳か。
グシオンの言葉は重い。闘うだけの毎日が終わると…それしか能のない我等にとって…
それは死にも等しいのでは無いのか?
否…だった。
まだ幼き子供らに、俺は死を強要した…
今なら判る…愚かだと。
グシオンは言った。
武器を振り回し、敵を屠ることだけが闘いでは無いと…
ただ生きるという事も、やはり闘いだと。
闘いで…戦闘での立ち回りが考えられるので有れば…
生きる為の立ち回りも、ちゃんと考えてみよと…
今、ここにいるすべてが戦闘出来る訳では無い…半分は女子供に老人、けが人…
現実から目を背けていただけだった…見えないフリを…気づかぬフリをしていただけだった。
現実とは、かなり残酷だな…
まさか…数千年も経って、同じ神から、
全く同じ問いかけをされているとはな。
軍神に殴られて、説教までされて、やっと目が覚めた…
俺は族長失格だ。
この血脈を…絶やしてはいけない。
軍神に…降ろう、
軍神には俺の首を差し出し、代わりに一族の命を…生きる世界を与えて貰う。
頭のいい、マステマに族長を委ねよう。アイツなら失敗も無いだろう。
やはり祖先のたどった間違いには、絶対に進めない…
すべては一族の為、
それが俺の…族長としての、最後の責任、仕事なのだ。
これが命を掛けた…俺の、最後の闘いだ。




