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ミルクのような恋

 まずはビネリで包丁を買う。あとまな板。

 フライパンと、塩も。ああ、新しい皿やフォークなんかも必要だ。

 鍋は、どうするか。スープは水が必要だから遠慮してるのよね。というかシャスデリが焼き専門だし。ああでも、旅の宿には井戸があるし、それが使えない場合でも、テムに水袋をもっと持ってもらえば、少しは煮込み料理もできるかも。次シャスデリに教えてもらおうか。

 スパイスは、少ししか名前を憶えていないし、そもそもここの店には無いようなものもある。あと塩より高い。シャスデリはスパイスを豪快に使うけど、私は初心者だから、少し控えておこう。やれる気になって失敗してたら駄目だし。

 でも、これで私でも料理できるようになった。はず。まだシャスデリに見てもらわないと無理かな?

 いやいや、ただ焼けばいいんだし、一応食べれるものは作れるわよ。火もモエル達が協力してくれるし、もう今度からは保存食以外も食べれるわね。

 まあ、もっとシャスデリから教えてもらわないといけないけど。あと、干し肉とかは保存できるからやっぱり買うのよね。甘いものを食べたい時はドライフルーツが一番だし。

 とにかく、これで私の旅は前より豊かになった。それにシャスデリの料理もまだ食べれる予定だから、結構良い。

 シャスデリ、もうここで旅は終わりとか、言わないわよね?

 いや、それならそれでいいんだけど、ちょっと拍子抜けというか、肩透かしというか。でも、奥さんを待たせるよりは良いわよね?

 ともかく、そこのところはシャスデリの感想を聞いてからね。

 ここの料理はスープがミルクで作られるから変わっていて、結構美味しいんだけど、シャスデリ的にはどうなのかしらね?


 買い物してたら結構良い時間になったので、ちょうどよく見つけたレストランに入った。

 レストランソフトクラウド。クラウドと聞いたらクラウドマンを思い出す。結構あいつで稼がせてもらったわよね。おかげでまだお金に余裕があるわ。

 中は結構混んでいた。私達は男女二人組の隣の席に座る。

「やっぱり、私達もう、別れた方が良いかもしれない」

「そんな、待ってくれ。もう少し二人で考えよう!」

 その瞬間、隣からそんな話し声が聞こえてきた。

 なんか、いきなり気まずいところに来てしまったわ。

「でも、もう限界よ。クリムだってそう思うでしょ」

「そうだけど。けれど、これで別れるっていうのは、納得できない。タバーナもそう思うだろ!」

「私だってそうよ。でも、このままじゃ私達、永遠に結婚できないわ」

 ちょっと気になって声がする方を見ると、その女性がちらりと私達を見た。

「あ、猫。可愛い」

「ん、ああ、本当だね。他の動物達も可愛いね」

 ありがとうございます。でも二人に元気がない。どうせならもうちょっと良いリアクションが欲しいと思う。せめてモエル達を見て少しでも元気を出して。

「でも、黒猫ね。縁起が悪いかも。ひょっとして、私達ももうここまでっていう意味じゃ」

「そ、そんなことないよ!」

「不吉なこと言わないで!」

 思わずそう返してしまった。

「あ、ごめんなさい」

「い、いえ。その。思考がネガティブでも良いことありませんよ。厳しい時こそ、諦めないことです」

「ありがとうございます。そうですね。ひとまず今は、楽しまないと。せっかくのクリムと会えている時間なんだし」

「そ、そうだな。ありがとうございます。ええと、ペットのお散歩ですか?」

「いいえ、仲間です。私達、旅をしていて。これでも私も皆も、強いんですよ」

「へえ、そうなんですか」

「ということは、冒険者なんですね」

「はい。あの、せっかくですから、なにか困りごとなら相談に乗りましょうか?」

「そう、ね」

「のっていただけますか?」

「はい。といっても、私が役に立つかはわかりませんが。でも、人に話すと見えてくることもあると思います」

「そうですか。では、お願いします。こっちの席に来てください」

 私は二人、クリムとタバーナから、この店のオススメを聞いてそれを注文してから、二人の事情を聞いた。

「私達、どちらも家が農家なんです」

「それなりに大きい牧場を経営していて、でも大して儲かってもいないから、毎日忙しくて。それで親は、どちらも結婚すれば、相手が来てくれて牧場を手伝ってくれるって思ってるんです」

「私達も、別に仕事は嫌じゃないんですが。でも、私達が結婚するとしたら、どっちがどっちの牧場に来て、正式に後を継ぐんだって話になって。揉めに揉めて。そのせいで、結婚できないでいるんです」

「なるほど」

 これは、確かに困った話だ。

 二人が一緒に暮らせば、どっちかの牧場に専念することになる。それを両方の両親が願っている。と。

「一応聞いておくけど、両方の牧場で働いたりとかは、できないのよね?」

「無理ですね。生き物を扱う仕事っていうのは、基本年中無休です。それをどっちつかずでやるというのは、はっきり言って無茶です。俺達はどちらもそれをわかっています」

「なるほどお。なら、いっそのこと、どっちの牧場も継がないっていうのは?」

「私達は、両親が毎日苦労していることを知っています。そんな2つの家から、自分たちのことだけを考えて蒸発だなんて、できません」

「そうよね」

 話を聞いてみて、わかる。二人共良い人だ。そんな二人だからこそ、悩んでいるのだろう。

 それこそ、自分たちの愛を諦めようと思ってしまうほどに。

 けれどその点を考えると、私としては少し二人に苛立つ。

 その思いを言葉にしようとして、ある話を思い出した。

「ねえ、バターナ、クリム。二人は絶対に一緒に暮らさなきゃいけないの?」

「え?」

「それって、つまり、やはり、二リハさんも諦めろということでしょうか?」

「違うわ。二人は、オリリンとヒコリンの話を知っていますよね?」

「はい。有名なお話ですよね」

「天に住んでいるオリリンとヒコリンは、相思相愛ですけど、年に一度しか会えないんですよね。でも、その一度のために、お互いを永遠に思い合って、待ちわびているという」

「そうよ。あなた達の愛は、オリリンとヒコリンに劣るの?」

「!」

「別に一年に一度とまでは言わないわ。でもたまにでもこうして、お互い会っているんでしょ。なら、それでもいいじゃない。むしろ会いたいと思えば会える分、あなた達は羨ましいわよ」

 私なんて、会いたいと思っても会えるかどうかすらわからないし、何年かかるかもわからないのだ。

 そんな私からしたら、思い合っている二人は十分幸せだ。

「お互いの牧場が心配なら、そのままどっちも働いていればいいじゃない。二人が分かれていても、大事なのは、結婚できるか、二人なりの幸せを築けるかどうかでしょ。違うの?」

「そうだ」

「私達は、ただ一緒に住むなんていうこだわりのために、大切な愛を見失っていたわ」

「ありがとうございます、二リハさん。俺、タバーナと一緒に暮らせなくても、タバーナを愛し続けます。結婚もしたいです。親にそう言って納得させます!」

「私もです。私もクリムと結婚したい!」

「タバーナ!」

「クリム!」

 なんだか、ちょっとしたことで二人の空間は瞬く間にラブラブになった。

 ともかく、これで良かったのだろう。まだ何も解決してないけど。

 でも、終わってしまう恋より、永遠に続く恋の方が良い。

 私は、この二人の恋が、いつまでも続きますように。と願った。

 あと、二人から冒険者として依頼を受けた。

 本当はおごってくれるって言われたけど、私は結構お金持ってるし、遠慮したら、それだったら冒険者として使ってくれると言われた。

 それだったら、モエルは火を出せるし、シャインは怪我を治せるし、ミドリは薪を出せるし、テムはなんでも物を運べるから、任せて。と言ったところ、それらの働きぶりを頼りにクリムの牧場で使ってもらうことになった。

 そして明日は、タバーナの牧場に行く。

 報酬はそんなにもらえないだろうが、ただモンスターを狩りに行くよりも良い気分転換になるだろう。それに、頼られるのはうれしい。

 あと、その日と明日と、二人の牧場でご飯とミルクをごちそうしてもらった。

 しぼりたてのミルクと、そのミルクを使った料理は、格別に美味しかった。


 その後、クリムとタバーナは、両親に同棲しない結婚を提案し、熱く説得した。

 すると、どちらの両親も二人の熱意に負け、しかも結婚するのに同棲しないのは駄目だということで、旦那の家に住み、かわりにクリムの牧場から二人の働き手がタバーナの牧場に移ることになった。

 あと、二人に長男が生まれたら、その子はタバーナの家の牧場を継がせるという約束をしたらしい。

 こうして、二人は幸せに暮らせるようになったという。

 二リハ、ありがとう。

 そういう手紙を、冒険者ギルドからもらった。受付嬢が渡してくれたので、私はビネリを出る前に、クリムの牧場に行って花束を渡しておいた。

 やっぱり、愛を手放さないのは大事なのよ。幸せを諦めたって、それからまた幸せになれるなんて限らないわ。

 思いを貫けば、手に入るものもある。

 私は二人にそう教えてもらって、清々しい気持ちで次の旅へ出る。

 きっと私の思いも、最後には幸せまでたどり着けるはずだ。




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