↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者はまだ見ぬロマンを求めて  作者: 片山武琉
第二章 宝を探す街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/77

第二章64『遺跡の入口』


 翌朝、ルイスが宿の階段を下りると、オリバーは食堂で朝食を取っていた。


 昨日、商店の主人に紹介してもらい、どうにか部屋を確保できた宿だった。食堂には他にも冒険者がいて、卓上に広げた地図を覗き込んでいる。


「おう。起きられたか」


「馬鹿にするなよ!俺だって立派な冒険者だぞ!」


「荷物は確認したか?」


「した!」


 ルイスは肩に掛けた袋を持ち上げた。


 食料、水、縄。それから、昨夜買って、使い方を確かめておいた照明の魔道具。腰には短剣がある。


 オリバーは袋を見て、頷いた。


「今日は最初から奥へ行くんじゃねぇぞ」


「入口の近くを調べるって、昨日決めた」


「そうか。誰と行くんだ?」


「レオンとフィリア!」


 ルイスは席の横に立ったまま、二人のことを話した。


 Cランクの剣士と、遺跡を調べながら旅をしている少女。


 剣士の方は剣だけがどうにも苦手らしい、と説明すると、オリバーはパンを持つ手を止めた。


「……そいつ、大丈夫か?」


「避けるのはすっごいうまいんだ。昨日の手合わせでも、一回も当たらなかった」


「ふうん」


「それに、フィリアは古い文字とか分かるんだぞ。地図も自分で描いてた」


「そりゃ頼もしいな」


 オリバーは残りのパンを口へ入れ、壁の時計を見た。


「で、集合はいつだ?」


「朝の鐘が鳴ったら!」


「なら、飯食っていけ。腹が減ってちゃ、途中でへばるぞ」


 ルイスは空いている椅子へ腰を下ろした。


 昨夜も、ベッドへ入ってからしばらく遺跡のことを考えていた。


 遠くから見えた大きな入口。その上に彫られていた、まだ何か分からない絵。


 今日は、それを間近で見られる。


 運ばれてきた朝食を平らげると、ルイスは袋を背負い直した。


「じゃあ、行ってくる!」


「ああ。気をつけろよ」


 扉へ向かう背中に、オリバーの声が続く。


「面白いものがあったら、帰ってから聞かせろ!」


 ルイスは振り返り、大きく笑った。


「任せろ!」


――――――――――


 ギルドの前には、既にレオンが立っていた。


 白い上着の上に革の胸当てを着け、腰に剣を下げている。足元には、口をきっちり結んだ荷袋が置かれていた。


「おはよう!」


「ああ。時間どおりだな」


「まだ鐘は鳴ってないぞ」


「俺もそう思っていたところだ」


 ルイスが近づくと、レオンは鐘楼へ目を向けた。


 その隙に、ルイスは荷袋を見る。


 大きさも、中身の詰まり方も、自分の袋とは随分違った。


「それ、何が入ってるんだ?」


「食料と水、それから道具だ」


「……何日分?」


「今日の分だ」


 ルイスが顔を上げる。


 レオンは当然のように頷いた。


「帰りの分もある」


「俺も帰りの分まで入れてるけど」


「足りなくなったら言ってくれ」


 心配している方向が違う気がしたが、レオンの顔は真剣だった。


 ルイスは笑いながら荷袋から目を離した。


「ありがとう!」


「おはようございます」


 声に振り向くと、フィリアが通りを歩いてきていた。


 青いリボンで留めた栗色の髪が、朝の風に揺れている。革鞄の他に小さな背負い袋があり、腰の杖も昨日よりしっかりと紐で留められていた。


「二人とも、早いですね」


「今来たとこ!」


「準備はできている」


 レオンが荷袋を持ち上げる。


 フィリアの視線が、一度だけその膨らみで止まった。


 けれど、何も言わずに二人へ顔を戻す。


「では、出発しましょうか」


 ちょうどその時、鐘が鳴った。


 通りを歩く人々の頭上へ、澄んだ音が広がっていく。


 ルイスは鐘楼を見上げ、それから街の外へ続く道に向き直った。


「よし。行こう!」


 三人は、朝の通りを歩き出した。


 店先では職人が戸板を外し、露店の男が品物を並べ始めている。昨日は人で埋まっていた道にも、今は馬車の通れる隙間があった。


 街を出ると、道の先に同じ方向へ向かう冒険者たちが見えた。


 大きな盾を背負う者。荷車を引く者。仲間と話しながら、歩幅を合わせる者。


 ルイスもその列の後ろへ続く。


「みんな、今日も宝を探しに行くんだな」


「調査や物資の運搬もありますよ」


 フィリアが答えた。


「あの荷車は、昨日ギルドにあったものではありませんか?」


 指さされた先を見て、レオンが頷く。


「俺が積んだ箱だな」


「そういえば、レオンはどうして遺跡に来たんだ?」


 ルイスが尋ねる。


「宝を探すためだ」


「やっぱり!」


「古い武具が見つかるかもしれないだろう? どんなものか見てみたい」


「剣も?」


「ああ」


 レオンは腰の柄へ手を添えた。


「昔の剣士が使っていた剣だ。形も造りも、今のものとは違うかもしれない」


「それ、面白そうだな」


「だろう?」


 レオンの声が弾んだ。


 フィリアが二人の顔を見て、小さく笑う。


「武具が見つかったら、置かれていた場所も記録させてくださいね」


「ああ。君が調べてから、俺が見る」


「すぐに振らないでくださいよ」


「……分かった」


「今、少し迷いましたよね?」


 ルイスが笑うと、レオンは前を向いた。


「手に取るなら、重さくらいは確かめたいだろう」


 その気持ちは、ルイスにも少し分かった。


 まだ何も見つかっていないのに、三人の話は道具や彫刻、財宝へと広がっていった。


 畑を抜け、林へ入る。


 木々の間に続く道は、何度も人が通ったのか、踏み固められた土が露出していた。途中では枝が払われ、荷車の轍も残っている。


 やがて木々の向こうに、昨日見た崖が現れた。


 ルイスは歩く速度を上げかけて、踏みとどまる。


 フィリアがその足元を見た。


「走らないんですね」


「近くで見たいけど、三人で来たんだし!」


 彼女は少し驚いたように顔を上げ、それから微笑んだ。


 レオンも歩幅を合わせる。


 林を抜けた途端、視界が開けた。


「……うわ」


 ルイスは足を止めた。


 目の前に、巨大な石の入口が立っていた。


――――――――――


 遠くから見た時は、崖に開いた黒い穴だった。


 近くで見ると、まるで違う。


 入口の両側には、人が何人も並べそうなほど太い柱があった。表面には葉や蔓のような模様が彫られ、その間を、小さな鳥に似た姿が飛んでいる。


 柱の上をつなぐ石にも、同じ模様が続いていた。


 ルイスは首を反らした。


「こんなの、どうやって作ったんだ……?」


 手を伸ばしても、彫刻の一番下にすら届かない。


 昨日、街から見た凹凸の一つ一つが、今は葉や羽の形として見える。


 フィリアは入口を見上げたまま、鞄から記録帳を取り出した。


「すごい……」


 いつもの説明するような口調ではなかった。


 ルイスが振り向くと、彼女の緑色の瞳は柱の模様を追っていた。紙へ目を落とし、すぐにまた顔を上げる。


「この葉の並び、途中で変わっているんですね。上の方は花でしょうか。あの鳥も、左右で向きが……」


 鉛筆を動かしながら、小さく呟いている。


 ルイスも同じ場所を見上げたが、どこが違うのかはすぐに分からなかった。


「フィリア」


「はい?」


「口、開いてる」


 彼女は慌てて唇を閉じた。


 レオンが横から柱を見上げる。


「俺も開いていたか?」


「うん」


「そうか」


 そう言ったルイスも、次に上を見た時には、また口を開けていた。


 入口の前には天幕が並び、道具や木箱が積まれていた。焚き火のそばでは、湯を沸かしている者がいる。


 受付代わりの机へ近づくと、ギルドの職員が顔を上げた。


「探索の方ですね。お名前をお願いします」


 三人が名乗ると、職員は書類を確かめた。


「ルイスさん、レオンさん、フィリアさん。入口付近の回廊と広間を調査して、今日中の帰還予定ですね」


「はい」


 フィリアが答える。


「分かりました。戻られたら、こちらへ一言お願いします」


 職員は遺跡の入口へ手を向けた。


「床が傷んでいる場所があります。縄や板で印を付けているので、その先へは入らないでください。新しく危険な場所を見つけた場合も、無理をせず報告をお願いします」


 三人は頷き、机を離れた。


 ルイスは照明の魔道具を袋から取り出した。


 手のひらに収まる金属の灯具で、覆いをずらすと、内側に淡い光が灯る。


 フィリアも鞄から灯具を取り出していた。レオンは荷袋の口を開き、食料の包みを押さえながら、その脇に入れていた灯具を引き抜く。


「これ、買っておいてよかったな」


「奥は外の光が届かないでしょうから」


 入口に近づくにつれ、足元の土が大きな石板へ変わった。


 その端で、フィリアが立ち止まる。


「どうした?」


 ルイスが尋ねると、彼女は柱の内側を指さした。


「ここの石、外側と積み方が違います」


 蔓や鳥が彫られた柱の内側に、飾りのない石が重ねられていた。


 大きさも色も、少し違う。


 ルイスは見比べた。


「壊れたから直したとか?」


「そうかもしれません。入口を狭くするように足してあるので、後から変えた可能性もありますね」


 フィリアは記録帳へ数行を書き込んだ。


「昔の人も、建てた後で作り直すのか」


「長く使っていれば、直すこともあるでしょうね。用途が変わることもありますし」


 ルイスは柱の外側から、内側の石へ目を移した。


 一度に全部できた建物だと思っていた。


 けれど、その後にも誰かが来て、手を加えている。


 遺跡の姿だけでも、ずいぶん長い時間が残っているのかもしれなかった。


「ここに溝があるぞ」


 レオンが足元を見て言った。


 敷石には、指先ほどの幅の溝が刻まれていた。入口を横切り、その両端は壁際へ続いている。


 途中の一か所だけ、石の縁が欠けていた。


 ルイスはしゃがみ、その脇に落ちていた小さな欠片を見る。表は土に汚れていたが、割れた面は白っぽかった。


「踏んだら、もっと欠けるかな」


「そこは避けて通りましょう」


 フィリアが言い、溝と欠けた場所を簡単に描き留めた。


 ルイスは立ち上がり、石板の平らなところへ足を置いた。


 レオンが先に入口の影へ入る。


「俺が前を見る。二人は後ろから来てくれ」


「分かった!」


 ルイスは灯具を持ち直した。


 外の日差しを背に、石の入口をくぐる。


 空気が変わった。


 朝の風とは違う、ひんやりとした冷たさが頬に触れる。足音が壁に返り、もう一人分の足音のように響いた。


 ルイスは思わず声を落とした。


「……中、広いな」


 入口の先には、高い天井の回廊が延びていた。


 左右には柱が並び、その間の壁に、人物や植物の彫刻が続いている。


 レオンが少し先で足を止め、灯具を掲げた。


 その光に、壁の一部が淡く浮かぶ。


 器を両手で持った人物だった。


「あ!」


 ルイスが声を上げる。


 フィリアも彼の横へ来た。


「昨日の記録にあった……」


 紙の上で見た姿が、石の壁に残っていた。


 人物の指は器の縁に添えられ、その下には衣服の襞が細かく彫られている。ところどころ欠けていたが、顔も両腕も確かにそこにあった。


 ルイスは近づき、手を伸ばしかけた。


 それから、フィリアへ顔を向ける。


「触っても大丈夫?」


「まずは、触らずに見てみましょう。表面が崩れやすくなっているかもしれませんから」


「分かった」


 ルイスは手を下ろした。


 代わりに、灯具を少し動かす。


 光の向きが変わると、器の下に刻まれた線がはっきりした。


「こんなところにも模様がある」


「本当ですね。絵では見えませんでした」


 フィリアが記録帳を開いた。


 レオンは二人から少し離れ、回廊の先へ視線を向けている。


 誰かと一緒に、初めての場所へ入ってきた。


 自分が見つけたものを、隣の誰かも見ている。


 ルイスは灯りを持ち上げ、石の人物をもう一度眺めた。


「来てよかったな」


 フィリアが顔を上げる。


「まだ、入口ですよ?」


「もう面白い!」


 レオンが振り返り、笑った。


「なら、奥ではもっと忙しくなりそうだ」


 ルイスは回廊の先を見た。


 灯りの届かない向こうにも、柱と壁が続いている。


 見たいものは、まだいくらでもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。