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冒険者はまだ見ぬロマンを求めて  作者: 片山武琉
第一章 魔女と銀の笛

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第一章4 『ギルドを目指して』

 

 馬車がゆっくりと止まった。


「よっと!」


 ルイスが勢いよく荷台から飛び降りる。


 続いて、リュートも静かに降りた。


「それじゃあ、僕はここで」


 リュートはオリバーへ頭を下げる。


「オリバーさん。街まで送っていただいて、ありがとうございました」


「おうよ!」


「それから――」


 リュートはルイスを見る。


「ルイスも、助けてくれてありがとう。短い間でしたけど、楽しかったです」


「おう!」


 ルイスは笑った。


「俺も楽しかったぞ!」


「では」


 リュートは二人へもう一度頭を下げ、街の中へ向かって歩き始める。


「リュート!」


 ルイスが呼び止めた。


 リュートが振り返る。


「またどっかで会おうぜ!」


「…………」


 一瞬だけ、リュートが目を丸くする。


 けれど、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「ええ」


「また、どこかで」


「ああ!」


 ルイスが大きく手を振る。


 リュートも小さく手を上げると、人混みの中へ消えていった。


「よし!」


 ルイスは今度はオリバーへ振り返る。


「オリバーのおっさん、俺もここで降りるよ!」


「おう!」


 オリバーは御者台から豪快に笑った。


「世話になったな、ルイス!」


「それ俺の台詞だろ!」


「はっはっは!」


「街までありがとな!」


「ああ!」


 オリバーは親指を立てる。


「何か困ったことがあったら、俺の店に来い!」


「店?」


「オリバー商店だ!」


 自信満々に胸を張る。


「街の奴に聞けば、大体分かる!」


「分かった!」


「じゃあな、ルイス!」


「またな!」


 オリバーが手綱を動かす。


 馬車はゆっくりと大通りを進み、そのまま人混みの中へ消えていった。


「…………」


 ルイスは一人になった。


 目の前には、グランベルの街が広がっている。


「さて、と」


 辺りを見回す。


 石造りの建物。


 道沿いに並ぶ露店。


 武器を背負った冒険者。


 荷物を運ぶ商人。


 見慣れない道具を並べる店。


「やっぱ、すげぇなぁ……」


 歩き始める。


 オリバーから、冒険者ギルドの場所は聞いている。


 大通りを真っ直ぐ。


 それだけだった。


 ――はずなのだが。


「おっ!」


 一軒の露店が目に入る。


「なんだ、あれ?」


 見たことのない道具。


 気になって近寄る。


「へぇ……」


 しばらく眺め。


 また歩き出す。


「あっちは何だ?」


 今度は別の店。


「おお!」


 さらに、その先にも――。


 気がつけば。


「…………」


 ルイスは立ち止まっていた。


 周囲には、見覚えのない建物。


「……ここ、どこだ?」


 完全に大通りから外れていた。


「おかしいな」


 腕を組む。


「真っ直ぐ行くだけだったはずなんだけどな」


 少し考える。


 そして。


「まぁ、歩いてりゃそのうち戻れるだろ!」


 何の根拠もなく歩き出そうとした、その時。


「おい、坊主」


「ん?」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 大きな斧を背負った男が、呆れた顔で立っていた。


「冒険者ギルドを探してるだろ?」


「え!?」


 ルイスの目が丸くなる。


「なんで分かったんだ!?」


「顔に書いてある」


「そんな分かりやすいのか!?」


「分かりやすい」


 男は苦笑した。


「この道を真っ直ぐ行け。大通りに出たら右だ」


「本当か!?」


「ああ」


「ありがとな!」


 ルイスは勢いよく頭を下げた。


「助かった!」


「おう」


「じゃあな!」


 そのまま走り出す。


 男は遠ざかる赤髪の少年を見送り――。


「……あいつ、本当に冒険者か?」


 ぼそりと呟いた。


 ――――――――――


 しばらくして。


「おおお……!」


 ルイスは大きな建物の前で足を止めていた。


 剣と盾を象った、大きな看板。


 建物の中からは、大勢の声が聞こえてくる。


「ここが……」


 ルイスの目が輝く。


「冒険者ギルド!」


 胸の高鳴りを抑えるように、一度深く息を吸う。


 そして。


「よし!」


 勢いよく扉を開けた。


 中には、大勢の冒険者がいた。


 酒を片手に談笑する者。


 掲示板で依頼を探す者。


 武器の手入れをする者。


 奥にはいくつもの受付。


 壁には魔獣の牙や角などの素材まで飾られている。


「おお……!」


 ルイスの視線が忙しなく動く。


「すげぇ!」


「なんだ、あのガキ……」


 周囲から視線を向けられていることなど、まったく気づいていない。


「あれ何の牙だ?」


 壁を見る。


「でっけぇ……」


 次は武器。


「あの剣もすげぇな」


 また別の場所へ――。


「あ」


 そこでようやく、本来の目的を思い出した。


「仕事探しに来たんだった」


 ルイスは受付へ向かった。


「すみません!」


「はい」


 受付にいた女性が笑顔を向ける。


「どうされました?」


「俺、冒険者登録はしてるんだけど、この街でもそのまま依頼受けられるのか?」


「もちろんです」


「おお!」


「念のため、冒険者証を確認させていただけますか?」


「ああ!」


 ルイスは荷物から一枚のカードを取り出し、受付へ渡した。


 受付嬢が内容を確認する。


「ルイスさんですね」


「おう!」


「現在はFランク、と」


「ああ」


 ルイスが頷く。


「一番下だろ?」


「はい。ただ、誰もが最初はFランクから始まります」


「やっぱそうだよな」


 ルイスは腕を組んだ。


「どうしたら上がるんだっけ?」


「……説明を受けませんでしたか?」


「受けた」


 即答。


「でも忘れた!」


「…………」


 受付嬢が僅かに苦笑する。


「一定数の依頼達成に加えて、ギルドから十分な実績があると判断されれば、昇級試験を受けられます」


「なるほど!」


「そして、試験に合格すれば次のランクへ昇格できます」


「よし!」


 ルイスの目が輝いた。


「じゃあ、ついでに上も目指すか!」


「ついで……」


 受付嬢が小さく呟く。


 ルイスはまったく気づいていない。


「冒険者証の確認は終わりました」


「ありがとな!」


 カードを受け取る。


「依頼は、あちらの掲示板から選べます。ただし、ランクによって受けられないものもありますので注意してください」


「分かった!」


 ルイスはすぐに掲示板へ向かった。


「どれどれ……」


 大量の依頼書。


 薬草採取。


 素材収集。


 護衛。


 魔獣討伐。


 そして――。


「……ん?」


 その中に、一際大きな紙が貼られていた。


『領主直属・緊急傭兵募集』


「これか」


 ウェルム村で聞いた話。


 オリバーからも聞いた。


 ルイスはその紙をじっと見る。


「傭兵って、普通の依頼とは違うのか?」


 近くにいた受付嬢へ尋ねる。


「そうですね」


 受付嬢が答える。


「冒険者は基本的に、ギルドを通して依頼を受注します」


「うん」


「対して傭兵は、依頼主と直接契約して、その人の指示のもとで働く者ですね」


「なるほど」


 ルイスは募集用紙へ視線を戻した。


「じゃあ今回は、領主と契約して働くってことか?」


「はい」


「何するんだ?」


「主に街道の警備や、周辺で増えている魔獣への対処です」


「やっぱり魔獣か……」


 先ほど戦った五匹を思い出す。


「そういや俺、ここへ来る途中でも魔獣に襲われたぞ」


「……え?」


 受付嬢の表情が変わった。


「何匹です?」


「五匹」


「五匹も?」


「ああ。馬車を囲んでた」


「場所は覚えていますか?」


「確か、ウェルム村からこっちへ来る街道の少し手前だな」


 受付嬢の眉が寄る。


「やっぱり、何かあるのか?」


「最近、本当に目撃数が増えているんです」


「村でも聞いた」


「ただ――」


 受付嬢は少し声を落とした。


「問題は、数だけではないんです」


「どういうことだ?」


「魔獣の生息域が変わっています」


「生息域?」


「本来なら森の奥にいる魔獣が、森から遠く離れた場所で見つかったり」


 受付嬢は続ける。


「人里へ近づくことの少ない種類が、街道沿いに突然現れたりしています」


「…………」


「それに、目撃される場所にもあまり規則性がありません」


「規則性?」


「餌を求めて移動しているなら、ある程度は移動経路を予想できるんです」


「でも違う?」


「はい」


 受付嬢が頷く。


「まるで、別々の場所へ突然現れているようで……」


「……変だな」


 ルイスは腕を組んだ。


 二匹の魔獣が突然逃げていったことを思い出す。


 あれも。


 ただルイスを恐れただけだったのだろうか。


「何かに追い出されてるとか?」


「その可能性も含めて調査中です」


「まだ分かってないんだな」


「はい」


 受付嬢は困ったように笑う。


「領主様もかなり警戒されているようです。今回の募集も、そのためでしょう」


「なるほどな……」


 ルイスはもう一度、募集用紙を見る。


『領主直属・緊急傭兵募集』


「……よし」


「はい?」


「これ、俺も参加する!」


「えっ」


 受付嬢がルイスの冒険者証を見る。


 そして。


「……申し訳ありません」


「え?」


「今回の募集には参加条件があります」


「条件?」


「一定以上のランクを持つ冒険者、もしくは相応の戦闘実績が確認できる者に限られています」


「…………」


「ルイスさんは現在Fランクですので……」


「ダメ?」


「はい」


「えぇぇ……」


 露骨に肩を落とす。


「せっかく稼げそうだったのに」


「そちらですか……」


「旅には金が必要なんだよ!」


 ルイスは真剣だった。


 受付嬢が苦笑する。


「ですが」


「ん?」


「傭兵募集とは別に、Fランクでも受けられる調査依頼がありますよ」


「調査?」


「はい」


 受付嬢が掲示板から一枚の紙を取る。


「街道周辺の魔獣について、目撃した種類や場所を報告する依頼です」


「討伐しなくてもいいのか?」


「むしろ、危険な魔獣を見つけても戦わないでください」


「…………」


「今、少し間がありましたね?」


「気のせいだ!」


「本当に危険なんですからね?」


 受付嬢は念を押す。


「無理に討伐せず、その場から離れること」


「分かった!」


「一人で無茶をしないこと」


「分かった!」


「本当に?」


「分かってるって!」


 ルイスが胸を張る。


「俺だって、こう見えてちゃんと冒険者だからな!」


「その言葉が少し不安なんですけど……」


「なんでだよ!」


 受付嬢は小さく笑う。


「では、依頼を受けますか?」


「もちろん!」


「こちらに署名をお願いします」


「おう!」


 ルイスは迷わず名前を書いた。


 依頼書を受け取る。


「よし!」


 また一つ。


 知らない場所へ行く理由が増えた。


「楽しみだな!」


 そのときだった。


「――おい!」


 ギルドの奥から、大きな声が響く。


「また魔獣が出たぞ!」


 ギルド内の空気が変わった。


「またかよ……!」


「昨日も出ただろ!」


「場所は!?」


「西の街道だ!」


 冒険者たちがざわめく。


「西の街道……?」


 ルイスが呟く。


 受付嬢も表情を変えていた。


「どうした?」


「……西の街道は」


 受付嬢が息を呑む。


「昨日までは、目撃報告がなかった場所です」


「……!」


 ルイスは手に持った依頼書を見る。


 魔獣の数が増えている。


 生息域も変わっている。


 そして。


 今までいなかった場所へ、突然現れる。


「……やっぱり」


 ルイスの表情から、先ほどまでの笑みが少し消えた。


「何か変だな」


 依頼書を握る。


 好奇心はある。


街道で実際に魔獣に襲われていたオリバーたちを思い出す。


 この異変を放っておけば、また誰かが同じ目に遭うかもしれない。

 

「……気になる」


 ルイスは西の街道の方角へ目を向けた。


 グランベルで起きている異変へ。


 少しずつ。


 足を踏み入れ始めていた。


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