夢現 1
俺の目が腐ってしまった…ならば、この見えてはイケナイものが見えたのも、まあ頷ける。
しかも、きっちり土下座だと?
俺の前で綺麗に土下座をキメているのは、
あのバカ一族の…あのアホ兄弟だった。
で?
テメエら、なんでここに居やがるんだよ?
「ご、ご説明します、我が主よ…」
あ?テメエの主になった覚えなんぞ、一ミリもねえんだが?
「そ、そんな…」
そこにアズラが困り顔で俺に近づいて来た。
聞けばあの時…久々に腹いっぱいの肉を食って、みんなそのまま眠りこけたらしく、
朝起きてみれば、俺が何処にも居なかったと。
で…バカ王が、お前らさっさと探してこいと、兄弟に命じたと…
確かに一切気付かれる事も無く、城を出たのだが…
歯も磨かずに食っちゃ寝だと?
…マジで、ダメダメやんけ?
もう判った。もう帰っていいぞ?いや…直ぐに消えてくれ、頼むから…
そんな悲しい顔の俺に待ったを掛けたのは、まさかのちびっ子達だった…
こいつら、俺の留守中にここまで来たらしく、
更にイキって偉そうにした途端に、次々と罠にハマり…
ようやく這い上がって来たところを、ジョンにぶっ飛ばされ、
アーデとシレンさんに追撃され、
それこそボッコボコにされたらしい…
ザマア…
それ以外の言葉さえ、何も浮かばんのだが?…
何が最強の竜族だ?お前らがバカにする人間に、まさにいいようにやられといてよ?
「そうです…すっかりと身の程を知りました…」
「まさか…これほどまでに人間が強いなど…」
…いや、お前らが弱いんだよ。身体も、お頭もな…
折角の記念日に水を差しやがって…そんな怒り沸騰だった俺を、
何故か、ちびっ子達が庇ったのだが…?
小さな少女が俺に言うのだ…ゆるちてあげて…と…グヌヌヌヌヌ…
で、こいつらも?
白もそうだったが、脳みそが、思考が、まさにここのちびっ子達並みだったこいつら…
勿論…アズラの存在、影響も有ったのだが、
故に当然、すぐにみんなと仲良くなったと…
オセロが楽しいのだと?
グヌヌヌヌヌ…ま、まあ良い、き、きょ、今日は、今日だけは…許す…
一旦な…一旦、見なかった事にしておく…
俺は寛大だからな…
「申し訳御座いません…主よ…」アズラがそう俺に言ったが…
いや、こいつらお前が呼んだんじゃ無いんだろ?
「はい…勿論です…」
じゃあ、どうやって?しかも、ここまで来んの速くね?
アズラ曰く、どうやらこいつら一族にだけ見える…空間の歪?的ななんか…
そこを無理矢理通って移動するんだと。
そうすっと、とんでもない距離でも結構簡単に、短時間で移動出来てしまえるらしい…
ただし、そうそう都合の良い場所には歪が無いらしく、
歪を出てそこそこは飛ぶのが、割と普通なのだと…これでも遅いほう?…なのか?
で?
なんでピンポイントでここが判ったんだ?
答えは匂い…だそうだ…
え?俺…臭うのか?ちょっと凹むんだが?
「いえ、我の匂いで御座います…」
そうか、臭うのはアズラだったのか…とか言ってたら、流石にアズラに怒られた。乙女に向かってなんて事をと…
別に鼻が曲がる程に臭い訳じゃ無く、
竜族にはどれだけ遠くても、竜族にだけ感じ取れる特有の匂いが有るのだと…
高度こそ上下したものの、九郎がほぼ一直線に飛んだせいで、
こいつらの飛ぶ高さに、アズラの匂いが点在していたそうで、
それを辿って来たそうだ。
で?
ボコられた後、呑気にここで俺を待っていたと?
ふーーー…そうか。
お前ら運が良いぞ?俺の機嫌が悪けりゃ、もうとっくに死んでたからなと…それだけは言っておく。
改めて宣言だ。
この、記念すべき日に相応しい…そんなご馳走を作ろうと思う!
わーわーっと、すぐ様、盛大な拍手と歓声が巻き起こる。
まずはイサク、前に頼んでおいた、例の大鍋を頼む…
「判った…すぐ用意する…」
じゃじゃーん。まずは巨大な寸胴だ。
ココ用に一つと、シャダんとこ用に一つ…
そして大きなの中華鍋も二つ。
まずは巨大な寸胴でスープを煮る。当然昆布出汁入り。
ここにジャガイモ的な芋と、ほっそいニンジンっぽいの、
そして水牛の肉…一応立派なビーフだと思ってぶち込む。これは出汁用の肉ね。
そして関西人だからな、当然、普通の部位とは別に、スジ肉も使うのだよ。
ちゃんと一旦、下ゆでもしたぜ?当然だ。それもぶち込んでいく。
中華鍋では、色が違うがきっと玉ねぎだろう?物を、細かく微塵切りにし、茶色になるまで炒めていく…チャツネだな…
ここにシャダ商会の繋がりを総動員させて、集めたスパイスをぶち込んでいく…
中でもキモはターメリック、つまりウコンだ。
やはりあの色の大元だからな…これは絶対に欠かせない。
とある場所で、高級な薬として売られていた。
そういやウコンって漢方薬でも有るな。良い値段だったらしい…
だが…薬屋を金貨の袋でぶん殴って、在庫全てを買い漁ったのだった。
他にも、クミンシード、コリアンダー、唐辛子やカルダモン…俺の記憶に有った香辛料の、見た目のカタチ、匂い、
俺の脳みその記憶に有る全てを、
シャダやトニーに伝えて、アチコチ探して貰っていたのだ。
ただ、どれもホントの…俺の求めるやつかは判って無い。元々の状態なんて、流石に俺は知らないからな。
似たようなヤツ…それが現状である。
そして、辛すぎても、ちびっ子達には無理だ。丁度良い辺りを探って調整していく。
時々カレーパウダーを舐めて、スパイスの量を調整していく。
かつて三回ほど、自宅でスパイスから、カレーを造った事がある…勿論、料理本の分量をフルコピーだったが…
モテたいのなら、断然料理だろと…そう、友達に唆されたのだが…
料理本とか、今ここにそんな都合の良いものは無い。全ては俺の直感だけが頼りだ…
まあ…最悪煮れば大抵は、多分どうにかなるのだよ。
なので恐れてはダメだ、攻めの姿勢は決して崩さないで行く。
中華鍋では肉も焼く。焼き目を付け、香ばしさを出すのだ。
そして、全てを合わせていく…悪くない、イケてる気がする…
やはり、米が無いのだけが辛いのだが、
代わりに複数の豆を入れた。ちょっとチリコンカンもイメージしている。
小豆っぽいのや大豆っぽいの、ひよこ豆っぽいの…入手可能な豆はおおよそ手に入れて実験はしていた。
煮て、強く味に影響が出るものは今回は省く。なるべくオーソドックスなとこに着地したいのだが…
ある程度具が多くないと、米の存在を消せやしないからな…
故にカレーライスというよりは、具沢山のカレーシチュー…それを目指すのだ。
ナンのかわりのパンも用意した。ぬかりは無い。フッフッフ…そう、俺は出来る男なのだよ?
さあ終盤だ。今こそ集中しろ…スパイスを、味の変化を見極めるのだ…
イケる…俺ならやれる筈だ。自分を信じるんだ。
ふと気付けば、ほぼ全員が俺を…いや、この鍋を無言で取り囲んでいた。
…ちょっとビビった。
うーーーんいい匂いだぜ。
そう、この匂いだ。かなり本物にも近いと思う…
ここのこの材料で、よくぞここまで出来たものだと…よくやったと、自分を褒めてやりたいと思うよ…
後はもう少し、味をまとめ落ち着かせるべく、煮込む…
子供は正直だな。あっちこっちから、腹のなる音が聞こえて来るな…
うむ…良いだろう…そろそろ頃合いだな。
今日の食事当番さんは、直ちに集合だ!
配膳を頼むぞ。
どうだ、皆に行き渡ったか?
じゃあ…せーの、
「「「いーたーだーきますっ♪」」」
よし、まずは一口…って、何だ…ジョン?
そ?そうだな、そうだった。お前は内臓だな。
よし、すぐに出すよ。だからそんな悲しい顔は辞めてくれ…
ほら、食え。
ふー、よーしだ、まずは一口…って?今度は何だよ?バカ兄弟か?
あ?良いよ、食えよ?生肉じゃあねえが、食えるんなら食え!
ふー、ふー、やっとか?
まずは一口…って、なんですか親戚さん?
なんで泣いてるんですか?
え?…ちょ、
い、嫌だ、手を離して、お願い…手を…
ああ、はいはい、判った、判りましたから…
後で聞きますから、
いい加減、俺にもカレーを食わせてエエエ…




