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流行り病

 ビネリで依頼等をこなしていたら、すぐに10日が経った。

 私は宿を変えていなかったので、そこにシャスデリがやってくる。

「あ、シャスデリ。どうだった。料理の方は」

「ああ。まあ、良い勉強にはなったよ。だが、まだまだだな。まだペースには帰れねえ。二リハ、次の町に行こう」

「わかったわ。じゃあ支度をしたら、すぐね」

「ああ」

 今の旅は、護衛依頼とか探さずに、準備をすればすぐ出発だから、早い。

 ビネリのミルクは美味しかったけど、それもこの町ならではのものだ。次の町も、また美味しいものがあると思いたい。


 旅に出て、その日の夜。旅の宿でまたシャスデリに料理を教えてもらった。

「スープを教えてほしい?」

「ええ。水と鍋はあるから、せっかくだから作りたいの」

「いいが、スープってのは更に味を濃くするものだぞ。塩を節約したいなら、断然焼き料理だ」

「そうなの?」

「水を入れたら、味が薄くなるだろ。だからいっぱい使うようになるんだよ」

 なるほど?

 実際に作ったことないから、あまりよくわからない。

「じゃあ、シャスデリはスープは教えてくれない?」

「いや、作りたいなら教えるが、材料はあるものだから、結局焼いたのとあまり変わらないぞ。それでもいいのか?」

「ええ、いいわ。たまには変わったものも食べたいじゃない。だから、よろしく」

 こうして、私はシャスデリからスープ作りを教わった。

「スープを作るときは、重要なのは根菜だな。煮れば煮るほどスープ自体の味も良くなる。葉野菜は彩りだな」

「なるほど」

「干し肉自体にも塩は効いているが、大体それじゃ足りない。全部に火が通ったと思ったら、味見をしながら塩を加えていけ。あとスパイスを入れるなら、これとこれとこれが良い。これとこれは焼き料理専用だ」

「なるほど」

 シャスデリにたまに注意されながら、なんとかスープを作る。

 味は、結構良かった。シャスデリが渡してくれたスパイスを入れたのもあるだろうけど、味見をしながら少しずつ味を整えたのが良かった。スープは焼き料理と違って焦げないから、作るのにも余裕がある。

「いや、スープも焦げるぞ。ずっとかき混ぜてたら大丈夫だけどな」

「そうだったんだ。でもなにより、スープの方が失敗しにくいわよね」

「そうでもない。スープの方が作るのに時間がかかるしな。慣れれば焼き料理の方が圧倒的に楽だ」

「そっか」

 でも、スープの方が上手くできた気がする。ひょっとしたら私は、スープ作りの方が主流になるかもしれない。

「にゃー」

(うまうま)

「キュー」

(熱い野菜もなかなかですう)

「ピー!」

(美味しいわ!)

「ギャウ」

(結構いけるな)

 皆からも評判は良い。ふふ、自分の料理を美味しいって言ってもらうのはうれしいわね。

「自分の料理を美味しいって言ってもらうのはうれしいわね」

「だろ。だが、レストランを始めても客が来ない日もある。少なくともお前さんの腕前じゃ、まだまだだな」

「う、精進します」

 確かに、まだ一人で作ったことはないものね。

 ちゃんとシャスデリが教えてくれたスパイスの名前とか、憶えておこう。

 そう思って、寝て、翌朝シャスデリの料理を食べて、やっぱり私はまだまだだなって思ったりもして。

 そうしながら、先に進んだ。

 そして、3つ村を越えて、次の町、ジュワクに着いた。

 そこでは、流行り病が発生していた。


「駄目、閉まってる」

「ここも駄目か」

 私達は泊まれる宿屋を探していた。

 けれど、どこも閉まっている。

「困ったわね。これじゃあ泊まれないわ」

「おい、どうする。これはまずいんだろ?」

「ええ。たぶん、野宿なんてしたら、警官に見つかれば捕まってしまうかも」

「まいったな。二リハ、どこか他に行くあてはないか?」

「うーん」

 私はモエル達を見回してから、思いついた。

「そうだわ。冒険者ギルドでも宿をやっていたから、そこでなら泊まれるかも」

「おお、そうなのか。それじゃあ案内してくれ」

「ええ。でも、一応言っておくけど、そこ、最終手段なの」

「なんだ、なにか問題があるのか?」

「広い部屋一つきりで、泊まった人全員がそこで寝るから、安全とかは保証されないの。荷物を置いておくこともできないわ」

「それはひどいな。だが、このまま開いてる宿が見つからねえかもしれないし。まあ行くだけ行ってみるか」

「ええ」

 こうして私達は、冒険者ギルドの宿スペースを頼った。

 そこで見たのは、なんというか、地獄だった。


「ううう」

「体が、熱い」

「寒い」

 宿スペースの半分以上に、苦しみながら寝ている冒険者達がいる。

「あの、あれはどういうことですか?」

 受付嬢のもとに戻って事情を聞いてみると、すぐに答えてくれた。

「今、ジュワクでは流行り病が蔓延しておりまして、冒険者もほとんど感染しているんです。症状は悪く、見ての通り歩けなくなる程のもので、自然に治るのも半月程かかるとか」

 それは、なんというか。

「間の悪い時にやって来ちまったなあ」

 シャスデリの言う通りである。

「じゃあ、宿屋が開いてないのも」

「おそらく、宿の主人も流行り病にかかっているのでしょう。数人の冒険者も、宿が開いてないからこちらへ来たと言っていましたし。まあ、その方々もここですぐに感染したみたいですが」

 これはまずいわね。

「キュー!」

(病気なんて、魔法で治せばいいんですけどね!)

 そうだ。私達には病気を治せるシャインがいる。

「あの、うちの子は治療魔法が使えるんです。なんとかできないでしょうか?」

「本当ですか。それは助かります。実はギルドマスターも今倒れておりまして。よければ治していただけますか?」

「はい」

 ひとまずは、ギルドマスターを助けよう。

 そして次に、私達を助けてもらおう。


 ギルドマスターの流行り病は、シャインの魔法一発で治った。

 お礼を言ってくれるギルドマスターに、私達は今日以降の宿泊先を要求。

 するとギルドマスターが、閉まっている宿を一緒に訪ねてくれるということになった。力と権力を使って強引にギルドマスターが宿の扉を開け、宿の人が病で苦しんでいたら、シャインが治療。そして元気になってもらったところで、宿を再開してもらう。

 この狙いが上手くいき、私達はなんとか宿に泊まれた。

 しかも、お代は無料。というか、病の治療費代わりに泊めてくれるとのこと。

 これで、私達の寝泊まりする場所はどうにかなった。

 その後、更にギルドマスターは、冒険者ギルドで病治療の依頼を出すから、受けて欲しい。と言われた。

 報酬は一回2千シクル。その値段での治療が終われば、その後は教会に行って治療の続きをおこなって欲しいと言われた。

 私は指名依頼なので、受ける。報酬も良かったしね。頑張るのはシャインだけだけど、シャインしか治療魔法が使えないので仕方ない。

 シャスデリは、冒険者ギルドの酒場で少し働くことになった。流行り病のせいで人手が足りないらしい。冒険者ギルドで私が皆を治していくから、ギルドの酒場も自然と繁盛するようになった。

 私とシャインは冒険者ギルドから与えられた個室でひたすら病人を治療していく。でも、シャインの魔力が切れたら終わり。魔力ポーションもあったけど、貴重らしく1つ1万シクルもしたし、シャイン自身あんまりそれを飲めなかった。だから毎日、魔力を使い切ったらひたすら休ませて回復させるというサイクルをおこなう。

「キュー」

(何度も魔力が切れると体がグテっとしますー)

「ありがとう、シャイン。病気が皆治るまで頑張って」

 最初は、お金がある冒険者や金持ちが押し寄せてきた。ある時は出張所に行ってそこで病を治す。

 その波が終われば、次は教会での治療だった。そっちはお金の無い人達がメインで、報酬の代わりに、教会の人達がしばらく私達の生活を面倒みてくれるということになった。

 シスター達は申し訳無さそうにしていたけど、私としては誰かのために役立てるならやってみる価値はあると思った。報酬が安いから誰かを助けないなんて冷たい態度はとれないし、とらない。まあ、全部シャイン任せだけど。頑張って、シャイン。

 そんな生活をしていると、やがて皆の流行り病も自然と治っていった。

 すると、一人の絵本作家が私達のことを題材にしてくれた。

 その名も、癒やしの二リハ。

 病で苦しんでいる町に、優しい少女、二リハがやって来て、病を治すウサギと共に皆を元気にしていくというお話。

「売れたら儲けの一割を二リハさんに差し上げます。商業ギルドに登録しておきますね」

 とてもありがたい申し出だったが、正直絵本なんて、売れるかどうか怪しいと思う。私だったらまず買わないし。

 そして、商業ギルドもお金を預けるサービスはあるものの、各地で稼いだお金をその場で受け取れるようなサービスは無いらしい。だから、旅の途中の私が、その場で各地で売れた絵本のお金を商業ギルドから引き出すことはできないし、別の町でお金をおろすサービスも、あらかじめお金を利用した場所で金券をもらうようにして、それを交換するようになるんだとか。

 つまり、私は絵本の代金を受け取ることはほぼ不可能なわけだが、どこかに定住していれば、そのお金を一箇所に集めてもらい、引き出すことはできるのだという。

 なので、私は自分の故郷の村の両親にお金が届くようにお願いしておいた。

 もしかしたら手紙よりも早く届くかもしれないけど、まあ、私が無事なことが伝わるならそれでいいし。

 それに、村って何もないものね。だから、少しはお金があったって良いと思う。

 自分の分は、自分で稼げばいいわけだしね。

 そして、この町で病み上がりに効く食事をたくさん作ったシャスデリは、満足げに言った。

「いやあ、ここでは結構稼がせてもらったな。ここの料理も一通り味わったし、次に行くとしよう」

「そっか。結構大変だったけど、あんまりゆっくりはできなかったわね」

「それじゃあもう少しここにいるか?」

「いいえ。皆は町でのんびりするのに飽きてきてるし、私も次の町へ行きたいわ。しばらく戦いが無くて、腕がなまってるしね」

「ははは、さすがは冒険者だ。じゃあ、早く出発しよう」

 こうして私達は、ジュワクを後にした。




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