一発ネタ02今年の話をしても鬼娘が笑った
ふと目が覚める。どうやら寝てしまったらしい。
少しだけ顔を上げて周りを見渡すと、隣で彼女が背を向けて胡座をかいて座っていた。僕が起きたのには既に気付いているはずだ。もしかしたら拗ねているのだろうか。
時計を見ると、時間は0時を32分過ぎていた。ああ、そういえば一緒に年を越そうと言っていたっけ。
「おめでとう」
僕は彼女の背に向けて言う。けれど彼女は答えない。水音がするだけだ。彼女の背越しに、僕が買って上げた漆塗りの大きな杯の端が見える。質の良いアルコールの匂い。上質の日本酒だ。僕の低い位置からは見えないが、なみなみと注いでいるのだろう。とぽとぽという注ぐ音が長い。
注ぎ終わったのか、重い瓶を床に置く音が響く。そのまま彼女は杯を煽る。肝臓が強いらしい彼女はあの程度は大丈夫なのだろうが、それでも無視されるのはいい気はしない。原因は僕が悪いとしても。
だから僕は身を起こす。彼女に後からしな垂れかかり、耳元に口を寄せる。
「あけましておめでとう」
「ふあぁああ!」
体の震えが背越しに伝わる。耳の裏が弱点か。良いことが分かった。
「あ、あ、あけましておめでとう」
最後の方はごにょごにょと聞き取りにくかった。
「来年の話をしようか?」
「笑わないからな」
「じゃあ今年の話」
「何?」
「結婚しようか」
背越しの体温が熱くなっていく。心なしか肌も赤い。
「くくっ、はっはっは!」
と思ったら彼女が笑いだす。
「どうしたの?」
「くっくっく、うれしいんだよ!」
ぐぃーっと彼女は杯を煽ると、僕に向き直り、僕の胸に頭を付けて抱きしめる。角が痛いです。
「な、な、もうさよならのキスは要らないからな! すぐにお役所行こう、な!」
気が早い。けど、僕も気が逸る。だから、
「まずはもっと愛し合ってからにしよう、ね」
今年の話をしても鬼娘が笑った話。
爆発してください。
20130102-0:30オチの一文追加




