冬の終わり 5
旅は順調に進んでいる。
特に接敵もしていないな。至って順調そのものであった。
そして、キモヘビ島も近くに見えているが、
もうまもなく、シャダ商会の本拠地である、
旧サンデの街…
今は、デリターニャと言う、完全独立都市に到着する。
デリターニャってのが、元々ここいらに有ったという、本来の国の首都の名前なんだそうで…
当初、俺はシャダ王国やシャダシャダ街とか…
そんな感じにしようとか思っていたが…
寧ろシャダからは、シバ王国だの、リュウタ=ロー国を、俺の許可なく無理矢理強引に名乗ろとしていたのだった…
無茶苦茶ビビった。
なんで、ここに縁もゆかりも無い俺の名前なんかをと…
しかも、多少脅したくらいじゃ、シャダは一歩も譲らなかったのだ…
もうそりゃ、マジ焦ったわ…
こっ恥ずかしいだろう?
大いに焦った俺は、ちょっと待ってくれと、ただひたすら懇願し?
長い長い話し合いの末に、なんとかデリターニャに落ち着いたと言う…まさかな、苦い思い出話が有るのだった。
そして、今回。
九郎の着陸にも、素敵な付加価値を持たせるべく?
密かにシャダに告げていたのだ。
…ビッグチャンスが来るぜ?っと。
今持って、商会は冬の仕事がメインだった。
とくに本業の屋台組は、配送メインの冬の商売だったが…
時が来たのだ。
大型化した九郎は、シャダ商会の正面では狭い…故に?
港の広場に着陸する事にしたのだが、
そこに休眠中の屋台組を、全て終結させたった。
いよいよ本格始動する前の肩慣らしを兼ねた、ちょっとした仕事始めのお祭りをやるぞっと。
事前に祭りを配送組に、街中に派手に宣伝させた。
そのお陰か今日は既に、港の広場には大勢の客足が有るのだ。
祭りだ。
名前も、春を告げる祭り…春告祭(仮)として。
そのメインイベントが、春を運ぶ神獣襲来って、そんな寸歩なのだ。
その背に乗っている子供達は、これは神事である…という設定で、お稚児さんと呼び、
到着後、子供達には小さなかごを手渡す。
そして、商会の孤児らと共に、かごの中の飴ちゃんをばら撒くって手筈だ。
勿論だが、子供達には事前に告げてある。
みんなで飴を投げて、ばら撒くお祭りに参加するんだよっと。
そして…この飴を舐めると、一年間無病息災だの、幸運を呼ぶだの…
それはまあ…適当な与太話が、既にたっぷりとついているのだよ。
勿論だが、知らんけどな…である。
しかもだ。
神獣の着陸を邪魔すれば、そいつは一生呪われるとか、
そんな噂も流してあり…そうなると恐らく、着陸さえも、かなりスムーズに行えると、俺は考えているのだ。
まあ…交通整理も、あの顔面凶器な番頭が行う予定だからな…
それも含め、もう既に成功しか見えないのだ…
そう、ここが春一番のビジネスチャンスなのだよ。
勿論だが、マイダス親子も参加予定だ。
これは再び、屋台の営業開始を告げるのが主な役目で、飴ちゃんはその撒き餌なのだよ。
まあ…原価もかなり安いし、飴程度なら、こちらの腹も殆ど痛まないのだよ…クックック…
しかもこれ、実は寒天から作ってるからな、
砂糖と果汁以外は、ほぼ無料みたいなモンだろ。原料のテングサも、昆布と一緒にとってるからな。ついでだ。
それを取ってきた、謎の葉っぱでくるんである。
一応…毒の類の確認もきちんとしている。
つまり、予算は安いが、何も問題無いのだよ。
まあ…恒例行事にしても良いもんかは検討中だ。
孤児院もこの先ずっと有るわけだし、俺は良いと思うんだがね。
そして、俺だけ船から一足先に港へ顔を出して、商会の若いのに告げる。
もう、まもなくだぞ?…と。
着陸の際には、暴風が巻き起こるので、火を使ってる屋台は一旦火を消したり、飛ばされそうなものは固定したりと、
そこらも一切、ぬかりは無いのだよ。なんせ俺って、気を使えるおと…(※以下略)
そして商会の若い衆が叫ぶ…打ち合わせ通りに…
「おおっ!あれを見ろっ!」っと。
遥か遠くに、巨大な鳥がやって来るのが見えると、
集まった大勢の客らが一斉に、おおおーーっと、声を上げた。
スタンバイ…その声を聞いた孤児らに緊張が走っていたが…
俺は手の甲に強く息を吹き付けて…
屁をこいた小芝居をして、皆を笑わせたった。
緊張と緩和…予想以上の大爆笑だった…
そう、これ、これだよ…俺が欲しかったのは。
関西人の血が、笑いという確かな手応えを感じたのだ。おいしいと…
フッフッフ、もう準備万端である。
一応だが、舟は既に、少し離れた場所の、商会の隠れドック兼倉庫に収納してある。
丁度、みんな上ばっかり見てたからな、幽霊船騒ぎなんか、そりゃ微塵も無いんだな。
いつものうちの大人チームのメンツも、下船後、すぐにこっちに合流の予定だ。
さあ、もうまもなくだぜ?
九郎はゆっくりと上空を旋回している。
舟との時間調整もあったが、なにせ神獣様だからなと、
多少勿体つけろよと、俺が九郎に頼んどいたからだな。
上空を見上げて客らが、オーー、おーっとか、
まあ…ずっと歓声を上げているな。
みーんな上ばっか見てる。口を開けたままな…ちょっと笑える。
それに事前にたっぷり九郎を見せておけば、ばかデカい鳥の恐怖も、
相当に和らぐんじゃね?っという、俺の思惑も有る。
そう、九郎先輩は春を告げる神獣なのだよ。
あれはすんごい縁起物なんだと、
街中の皆に説明しろよと、うちの若い衆にも散々言ってあるのだ…
あっちこちでその、説明のテンプレも聞こえて来ますね…クックック…予定通りではないか。
しかもこれだけ見せつけりゃ流石に良いよな?
まあ…もうイケんだろ?
よし、そこの若いの、合図だ!打て。
バアアアアアんっと、
大きなドラを一発打ち鳴らし、いよいよ神獣様の着陸の時間とあいなった。




