表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/350

凋落 1

 まさしく…神話の中の、何度も幼き頃に聞かされた…

 あの、軍神様だった…


 荒ぶる我等の、最強の呼び声も高き鬼らが、


 寄ってたかって攻撃したが、ただの一つも、一度も当たらず…

 小さな傷一つとさえ与えられず、


 あろうことか、皆が軍神様の一撃の下に、呆気なく沈みよった…


 軍神が纏いし、あの恐ろしき漆黒の炎…


 あれからは決して逃れられぬ…

 恐ろしいほど濃厚な、まるで死の様な空気が立ち込めていた…


 しかもだ、まさか竜種に頼まれて?

 故にわざわざ自らやって来たと…


 仮にも竜種だぞ…


 決して、矮小なる人間如きに、

 頭など、下げる様な生き物では、断じて無い…


 それが、まさしく頭を下げたのだとすれば…


 竜種さえも凌駕する、この地上における、

 武の、頂点であるという事だ。


 アザゼルも含め、タカマ=ガハラには、

 我等の一部も参戦していた…

 幸か不幸か、本殿とは相当離れた場所にいて、

 結果、それで命拾いしただけだった…


 それでも、突如落ちてきた海に飲み込まれて、数名は命を落としたのだ…


 まさか山の上で、水のない場所で溺れたのだと。


 聞きしにまさる、まさしく惨劇のその真ん中には…


 軍神様が降臨したのだと…


 そこでは剣の神も盾の神も、

 まさしく、全くの無力…ただの一撃の下に、天に還ったと…

 

 あれ程の武をもっていながらも、軍神様には手も足も出なかったそうだ…


 大きな岩が突如落下したり、竜巻が起きたり…

 生き残りが口々に言っていた嘘のような戯言は…どれもすべて事実だった…


 アザゼルは強い、お世辞抜きにも、歴代の鬼族に於いても、

 こと戦闘においては傑出した存在だ。


 しかし…精神面においては、まだまだ未熟であるのは否めない。

 戦闘力と政治は、全くの別物だからな。


 他の…マステマも含め、同世代の連中も同様だ…

 今の若い連中では、残されし一族の命の価値を知り、

 そのうえで我等全体の舵取りなど…


 そもそも荷が重いのだろうな…


 戦闘だけなら、そこになんの問題も無い。そもそも、我等の力をもってすれば、最初の勢いだけでも既に、大方決着が見えた…

 なにも考える必要さえ無かった…


 闘って勝ち、食料を奪い、喰らい、眠る。それだけの毎日…


 アーマ軍が実質瓦解したあとは、傭兵の仕事はほぼ消えた。


 ズク族との対立こそが、我等の唯一の収入源だったが、

 大規模な戦闘自体、もう無くなっているのだ。故に、傭兵の出番など…


 軍神様のお言葉は、まさしく真実であり、現実であろうな。


 多くの、古い巨木が枯れた今…

 当然、この大地には多くの、新しい芽がまさに今、力強く芽吹き始めているのだろう。


 まさしく季節の変わり目…新しい時代の到来なのだろう。


 

 戦争の最中であれば、戦士として誇り高く散るのも立派な誉れだ。


 だが…戦でも無い場所の…ただの無駄死なんぞに誉れなど無い、断じて無い。

 寧ろ、鬼族に於いては恥だと、知るべきなのだ。


 …

 

 随分と時間が立ち、ようやく倒された連中が目を覚ました。


 この鬼の群れにおいても、

 今ではこの老骨も、新時代の前の…枯れるだけの古い巨木…


 故に、邪魔にならぬよう、出しゃばらぬ様、ただ、黙って見守って来た。


 目の前の若い芽吹いたばかりの連中の為に、


 残された僅かな一族の命の為に、それで良いと思っていた。


 そう…思っていたが、すべては全くの、大間違いだった訳だ…


 この命が尽きるまでの、もう残り短い時間…


 最後に、とんでもない大仕事が出来てしまったな。


 アザゼルも含め、主要な連中に問うた。


 一族として、一体この先、どう生きるのかと。


 「…長老の言う通りだ。悔しいが…我等はどのみち落ちぶれるのがもう目に見えている…」マステマが言った。

 

 「だが…敗北など断じて認められん…我等は鬼ぞっ?」アザゼルは叫ぶ…


 ならアザゼルよ…お前は軍神に勝てる等と…本気で思ってるのか?


 「そ、それは…」


 お前さん、無理を承知でこの一族の…全員の、その命を投げ捨てると?

 皆に、無駄死にを押し付けると?

 「違う…違うが…」

 

 つい先ほど…我は軍神様と話したのだ。


 アザゼルよ…お前が見たであろう、あのタカマ=ガハラの惨劇の…

 あのアーマ軍五万を、たった一人で殲滅した…あの荒神…軍神様だった。


 お前らを殴った時でさえ、あの方はただ、遊んでおられたのだぞ?

 …そこは、皆も観ておったであろう?


 我等なぞ…鬼程度など雑魚…


 そもそも闘う価値も理由もないとな…


 アザゼルよ、お前は強い、そこは我も、皆も認めておるぞ。


 だがな…お前はたった一人で、アーマ軍五万に無傷で勝てると思うか?


 いや、答える必要も無い。全く意味の無い問答、愚問だな。


 不可能。そう不可能だ。


 お前は未だ、軍神様と同じ目線に居て、闘う術を考えておるのだろうが、


 戯けめ、それは驕りか、ただの無知だ。いい加減に、身の程を知れっ…


 そもそも我等など、軍神様から見れば、ただの塵芥にも等しいのだ…

 あの方から見ればな、竜種も、神族も、我等も…

 視界にも入らぬ、そこらの小石の様なものだ。


 まずはそこを、長であるお前は、誰よりも理解しろ…


 時代が変わる…今、まさにその分岐点なのだ。



 まさしく古き言い伝えの通りだと思わんか?



 時代が動くその時、


 多くの血で、大地が赤く穢されし時、

 漆黒を纏といし、怒り荒ぶる神が大地に舞い降り…

 空を割り、大地を裂き、汎ゆる悪しき存在を、尽くすべて打ち滅ぼす…


 そして、弱き者の新たな世界を創造し、再び深き眠りについた…


 そうだ…かつて我等の祖先は、愚かにもその軍神様に剣を向け、矢を放ち、

 そして滅んだのだ。


 今ここにいる鬼族はその、ほんの僅かな生き残り…その子孫だ。


 今なら判る…死ななかったのではなく、軍神様に選ばれ、生かされたのだと…


 そして今再び、アーマ軍五万を討ち滅ぼした軍神様が、

 我等に問うておられるのだ。


 アザゼルよ、それでもお前は、一族の長として、

 祖先と同じ過ちを繰り返したいのか?


 軍神様の問は、至って簡単な問だ。



 続く未来か…終焉かを選ぶ。正しい選択をせよと…


 たったそれだけなのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ