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冒険者はまだ見ぬロマンを求めて  作者: 片山武琉
第一章 魔女と銀の笛

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第一者34 『初めての炎』

 

 ――ドクン。


 巨大魔獣の胸元で。


 赤黒い光が脈打つ。


「戦いで炎を使ってないよな」


「……!」


 カイルが目を見開いた。


「ルイス……まさか」


「使ってみる」


「待って」


「なんだよ!」


「君、自分がどれだけ疲れてるか分かってる?」


「分かってる!」


「炎は短剣を振るうのとは違う。集中が切れたら――」


「でも」


 ルイスは。


 巨大魔獣から目を逸らさなかった。


 ジョージの剣が。


 また。


 その身体を斬り裂く。


 ――ザンッ!


「グォォォッ!」


 赤黒い血が飛ぶ。


 だが。


 ――ドクン。


 胸が光る。


 黒い筋が濃く脈打つ。


 そして。


 傷が塞がっていく。


「何回斬っても、あれじゃ終わらない」


「……」


「だったら、試すしかないだろ」


 カイルが黙る。


 ルイスは。


 自分の右手を見た。


「それに」


 ぎゅっと。


 拳を握る。


「せっかく教えてもらったんだからな」


「……」


 その言葉に。


 カイルが僅かに目を細めた。


 ルイスの頭に。


 何日も前のことが浮かんだ。


 ――――――――――


「もう一回!」


 グランベルの街外れ。


 人の少ない開けた場所。


 ルイスは。


 右手を前へ突き出していた。


「炎!」


 ――ボッ。


 指先に。


 小さな火が灯る。


「出た!」


「集中して!」


「分かってる!」


 小さな炎が。


 ゆらゆらと揺れる。


「もっと大きく……」


 ルイスが。


 右手へ意識を集中させる。


「もっと……!」


 ――ボッ!


 炎が。


 一瞬だけ大きくなった。


「おお!」


 だが。


 次の瞬間。


 ――フッ。


「……」


 消えた。


「……消えた」


「うん」


 少し離れたところで。


 カイルが頷いた。


「魔力を一気に流しすぎ」


「でも大きくなったぞ!」


「一瞬だけね」


「だったら、もう一回!」


「少し休んだ方が――」


「もう一回!」


「……分かったよ」


 カイルが苦笑する。


 ルイスは。


 再び右手を突き出した。


「炎!」


 ――ボッ。


「もっと!」


 ――ボッ!


「……消えるな!」


 ――フッ。


「くそっ!」


「力みすぎ」


「分かってる!」


「分かってないから消えてるんだけど」


「もう一回!」


「君、本当に諦めないね……」


 その日は。


 結局。


 炎を安定させることができなかった。


 ――――――――――


 次の日。


「出た!」


 ――ボッ。


 右手の上。


 昨日よりも。


 少し大きな炎。


「そのまま」


 カイルが言う。


「大きくしなくていい」


「え?」


「昨日の君は、大きくすることしか考えてなかっただろ」


「だって強い方がいいじゃん」


「まず消えないこと」


「……」


「大きな炎を一瞬出すより、小さくても維持できる炎の方が使える」


「なるほど!」


「本当に分かった?」


「たぶん!」


「不安だな……」


 ルイスが。


 右手を見る。


 炎が。


 小さく揺れている。


「……」


 大きくしない。


 焦らない。


 右手から。


 少しずつ。


 魔力を流す。


「そう」


 カイルが頷く。


「そのまま」


「……」


「炎を作るんじゃない」


「え?」


「君の場合は、もう炎を出すこと自体はできてる」


 カイルが。


 ルイスの右手を見る。


「だから今やってるのは、その炎を逃がさない練習」


「逃がさない……」


「自分の手の中に置いておく感じ」


「手の中……」


 ルイスが。


 炎を見つめる。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 昨日より長い。


「おお……!」


「喜ぶのはまだ早――」


「やった!」


 ――ボッ!


「熱っ!」


 炎が突然膨らんだ。


「うわっ!」


 ルイスが慌てて手を振る。


 ――フッ。


 炎が消える。


「……」


「……」


「今のは?」


「集中切れたね」


「くそー!」


「でも」


 カイルが少し笑った。


「昨日よりはかなり長かった」


「ほんとか!?」


「うん」


「よし!」


 ルイスが。


 もう一度右手を出す。


「じゃあもう一回!」


「やっぱり休まないんだ……」


 ――――――――――


 さらに翌日。


「次は動くよ」


「動く?」


「戦いで使うなら、立ったまま炎を出せても意味ないからね」


「なるほど!」


「走りながら維持する」


「簡単そうだな!」


「……そう思う?」


「炎!」


 ――ボッ!


「よし!」


 ルイスが走り出す。


 一歩。


 二歩。


「おお!」


 三歩。


 ――フッ。


「……」


 炎が消えた。


「なんで!?」


「足に意識がいったから」


「もう一回!」


「はいはい」


 もう一度。


 ――ボッ。


 走る。


 消える。


 ――ボッ。


 跳ぶ。


 消える。


 ――ボッ。


 短剣を抜く。


 消える。


「くそっ!」


 何度やっても。


 何か別の動きをした瞬間。


 炎が消える。


「戦いながらって難しいな……」


「だから練習してるんだよ」


 ルイスは。


 額の汗を腕で拭った。


「……もう一回」


「今日はもう結構やったよ」


「あと一回!」


「その『あと一回』、さっきから何回目?」


「知らない!」


「僕は知ってる。七回目」


「じゃあ八回目!」


「そういう意味じゃないって……」


 それでも。


 ルイスは右手を出した。


「炎!」


 ――ボッ。


 走る。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 炎は消えない。


「……!」


 四歩。


 五歩。


「そのまま!」


 カイルの声。


 ルイスは。


 腰の短剣へ左手を伸ばす。


 抜く。


 ――チャキッ。


「……!」


 まだ。


 消えていない。


「できた!」


「集中切らさない!」


「おっと!」


 嬉しさを抑える。


 そのまま。


 走る。


 右手には炎。


 左手には短剣。


「……」


 数歩。


 さらに進む。


 そして。


 ――フッ。


 炎が消えた。


「あー!」


「でも今のは良かった!」


「ほんとか!?」


「うん」


 カイルが頷く。


「少しずつだけど、身体を動かしながら維持できるようになってる」


「じゃあ」


 ルイスが笑う。


「明日はもっとできるな!」


「……本当に元気だね、君」


 ――――――――――


 その次の日も。


 さらにその次の日も。


 ルイスは繰り返した。


 出す。


 消える。


 また出す。


 走る。


 消える。


 跳ぶ。


 消える。


 短剣を振る。


 消える。


「もう一回!」


 また。


 出す。


「もっとゆっくり魔力を流して!」


「分かった!」


「右手だけに意識を集めすぎない!」


「難しい!」


「だから練習!」


 何度も。


 何度も。


 失敗した。


 それでも。


 少しずつ。


 炎が消えるまでの時間は長くなった。


 走っても。


 残るようになった。


 跳んでも。


 消えにくくなった。


 そして。


「次」


 カイルが言った。


「炎を手に留めたまま、短剣を使う」


「やっとか!」


「やっとって……ここからが一番難しいよ」


「大丈夫!」


「その自信はどこから来るんだろう……」


 ルイスは。


 短剣を右手へ持ち替えた。


「炎を出したまま持つのか?」


「できそう?」


「やってみる!」


 短剣を握る。


 そして。


 右手へ。


 魔力を流す。


「……」


 ――ボッ。


「おっ!」


 炎が生まれる。


 柄を握る右手。


 その手を包むように。


 赤い炎が揺れた。


「できた!」


「まだ動かない!」


「分かってる!」


 ルイスは。


 炎を見つめる。


 不思議だった。


 熱い。


 はずなのに。


 自分の炎は。


 右手を焼かなかった。


 短剣の柄にも。


 炎が揺らめいている。


「これ、刃までいけないかな?」


「いきなり欲張らない」


「ちょっとだけ!」


「ルイス」


「はい」


 カイルに睨まれた。


「まず維持」


「分かったよ」


 それから。


 また何度も繰り返した。


 短剣を握りながら。


 炎を出す。


 振る。


 消える。


 もう一度。


 出す。


 振る。


 今度は残る。


「おおっ!」


「まだ!」


 二度目。


 三度目。


 ――フッ。


「あー!」


「でも」


 カイルが。


 少し嬉しそうに笑った。


「かなり形になってきた」


「だろ!」


「まだ実戦で使えるとは言ってないからね」


「使えるって!」


「相手が止まってくれてればね」


「じゃあ動く奴相手に練習すればいい!」


「そう言うと思った……」


 ――――――――――


 何日も。


 何日も。


 繰り返した。


 炎を出す。


 維持する。


 動く。


 短剣を振る。


 消えても。


 また出す。


 できなければ。


 できるまで。


 何度でも。


 そして。


 最後の練習の日。


「……よし」


 ルイスの右手。


 炎が揺れている。


 短剣を握る。


 走る。


 足元に置かれた木の的へ。


 踏み込む。


「はあっ!」


 短剣を振り抜いた。


 ――ザンッ!


 木に傷が入る。


 そして。


 傷口へ。


 炎が移った。


 ――ボッ!


「おおっ!」


 木の表面が燃える。


「カイル!」


「うん」


 カイルも。


 少し驚いたように見ていた。


「できた」


「できたな!」


「でも」


「分かってるって!」


 ルイスが笑う。


「まだ本番じゃ使ってない!」


「そう」


 カイルが。


 燃えている木へ水をかけながら答える。


「練習と実戦は全然違う」


「うん!」


「焦ったら消えるかもしれない」


「うん!」


「魔獣に襲われながら維持できるかも分からない」


「うん!」


「……本当に分かってる?」


「やってみなきゃ分からない!」


「やっぱり分かってない気がする……」


 ――――――――――


「……」


 ルイスは。


 右手を見つめていた。


 今まで。


 何度失敗しただろう。


 何度。


 炎を消しただろう。


「ルイス」


 カイルの声で。


 意識が戦場へ戻る。


「本当にやるの?」


「ああ」


「……」


 カイルは。


 少しだけ黙った。


「分かった」


「いいのか?」


「止めても行くだろ」


「行く!」


「だと思ったよ」


 カイルが。


 杖を握り直す。


「なら、僕が道を作る」


「道?」


「君が巨大魔獣に近づけるようにする」


「カイル!」


「ただし!」


 杖の先が。


 ルイスへ向けられた。


「一回だけ」


「え?」


「今の君は疲れてる。何度も試せると思わない方がいい」


「……」


「失敗したら戻る」


「でも――」


「ルイス」


 カイルの目が。


 真っ直ぐルイスを見る。


「炎を使うことと、死にに行くことは違う」


「……」


「分かった?」


 ルイスは。


 少しだけ黙り。


「……分かった」


 頷いた。


「よし」


 カイルが巨大魔獣を見る。


 その周囲では。


 ジョージが。


 まだ一人で戦い続けている。


 ――ギィン!


「ぐっ……!」


 剣と爪が激突する。


 ジョージの身体が押される。


「領主様!」


 周囲の騎士たちが。


 通常の魔獣を食い止めていた。


 今なら。


 巨大魔獣までの道はある。


「行ける?」


「行ける!」


「じゃあ」


 カイルが杖を掲げた。


「僕から離れすぎないで!」


「おう!」


「――ウインドカッター!」


 ――シュンッ!


 風の刃が。


 前方の魔獣を切り裂く。


「ギャウッ!」


「今!」


 ルイスが走る。


 一匹。


 倒れた魔獣を飛び越える。


「グルァッ!」


 横から。


 別の魔獣。


「邪魔!」


 短剣を振る。


 ――ザシュッ!


 首元を浅く斬る。


 だが。


 止まらない。


「ルイス!」


「分かってる!」


 さらに走る。


 前方。


 巨大魔獣。


「グオオオオオッ!」


 ジョージへ。


 爪が振り下ろされる。


 ――ガァン!


「ぐっ!」


 ジョージが。


 剣で受け止める。


 その身体が。


 地面を滑る。


「ジョージさん!」


「……?」


 ジョージが。


 声の方を見る。


「お前は……!」


 ルイス。


 そして。


 その後ろにカイル。


「何をしている!」


「手伝う!」


「馬鹿者! 下がれ!」


「でも!」


「こいつはお前が――」


 その瞬間。


 巨大魔獣が。


 ルイスへ顔を向けた。


「……!」


「グルルルル……」


「ルイス!」


 カイルが叫ぶ。


 巨大魔獣の前脚が。


 地面を蹴る。


 ――ドンッ!


「っ!」


 来る。


 速い。


 森で戦った時より。


 さらに。


「右!」


 ジョージの声。


 ルイスは。


 考えるより先に。


 身体を横へ投げた。


 ――ズガァン!


 爪が。


 すぐ横の地面を砕く。


「うわっ!」


 土が顔へ飛ぶ。


「止まるな!」


「分かってる!」


 立ち上がる。


 右手。


「……」


 今。


 ここで。


 炎を出す。


 何日も。


 やってきた。


 焦るな。


 大きくしようとするな。


 まず。


 出す。


 そして。


 留める。


「……炎」


 右手へ。


 魔力を流す。


 ――ボッ。


「……!」


 小さな。


 赤い炎。


 生まれた。


「出た……」


 実戦。


 初めて。


 敵を前にして。


 ルイスの右手に。


 炎が灯った。


 だが。


「グオオオオッ!」


 巨大魔獣が咆哮する。


 身体が震えるほどの。


 凄まじい声。


「――っ!」


 炎が揺れる。


 消えそうになる。


「ルイス!」


「……大丈夫!」


 右手を見る。


 消すな。


 いつも通り。


『大きくしなくていい』


 カイルの声を思い出す。


『まず消えないこと』


「……」


 少しずつ。


 魔力を流す。


 炎が。


 再び安定した。


「よし……!」


「できてる!」


 カイルの声。


 だが。


 まだ。


 これだけではない。


 短剣。


 右手に握っている。


「……」


 炎を。


 手の中へ。


 逃がさない。


 短剣を握る。


 そして。


「もっと……」


 炎が。


 柄から。


 少しずつ。


 刃へ伸びる。


 ――ボッ。


「……!」


 赤い炎が。


 短剣を包んだ。


「カイル!」


「できてる!」


「おお!」


「喜んでる場合じゃない!」


「あっ!」


 巨大魔獣が。


 前脚を持ち上げている。


「下がれ!」


 ジョージが。


 巨大魔獣の側面へ踏み込んだ。


「はああっ!」


 ――ザンッ!


 剣が。


 前脚を斬りつける。


「グォォッ!」


 巨大魔獣の身体が。


 僅かに傾いた。


「今だ!」


 ジョージが叫ぶ。


「行け!」


「おう!」


 ルイスが。


 地面を蹴った。


「待て!」


 ジョージの目が。


 ルイスの短剣へ向く。


「その炎……」


 だが。


 ルイスは止まらない。


 巨大魔獣。


 胸元。


 赤黒い光。


「そこだ……!」


 森で。


 何度も見た。


 今も。


 傷ができるたびに。


 あそこが脈打ち。


 黒い筋が反応している。


「グルァッ!」


 巨大魔獣がルイスへ気づく。


 前脚が動く。


「させない!」


 ――ウインドバースト!


 横から。


 カイルの風が叩きつけられる。


「グォッ!?」


 巨体が。


 僅かに揺れた。


 ほんの一瞬。


 それだけでいい。


「ルイス!」


「分かってる!」


 踏み込む。


 跳ぶ。


「はああああっ!」


 炎を纏った短剣を。


 胸元へ。


 突き出した。


 ――ガキィン!


「くっ!」


 硬い。


 やはり。


 刃だけでは。


 深く入らない。


 衝撃が。


 右腕へ返ってくる。


「ルイス!」


 弾かれる。


 その瞬間。


「まだだ!」


 ルイスは。


 右手を離さなかった。


 短剣が弾かれても。


 炎は。


 胸元へ触れている。


「俺は――」


 右手に。


 さらに力を込める。


「これを何日も練習したんだ!」


 ――ゴォッ!


 炎が。


 一気に燃え上がった。


「グオオオオオオオッ!?」


「……!」


 巨大魔獣が。


 初めて。


 悲鳴のような咆哮を上げた。


「効いた!?」


 カイルが目を見開く。


 ルイスも。


 驚いていた。


「……え?」


 胸元。


 短剣でついた。


 ほんの僅かな傷。


 そこを。


 赤い炎が焼いている。


「グォォォッ!」


 巨大魔獣が。


 激しく身体を振る。


「うわっ!」


 ルイスの身体が。


 振り落とされる。


「ルイス!」


「――っ!」


 地面へ。


 落ちる。


 その直前。


 ――フワッ!


 風が。


 身体を受け止めた。


「ぐっ!」


 完全には止められない。


 それでも。


 勢いが弱まる。


 ――ドサッ!


「痛っ……!」


「ルイス!」


 カイルが駆け寄る。


「大丈夫!?」


「……たぶん!」


「たぶんじゃなくて!」


「それより!」


 ルイスが。


 巨大魔獣を見る。


「今の……」


 ジョージも。


 見ていた。


 巨大魔獣の胸元。


 炎に焼かれた場所。


 そして。


 そこへ。


 いつものように。


 赤黒い魔力が集まり始める。


 ――ドクン。


「来る……」


 カイルが呟く。


 再生する。


 また。


 傷が塞がる。


 はずだった。


「……?」


 ルイスが目を細める。


 胸元の光が激しく脈打つ。


 傷口の周囲へ黒い筋が集まる。


 だが。


 炎が。


 まだ残っている。


 ――ゴォッ。


 赤い火が。


 傷口を焼き続ける。


 傷口が塞がろうとする。


 だが。


 そのたびに残った炎が肉を焼く。


 盛り上がりかけた傷口が、再び崩れる。


「……え?」


 傷は。


 塞がろうとしている。


 それでも。


 炎に焼かれ。


 また崩れる。


「カイル!」


「見えてる!」


 傷が。


 塞がらない。


「……再生してない」


 ジョージが。


 低く呟いた。


「効いてる……」


 カイルが。


 目を見開く。


「ルイス!」


「何!?」


「炎だ!」


 カイルが。


 巨大魔獣の胸元を指す。


「君の炎が……再生を止めてる!」


「……!」


 ルイスの目が。


 大きく見開かれた。


「俺の炎が……?」


 胸元。


 小さな傷。


 そこだけ。


 今も。


 赤い炎が燃えている。


「グォォォォッ……!」


 巨大魔獣が。


 苦しそうに。


 身体を震わせる。


 ――ドクン!


 胸元が。


 強く脈打った。


 赤黒い魔力が。


 大量に傷へ押し寄せる。


「……!」


 だが。


 炎は。


 消えない。


「本当に……」


 ルイスが。


 ゆっくり立ち上がる。


「効いてる」


「ルイス」


 カイルが。


 隣へ立つ。


「これなら」


「ああ」


 ルイスは。


 短剣を握り直した。


 刃は欠けている。


 身体も疲れている。


 右腕も痛む。


 それでも。


 今までとは違う。


 初めて。


 巨大魔獣の力を。


 一つ。


 止めることができた。


「ジョージさん!」


 ルイスが叫ぶ。


「もう一回、あいつの胸を狙う!」


「……」


 ジョージが。


 ルイスを見る。


 十四歳の少年。


 手には。


 傷だらけの短剣。


 そして。


 右手。


 小さな。


 赤い炎。


「……まったく」


 ジョージが。


 剣を握り直した。


「無茶をする少年だ」


「よく言われる!」


「褒めてはいない!」


「分かってる!」


「なら少しは反省しろ!」


「あとでする!」


「しない奴の返事だな」


 ジョージが。


 僅かに笑った。


 そして。


 巨大魔獣へ向き直る。


「だが」


 剣を構える。


「今だけは、その無茶に乗ってやる」


「おう!」


「僕もいるんだけど!」


 カイルが杖を構えた。


「当然だ!」


「本当に調子いいな!」


 巨大魔獣が。


 三人を睨む。


「グルルルルル……」


 胸元には。


 まだ。


 小さな炎。


 再生できない傷。


 ――ドクン。


 赤黒い光が。


 激しく脈打つ。


「来るぞ!」


 ジョージが叫ぶ。


「今度は」


 ルイスの右手に。


 再び。


 炎が灯る。


 ――ボッ。


「もっと深くまで届かせる!」


 実戦で。


 初めて使った炎。


 その火が。


 巨大魔獣を倒すための。


 初めての糸口になった。


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