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冒険者はまだ見ぬロマンを求めて  作者: 片山武琉
第一章 魔女と銀の笛

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第一章28 『魔獣の旋律』


 西の森。


「来るぞ!」


 騎士団長の叫びが響いた。


 直後――森の奥で、いくつもの枝が激しく揺れる。


 地を蹴る音。


 低い唸り声。


 そして次の瞬間。


 黒い筋を浮かべた数匹の魔獣が、木々の間から飛び出した。


 それに引きずられるように、周囲の魔獣まで騒ぎ始める。


「迎え撃て!」


 号令と同時に、騎士たちが剣を構える。


 先頭を走る魔獣が地面を蹴った。


「――速い!」


 一人の騎士が剣を振り抜く。


 だが、魔獣は身体を低く沈めると、その一撃を紙一重でかわした。


「なっ――!」


 次の瞬間、鋭い爪が騎士の鎧を薙ぐ。


 甲高い音とともに金属が裂けた。


「ぐあっ!」


「隊列を崩すな!」


 騎士団長の声が飛ぶ。


「盾を前へ! 負傷者を下げろ!」


「はい!」


 数人の騎士が前へ出る。


 盾を並べ、押し寄せる魔獣の前へ壁を作った。


 ――ドンッ!


「ぐっ……!」


 激突した瞬間、盾が大きく揺れた。


 騎士たちの足が地面を削りながら後ろへ滑る。


「なんて重さだ……!」


「押し返せ!」


 歯を食いしばり、騎士たちが力を込める。


 しかし――魔獣は止まらない。


「……なんだ、あれ」


 一人の騎士が呟いた。


 盾へ食らいつく魔獣。


 その灰色の毛皮の下に、黒い血管のような筋が浮かび上がっている。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで何かが身体の内側を巡っているかのように、黒い筋が脈打った。


「魔獣が……変化している?」


 次第に、その身体が不自然に膨れ上がっていく。


 筋肉が盛り上がり、爪が地面へ深く食い込んだ。


「構うな!」


 騎士団長が叫ぶ。


「倒せ!」


「はい!」


 左右から騎士たちが斬りかかる。


 剣が毛皮を裂き、魔獣の身体へ深い傷が走った。


 黒い血が飛び散る。


 確かな手応え。


 誰もが、そう思った。


 だが――。


「……嘘だろ」


 騎士の声が震える。


 裂けたはずの傷口が蠢いていた。


 肉が盛り上がり、ゆっくりと傷を塞いでいく。


「再生……?」


「そんな魔獣、聞いたことがないぞ!」


 完全に元通りになったわけではない。


 それでも、普通なら致命傷になりかねない傷が、明らかな速さで塞がっている。


 そして傷が塞がるたび、身体を走る黒い筋が僅かに脈打った。


「まさか……あの黒い筋が……?」


「考えるのは後だ! 来るぞ!」


 魔獣が再び飛びかかった。


 別の場所からも悲鳴が上がる。


「ぎゃああっ!」


「後ろだ!」


「くそっ!」


 数が多すぎる。


 一匹を相手にしている間に、別の魔獣が襲いかかってくる。


 傷を負わせても、浅ければ塞がってしまう。


「数が減らない!」


「どうなってるんだ!」


 騎士団長は剣を構えたまま、素早く周囲を見渡した。


「……おかしい」


 昨日の調査では、これほどの数が一か所へ集まっているという報告はなかった。


 それなのに今は――。


 木々の隙間。


 茂みの奥。


 どこを見ても黄色く濁った瞳がこちらを見ている。


 まるで森そのものが、魔獣で埋め尽くされているかのようだった。


「まるで……」


 騎士団長が呟く。


「この森そのものが、俺たちを殺そうとしているみたいだ」


 ――――――――――


 少し離れた木の陰。


 リュートは笛を握っていた。


「……」


 目の前で、騎士たちが魔獣と戦っている。


 剣が振るわれる。


 血が飛ぶ。


 悲鳴が上がる。


 そのすべてを、リュートは黙って見つめていた。


 唇に笛を当てる。


 短い旋律を奏でれば、魔獣たちの動きが変わる。


 曲に込めた意思へ従うように、魔獣たちは動く。


 そして一度与えた命令は、笛を止めたからといってすぐに消えるわけではない。


 新しい旋律で上書きするか、明確に止めるよう命じるまで、魔獣たちは与えられた命令を続ける。


 そのことを、リュート自身が誰よりもよく知っていた。


「……やめて」


 小さな声が漏れた。


 誰に言ったのか、自分でも分からない。


 魔獣に向けた言葉なのか。


 それとも――。


「もう……いいよ」


 戦っている騎士たちを見た。


 一人が爪で吹き飛ばされる。


 別の一人が仲間を庇い、盾ごと地面へ倒れる。


 それでも魔獣たちは止まらない。


 止める旋律は何度も吹いた。


 それでも、一部の異常個体には届ききらない。


「……」


 リュートは手の中の笛へ目を落とした。


 そして、セージの顔を思い出す。


『あなたには、あなたにしかできないことがあります』


 優しい声だった。


 幼い頃から、何度も聞いてきた声。


 自分を拾ってくれた人。


 育ててくれた人。


 生きる場所を与えてくれた人。


「僕は……」


 その人を助けたい。


 役に立ちたい。


 ずっと、そう思ってきた。


 だからセージに頼まれたことなら、何でもしてきた。


 疑う理由なんてなかった。


 ――これまでは。


「……」


 目の前で人が傷ついている。


 苦しんでいる。


 その原因を作っているのが自分だという事実だけは、どれだけ目を逸らしても消えてくれなかった。


「……ごめん」


 また、その言葉が漏れる。


 すると一匹の魔獣が、ふいにこちらを見た。


「……」


 リュートと魔獣の目が合う。


 煤けた灰色の毛皮。


 その下には、いくつもの黒い筋が走っている。


 先ほどまでなかったはずの膨らみが身体のあちこちに浮かび、荒い呼吸を繰り返していた。


「……痛い?」


 思わず尋ねる。


 当然、答えは返ってこない。


 ただ魔獣は低く唸った。


 その声が苦しんでいるように聞こえたのは、自分の思い込みなのだろうか。


「……」


 リュートは目を伏せる。


 この魔獣たちが普通ではないことくらい、彼にも分かっていた。


 セージから与えられた何かによって、身体が変えられている。


 強くなった。


 速くなった。


 傷すら塞がるようになった。


 けれど、それが魔獣にとって良いことなのかは分からない。


「ごめんね」


 笛を握る手に力が入る。


 止めればいい。


 ただ一つ。


 魔獣たちを退かせる旋律を吹けばいい。


 それだけで――。


『リュート』


 頭の奥で、セージの声が蘇る。


「……セージのところへは、行かせられない」


 指が震えた。


 そして――。


 ――ピィィィ……。


 再び笛の音が森へ響いた。


 魔獣たちが一斉に動く。


 騎士たちへ飛びかかるのではない。


 左右へ広がり、その進路を塞ぐ。


「また囲む気だ!」


「前へ出るな!」

 

 ――――――――――


 その頃。


 森の奥に建つ古びた小屋。


 セージは机へ向かっていた。


「……」


 窓の外から、遠く戦闘の音が聞こえている。


 剣と爪がぶつかる音。


 魔獣の咆哮。


 騎士たちの叫び声。


 そして時折、森を渡って届く笛の音。


「……順調ですね」


 セージは静かに呟いた。


 目の前には大量の研究資料が広げられている。


 魔獣の身体から採取した記録。


 魔石の反応。


 魔力の変化。


 投与後の身体能力。


 再生速度。


 いくつもの数値が細かな文字で書き込まれていた。


「魔石から抽出したエネルギーを取り込んだ個体は……」


 指先で一つの記録をなぞる。


「通常個体よりも、魔力の循環速度が大幅に上昇する」


 別の紙へ視線を移す。


「身体能力も上昇。傷の修復も確認……」


 セージの指が止まった。


 紙には、時間とともに変化した数値が並んでいる。


「ですが……」


 眉が僅かに動く。


「まだ足りない」


 机の端に置かれていた魔石を一つ手に取る。


 光へ透かすと、内部に淡い光が揺れていた。


「抽出しただけでは、どうしても余計なものが混ざる」


「完全な形には程遠いですね」


 セージは魔石を机へ戻す。


「肉体を強化し、傷を修復するところまでは成功した。ですが、出力を上げれば身体が耐えられない」


 紙に記された数値を見つめる。


 魔獣によって差はある。


 多く流し込めば、それだけ強くなる。


 しかし同時に、肉体への負荷も大きくなっていく。


 ならば――。


「器そのものを、より強くすれば……?」


 ペンを取る。


 一つの数値を書き換えた。


「あるいは、一箇所へより多くのエネルギーを集中させる……」


 僅かな沈黙。


 セージの紫がかった瞳に、研究者の光が宿る。


「……試す価値はありますね」


 それは、かつて純粋に知識を求めていた頃とよく似た光だった。


 けれど今の彼女には、そのために何が犠牲になるのかという考えが、抜け落ちていた。


「魔獣の身体を使っても、まだ答えには届かない」


 静かに資料をめくる。


「だからこそ――もっと試す必要がある」


 ――――――――――


 森。


「押し返せ!」


 騎士団長が叫ぶ。


「前列! 一度下がれ!」


 騎士たちが互いを庇いながら後退する。


 しかし魔獣たちは止まらない。


 傷を負っても立ち上がり、次々と距離を詰めてくる。


「まずい……」


 誰かが呟いた。


「このままじゃ全滅するぞ……!」


「弱音を吐くな! 隊列を――」


「騎士団長!」


 一人の騎士が声を上げた。


「あれを!」


 指差した先。


 一匹の魔獣がいた。


「……なんだ、あいつ」


 他の個体とは明らかに違う。


 全身を覆う毛は逆立ち、その下では黒い筋が何本も浮かび上がっている。


 他の魔獣よりも濃い。


 太い。


 そして何より――。


 ドクン。


 遠目からでも分かるほど、黒い筋が激しく脈打っていた。


 魔獣の身体が、そのたびに僅かに震える。


 その瞳は赤く濁っている。


「……あれは何だ」


 その魔獣がゆっくりと前へ出る。


 すると周囲の魔獣が左右へ退いた。


 まるで道を開けるかのように。


「全員、あの個体から目を離すな」


 騎士団長が剣を構える。


 魔獣が低く唸った。


 前脚が地面を掻く。


「来るぞ!」


 次の瞬間。


 魔獣の姿が視界から掻き消えた。


「――速い!」


 反射的に騎士団長が剣を構える。


 ――ガキィン!


 爪と剣が激突した。


 凄まじい衝撃が腕を突き抜ける。


「ぐっ……!」


 騎士団長の身体が後ろへ弾き飛ばされた。


 地面へ叩きつけられ、そのまま数度転がる。


「団長!」


 騎士たちが駆け寄ろうとする。


「来るな!」


 騎士団長は剣を地面へ突き立て、無理やり身体を起こした。


 腕が震えている。


 一撃を受けただけだというのに、指先まで痺れていた。


「……こいつは」


 魔獣を見る。


「今までの奴とは違う」


 力も。


 速さも。


 黒い筋の濃さも。


 明らかに他の個体を上回っている。


 そして、その異常な身体を維持するかのように、黒い筋が絶えず脈打っていた。


 その瞬間――。


 森の奥から、笛の音が聞こえた。


 ――ピィィィ……。


「……笛?」


 魔獣が反応する。


 ゆっくりと顔を上げると、音のする方向へ耳を向けた。


 騎士団長の眉が動く。


 やはり偶然ではない。


「……あの少年か!」


 騎士団長が笛の音へ振り向く。


「笛を止めさせろ!」


「位置を探せ!」


 数人の騎士が周囲を見渡す。


「いたぞ!」


 一人が声を上げた。


 木々の向こう。


 灰色の外套。


 肩まで伸びた淡い銀髪。


 胸元には小さな笛。


 リュートだった。


「……」


 リュートと騎士たちの目が合う。


 ほんの一瞬。


 笛を吹く手が止まった。


 逃げるべきだ。


 頭では分かっていた。


 それなのに、足が動かなかった。


「君!」


 騎士団長が叫ぶ。


「その笛を下ろせ!」


「……」


 リュートは答えない。


「魔獣を操っているのは、お前なのか!」


「……僕は……」


 否定しようとして、言葉が止まった。


 違う。


 そう言えばいい。


 けれど目の前では、自分の笛に従った魔獣たちが人を傷つけている。


「僕は……ただ……」


 喉が震える。


「……」


 頭の中にセージの姿が浮かんだ。


 育ててもらった日々。


 優しく頭を撫でてくれた手。


 自分を必要だと言ってくれた声。


『あなたには、あなたにしかできないことがあります』


「……」


 リュートは目を閉じる。


 そして笛を強く握った。


「ごめんなさい」


「待て!」


 ――ピィィィィィ……!


 これまでより強い音が森全体へ響き渡った。


 魔獣たちが一斉に反応する。


 騎士団を囲むように散っていた個体たちが、さらに包囲を狭めていく。


「来るぞ!」


「待て! 飛びかかってこない!」


 前へ進もうとする騎士たちを押し戻すように。


 魔獣たちはじりじりと距離を詰めていく。


「……」


 その光景を、リュートは見つめていた。


「……ごめん」


 頬を、一筋の涙が伝った。


 それでも。


 笛を握る手を離すことはできなかった。


 ――――――――――


 その頃。


 小屋の中。


 セージは静かに資料を閉じた。


「……リュート」


 窓の外へ目を向ける。


 微かではあるが、先ほどより強い笛の音が届いていた。


「よくやっていますね」


 穏やかな声だった。


 心配するように、一瞬だけ目を細める。


 だがすぐに、その視線は研究記録へ戻る。


「この結果なら……」


 机の上に置かれた記録へ視線を戻す。


 そして、その横に置かれた一際大きな魔石へ手を伸ばした。


「次の段階へ進める」


 魔石を手に取る。


 内部で揺れる光を眺めながら、セージは僅かに笑った。


「もう少しです」


 何が、もう少しなのか。


 その場には答える者はいない。


「もう少しで――もっと強い個体を作れる」


 静かな声。


 けれど、その言葉には確かな狂気が滲んでいた。


 窓の外。


 遠くから魔獣の咆哮が響く。


 西の森で始まった戦いは――。


 まだ、始まったばかりだった。


 ――――――――――


 同じ頃。


 グランベル冒険者ギルド。


「西の森で、騎士団が魔獣と交戦しているそうです!」


 受付嬢の声に。


 ギルド内がざわめいた。


「騎士団が?」


 ルイスが勢いよく立ち上がる。


「はい。負傷者も出ていると」


「増援は?」


「まだ正式な要請は来ていません」


「……」


 ルイスは黙った。


 昨日。


 自分で言った。


『勝手には行かない』


 必要になったら呼んでくれ、と。


 そう言った。


 けれど。


「……待ってられない」


「ルイス?」


 カイルが振り向く。


「騎士団が戦ってるんだろ?」


「まだ詳しい状況は分からない」


「だからって、ここで待ってるのか?」


「……」


 ルイスは腰の短剣へ手を置いた。


「何かあってからじゃ遅い」


「ルイス」


「俺、行く」


「待ってください!」


 受付嬢が声を上げる。


「まだギルドからの指示は出ていません!」


「ごめん!」


「ルイス!」


 そのまま出口へ向かう。


 だが。


「一人で行くつもり?」


 背後から声がした。


 ルイスが振り返る。


 カイルが杖を手に立っていた。


「……カイル」


「止めても行くんでしょ?」


「行く」


「だと思った」


 カイルが小さく息を吐く。


「なら僕も行く」


「いいのか?」


「君一人で行かせる方が危ない」


「俺そんなに信用ない!?」


「ない」


「即答!?」


 カイルはそのまま出口へ向かう。


「ただし」


「?」


「森に着いても、一人で勝手に突っ込まないこと」


「……分かった」


「本当に?」


「今回は本当に分かった!」


「それなら行こう」


「おう!」


「二人とも!」


 受付嬢の声が飛ぶ。


 ルイスは一度だけ振り返った。


「帰ったら怒られる!」


「分かってるなら行かないでください!」


「でも今は!」


 橙色の瞳が。


 西を向く。


「助けに行く!」


 二人はギルドを飛び出した。


 ――――――――――


 西へ続く街道。


 ルイスとカイルは走っていた。


 遠く。


 西の森の方角から。


 微かに音が届く。


 魔獣の咆哮。


 金属がぶつかる音。


 そして。


 ――ピィィィ……。


「……!」


 ルイスの足が一瞬だけ鈍る。


「今の……」


「ああ」


 カイルも表情を険しくした。


「笛だ」


「……リュート」


「まだ決めつけるな」


「分かってる」


 そう答えながらも。


 ルイスの胸はざわついていた。


 もし。


 本当にリュートだったら。


 聞きたいことがある。


 いや。


 聞かなければならない。


「行こう」


「ああ」


 二人は。


 さらに速度を上げた。


 ――――――――――


 西の森。


 戦いの音が。


 もうはっきりと聞こえていた。


「近い!」


「ああ!」


 木々の間を抜ける。


 その瞬間。


「……!」


 ルイスの目に飛び込んできたのは。


 傷を負った騎士たち。


 黒い筋を浮かべた魔獣。


 抉られた地面。


 そして。


 少し離れた木の陰。


 灰色の外套。


 淡い銀髪。


 胸元には。


 見覚えのある笛。


「……リュート」


「……!」


 少年の肩が。


 大きく揺れた。


「ルイス……?」


 リュートが目を見開く。


 どうして。


 そんな表情が。


 その顔には浮かんでいた。


「なんで……」


「リュート!」


「なんで君がここにいるの!?」


 思わず。


 リュートの声が大きくなる。


「街にいたはずじゃ……!」


「騎士団が戦ってるって聞いた!」


「だからって……!」


 リュートが一歩後ずさる。


「来ちゃ駄目だ!」


「なんでだよ!」


「ここは危ない!」


「見れば分かる!」


「そうじゃない!」


 リュートは。


 胸元の笛を強く握った。


「君は……」


 言葉が詰まる。


 ルイスには。


 こんなところを見られたくなかった。


 自分が笛を吹き。


 魔獣を動かし。


 人間を森から追い返そうとしている姿を。


「……来ないで」


「リュート?」


「帰って」


「嫌だ」


「ルイス!」


「聞きたいことがある!」


「……」


「この魔獣たち」


 ルイスは。


 周囲を囲む魔獣を見る。


「お前が動かしてるのか?」


 リュートの顔が強張る。


「……」


「答えてくれ」


「……僕は」


 笛を握る指が震える。


「僕は……」


 その時。


 黒い筋を浮かべた魔獣が。


 低く唸った。


「……!」


 リュートが反射的に笛を口元へ運ぶ。


「駄目!」


 ――ピィィィ……。


 暴れかけた異常個体を押さえようとする旋律。


 けれど。


 周囲の魔獣まで一斉に反応した。


「来るぞ!」


 カイルが叫ぶ。


「分かってる!」


 ルイスは短剣を抜いた。

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