黒のお仕事
私はニーズヘッグのフィア…
誇り高き竜種の頂点にして、それを見守り、正す役目を担う者也…
担ってるのですが…
今更ですので、もう無理に意地を張るのは辞めました。
絶対の絶対の絶対に、何をどうやったって勝てない相手が、居るのですよ…すぐ横に。
不死で不滅…しかも?神獣も三頭も引き連れてて…
竜種こそ最上の存在だと…お父様からは常々、そう聞かされてきましたが…
そこだけ…そこだけは、お父様も勘違いなされていたようです。
最上?今なら判るんですよ、最上なんてトコに竜種は居ませんよと…
これは私の勘違いでは有りません。今では全ての竜種がそう思っています。
仮に…お父様がご無事で有っても、ここはきっとなにも変わりません。決して覆ることのない事実ですからね…
我等も羽虫も、【深淵の破壊神】…軍神様に言わせれば、なんの違いもない、殆ど一緒です…一緒なのです。その程度なのですよ、実際は。
アズラが言ってましたが、アーマ軍五万を、無傷で蹂躙したって…
疑いようも無く…それは事実でしょうね。
なにより、お父様の仇…いつか必ず私の手で始末すると誓った相手…
剣の神と盾の神…どちらもたったの一撃で、この世から滅せられたそうです。
正直、そこは感謝しか無いですが、
いえ、私じゃきっと勝てやしないと理解してますが、
出来れば一撃くらいは入れてやりたかった…今もそう思っています。
まあ…その一撃で、私は消滅するでしょうが…
気がつくと今、なぜか軍神様の街に居て、そこで生活しています。
ここには不満が無いのが、不満ですね。
便利で、快適です。
食事がとんでもなく美味しいですね…もう生肉なんて…今はもう、食べる理由さえ解りません。
せめて最低限、焼かないとなって…本気で思えて来てます。
ここで一番の驚きは、なんと人間と一緒に働いているという事ですね。
もしお父様がここにいたらば、きっと激怒してるでしょうね。
ですが、働かざる者食うべからず…そんな言葉があるのです。
なので、美味しいご飯が欲しければ、黙って働くのです。
その価値があるのですよ、ここの食事には。そのための労働ですから、なんの文句も有りません。
それに、皆で一緒に作業をするのも、かなり楽しいのです。
いっぱい頑張ると、ご飯がより一層美味しいのです。
皆もずっと笑顔なのですよ…
毎日毎日、楽しいなんて、そんな事がこの世には有ったのかと…
正直今まで、コソコソと隠れて生きてきた意味が…ちょっと悲しくなりますね。
ですが…今はなにも恐れるモノが有りません。
どんな阿呆も、流石に軍神様にチョッカイかけるなど…絶対にあり得ないのですよ。
そんなの、無茶や無謀を、すっかり通り越してますからね…
そしてここには強者がゴロゴロいます。
時々、訓練に参加してます。護身術っていうもので、きっと私の役に立ちそうなモノですよ。
ここの獣人は勿論ですが、人間でさえ、相当に強いのですよ。
なによりまあ…強いといえば軍神様ですよね。
創造神のヨミ様さえもが、軍神様には、敵対を完全に拒否しています…推して知るべきだと…
ショーギでも、最強なんだそうです…ヨミ様でさえ、負けるのだと…
未来視さえ、打ち負かすのだと思うと、そりゃ竜種が最上なんて、二度と言えませんよね?
そして私は今、オセロとショーギに夢中です。とにかく楽しいのです。
多分、残念ながら私がここでは最弱なのです。
悔しく無いと言えば嘘になりますが、たまには勝ったりもしますよ。
勝つとね、とんでもなく嬉しいのですよ。
オセロなら、アズラにも結構勝てるようになってきましたが、
ショーギじゃ、今でもアズラには、手も足も出ないのです。
私も弟子入りを志願しようかな。
負けても悔しい気持ちより、なぜ負けたのか…ほかの人はどうやって進めて居るのか…
それを見てるのも、見てるだけなのに、凄く楽しいのです。自分がちょっと、賢くなった気がしてくるのです。
そして?見たら、すぐ真似したくなるんですよね…それで勝ったりしますしね…アハハハ…まぐれですよ。
今日もお仕事のお手伝いのあと、ご飯を食べてから、マーオちゃんとショーギをしましたね。
マーオちゃんも強敵です。軍神様の必殺技を真似しています…アナグマというそうで、かなり高等な技術を有するそうです。
一旦、防御が完成すると、全く手出しが出来なくなってしまうのです。
なので急いで攻撃しているのですが…
気がつくと攻撃されてますね。そうか…さっきの手は囮だったか…しまった…
うっかりのせられたか…
そうこうしてると、軍神様が迎えに来ました。なんと空竜と地竜も一緒でした。
海竜ヤートの、完全な復活の儀式を行うので、一緒に来いと言うことでした。
私はニーズヘッグですからね。そこは当然です。
私は飛ぶのがまだ遅いので、九郎さんの背に乗る事になって…それこそ一瞬で目的地でした。
イサクさんも乗ってましたが、糸でぐるぐるでしたね…なんでだろう?
流石は神獣でした…空竜でさえ、その横を必死に飛んでましたが、
当の神獣は普通か、それ以下の力で、全くの余裕で、なんなら竜種に合わせて、ゆっくりと飛んでましたね…
もう決して、神獣にも抗ってはいけないと…そう思いました。
ヤートの洞窟につきまして、神言の刻まれたレリーフを設置し、儀式を行いました。
本来なら、ニーズへッグである私が取り仕切るのですが、残念ながら未経験なのです。
そこはアンラが私に変わって、行なってくれました。
儀式によって、ヤートが完全復活しました。
…した途端?
ヤートの記憶も戻ったらしく、軍神様を見てかなり怯えています…
なんならもう、お腹も見せちゃってますね…
完全敗北を、軍神様と目が合って僅か数秒で理解したようです。
まあ…でもそれは仕方が無いと思います。
今、全ての竜種で飛び掛かっても、
軍神様には絶対に勝てないという確信が、全員にあるのですからね…
竜王の称号も、寧ろ当然だった…そう言わざるを得ませんよね。
仮にも我等、神族を見張るお役目ですから、
そこはヨミ様に降るという訳には、流石にいきませんからね。
これで良かったのです。
そして絶対の強者ですからね、軍神様は。
ニーズヘッグとは言え、そこに異論は無いのです。
そして?
地竜夫婦のお願いを聞き届けて下さった軍神様、竜王様が、
なんと鬼族の討伐に向かわれるそうです…
鬼族はアーマに匹敵する高い戦闘力を有し、
全てを力付くで手に入れるという、圧倒的な暴力の蛮族です…
その暴威で、竜種でさえ狩るとか言われてます。怖い相手なのです。
本来であれば、我等竜種でも危険極まりない相手なので、迂闊には手は出せません。
なのですが…
もうその先の結果は判るんですよ?
ショーギの弱い、こんな私でもね。
鬼族はきっと、
生まれて初めてくらいの、絶望を知るでしょうね。
もう、初手で王手ですからね。竜王だけに…




