冬の終わり 4
引き続き、舟の移動を開始する。
ボーディングブリッジを回収し、
これまた俺が、出航を見送るのだ。
子供達と違い、そこは大人だからか、大きく叫んだり手を振ったりみたいな事も無く、
それでも皆、結構感傷的になってはいる様で、みんなどこかさみしげな表情だった…
僅かな間だったが、ふと気付けば…
全員がここで、ホントの家族って、そんな気になったもんな。
さてさて。
俺は境界線の壁を大きく展開し、船底の全面をカバーして、
ほんのちょっとだけ底を残し、船体の大半を持ち上げる。
更に…底とは別に、境界線を舟の前側に展開し、完全フラットな海面を、ほぼ揺れることもなく舟が移動できる方法…
イメージはジェットフォイル…水中翼船で、当然?
その羽根を境界線で再現して見たが…
きちんと全体を見た事など、勿論無い。
どこかで見た模型か、ミニチュア?或いはラジコンのやつを、なんとなく造ったった。
で、超、押すのだよ。
水の抵抗など、そんなちっぽけな常識なんぞ、【深淵】は一切受付やしないのだ。
見る見る間に加速していき、僅か数分で少し向こうに、
遂に九郎の姿を捉えた…
九郎もそれに気づき、舟の周囲を旋回した。
これには大人チームも、ちびっ子に向かって、流石に大きく手を振ったりしているな。
そんな舟の後方に、九郎が着艦準備に入る。
空母に着艦する戦闘機と違い、九郎は優雅にふわっと着艦する。
この為にわざわざ、後部には九郎専用の止まり木を設置してあるのだ。
大きさは若干…計算ミスがあり、
九郎は身体を斜めにし、マストに干渉しないように、うまいこと着艦してくれた。
さっきのボーディングブリッジを再利用し、子供達を降ろす準備をして、子供達を一旦、リリースした。
トイレ休憩と水分補給だ。
後は怖いって子を、こっちに振り分ける為だったが…
怖い?誰が?
まあ…皆そんな感じだったな。
唯一?怖いとかじゃ無く、
外敵をビビらせる動くこの舟の仕掛けに、
何故か強い愛着を持っている何人かのちびっ子らが…
マイケル君を筆頭に、
次の休憩まで、こっちに残るって事になった。
なんだか知らんけど…この子らはその仕事に、何かプライドの様なモンを感じていた様だった…
感慨深げにロープを触っているな…
まあ…好きにしてくれ。何も問題無いから。
九郎も水分補給をして、再び大空へと舞い上がった。
その風を帆が受けて、舟は更に加速して行く。
遠くにシャダ商会の舟団が見えたが、事前に報告と警告をしてあるので、流石にこっちを攻撃はして来ない。
そう警告だ。シャダが入念に何度も何度も言って聞かせたらしい…
「良いかテメエら?あれには、恐ろしい大悪魔様が乗ってるからな?間違っても…以下略…」
まあ…仮に攻撃して来ても、俺が居る限り特に無害では有るが…
面倒くさいには違いない。何より傷をつけれんのだよね…
ってか、あれもそもそも俺の船だし…
うーーーん、沈めるのは至って簡単なんだがな…
いや?待てシャダ…?
誰が悪魔じゃいっ?!
って、まあ良いが…すぐ様高速で、向こうの射程距離からは離脱した。
この速度で追従して来れるものなどそうはおるまいて…クックック…
…っという俺の視界を、颯爽とジョンが横切っていく。
…おるやないかいっ!?
ジョンが飛んでいる。
ミューと九郎から、熱を起こす魔法を伝授されて以降、
こいつ、かなり飛べてしまう。
まあ…流石に九郎には、速度も航続距離も遠く及びはしないが、
普通のグリフォンとしては異常?それこそ破格に飛んでしまうらしい…
何なら?結構な時間のホバリングさえ、可能なんだそうだ…
そう、俺も知らぬ間に、こいつも大幅に進化してやがるのだった。
時々舟に降りて休憩を挟み、そして九郎に並走するように飛ぶ、
その姿…まるで子供達を見守る様に飛んでいるのだ。
これもこれで、かなり感慨深いです。
アイツ…拾った頃はまだ子供だったのに…
決して人間如きには懐かないなどと、散々ヨミから脅されて…いや、言われて居たのに、
どうだよあの勇姿?
なんと立派になったんだよ…うちのジョンったらよお…
まあ…みんな一歩ずつ、大人の階段を登っているんだなと。
俺だけが…
その階段を踏み外した感は、若干否めんのだが…そこはまあ…内緒で。
更に飛んで、更に航行して、
かつて子供達が囚われていた、海賊の島が遠くに見えた…
そこには嫌な記憶しか無いだろうが、何度目か、俺が背中側の様子を見に行った時に、サラちゃんが俺に言ったのだ。
「最後にもう一度だけ、あそこに行ってみたい」と…
結構ビックリした。
だが…嫌な記憶も有るだろうが、あそこで結構な時間を過ごしていた訳だし、
だとそりゃ、その気持ちもまあ…、多少は判らん事も無く…
他のちびっ子らも大いに同意したんで、急遽アーリエーズの島に立ち寄った。
子供達は主に、自分の寝床を中心に見て回っていた。
改めて、ここで彼らは出会い、一緒に過ごしていたんだな…っと、結構感慨深いですな…
彼らには私物など一切無かったが、きれいな小石や、貝殻、押し花の様な物を回収していた。
親の形見の様なモンは全部、海賊らに取り上げられたからな。
あんな小石だって、あの子のきっと、大事な思い出の宝物なんだろうな…って、グッ…アカン…
ちょと泣きそうや…
うっ、や、やはり…お爺やんが既に号泣している様だっ…お陰で耐えれた。ナイス号泣…知らんけど…
それぞれ色々な思いが有るのだろうが…
最後に子供達は、この寝床にそっと別れを告げた。
「さようなら…」と。




