↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者はまだ見ぬロマンを求めて  作者: 片山武琉
第一章 魔女と銀の笛

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/77

第一章11 『初めての仲間』


 翌朝。


 月影亭の食堂で朝食を頬張りながら、ルイスは昨日のことを思い返していた。


 見たことのない魔獣。


 初めて間近で見た魔法。


 そして――カイルとの共闘。


「今日も来るかな」


 自然と口元が緩む。


「今日はずいぶん機嫌がいいねぇ」


「分かる?」


「顔見ればね」


「昨日、友達ができたんだ!」


「まあ」


 女将が少し目を丸くする。


「友達かい?」


「ああ!」


「昨日の魔法使いの子?」


「そう!」


 ルイスは昨日の戦いを思い出す。


「カイルっていうんだけどさ、すげぇんだぞ!」


「へぇ」


「杖持って――こう!」


 手を振る。


「風が飛ぶ!」


「風が?」


「ああ!」


 今度は両手を広げる。


「それで最初に見た時は炎もボォッて!」


「はいはい」


「ほんとだって!」


「疑ってないよ」


 女将が笑う。


「それで、そのカイルって子と今日も一緒なのかい?」


「たぶん!」


「たぶん?」


「約束はしてない!」


「……それで友達って言ってるのかい?」


「友達だろ!」


 即答だった。


「昨日一緒に戦ったし!」


「相手もそう思ってるといいねぇ」


「思ってるって!」


「どうだかねぇ」


「絶対そう!」


 女将が楽しそうに笑う。


「なら、その友達を待たせないように早く食べな」


「おう!」


 ルイスは勢いよく朝食を食べ始めた。


――――――――――


 朝のグランベル。


 大通りには、すでに多くの人々が行き交っていた。


 ルイスは冒険者ギルドへ向かって歩いている。


「カイル、もう来てるかな」


 少しだけ足が速くなる。


 その途中。


「おい!」


「ん?」


 背後から声をかけられた。


 振り返る。


 三人の冒険者が立っていた。


 一人は片手剣を腰へ下げた大柄な男。


 その隣には、弓を背負った女性。


 最後は少し小柄な青年。


「お前が赤髪の新人だろ?」


「俺?」


「他に赤髪の新人がいるなら知らねぇけどな」


「ああ! たぶん俺!」


「たぶんってなんだよ」


 大柄な男が笑う。


「西街道で馬車を助けたって聞いたぞ」


「ああ!」


 ルイスが嬉しそうに頷く。


「魔獣二匹倒した!」


「噂通り元気な奴だな」


「ありがとう!」


「褒めたつもりじゃねぇぞ」


「違うのか?」


「……まぁいい」


 男が苦笑する。


「ただな」


 少しだけ表情が真剣になる。


「最近の西街道は前より危ない」


「知ってる」


「そうか?」


「ああ」


 ルイスは西門の方向を見る。


「魔獣がどんどん街の近くまで来てる」


 三人が少し意外そうにルイスを見る。


「ちゃんと分かってるじゃねぇか」


「俺だって調査したからな!」


「なら余計に気をつけろよ」


「分かってる」


「一度上手くいったからって、次も同じとは限らねぇ」


「…………」


 ルイスは少しだけ黙った。


 あの時戦った。


 二匹の魔獣。


 一匹だけを見ていれば、背後からやられていた。


 さらにその前。


 初めて短剣を使った時には、剣と同じように振って刃が届かなかった。


「そうだな」


 素直に頷く。


「無理そうなら逃げる」


「お?」


 男が眉を上げる。


「もっと『俺なら大丈夫!』とか言うかと思ったぞ」


「それも言える!」


「言わなくていい!」


 女性冒険者が吹き出した。


「でも」


 ルイスは笑う。


「今日は一人じゃないかもしれないしな!」


「誰かと組むのか?」


「ああ!」


 その時。


「……おーい」


 少し離れた場所から声がした。


 ルイスが振り返る。


「あっ!」


 黒い三角帽子。


 少し大きめのローブ。


 杖を持った少年が、こちらへ歩いてくる。


「カイル!」


「朝から何してるんだ?」


「冒険者の人たちと話してた!」


「それは見れば分かる」


 カイルが三人を見る。


「知り合い?」


「今知り合った!」


「またか……」


 大柄な男がカイルを見る。


「お前が昨日一緒にいた魔法使いか?」


「そうだけど」


「なら今日はこいつを頼むわ」


「なんで僕が?」


「こいつ、一人にすると森まで走っていきそうだからな」


「行かねぇよ!」


「…………」


 ルイスが黙る。


「ほらな」


「でも今は行かない!」


「成長したじゃねぇか」


「だろ!」


「胸張るところか?」


 カイルが呆れたように言う。


 男は笑った。


「まぁ、二人とも気をつけろよ」


「おう!」


「分かってる」


 三人と別れる。


 ルイスはすぐカイルの隣へ並んだ。


「カイル!」


「何?」


「今日も来たな!」


「ギルドには来るだろ。僕も冒険者なんだから」


「じゃあ今日も一緒に行こう!」


「まだ依頼も見てないだろ」


「見る!」


「話を聞け!」


 二人は言い合いながらギルドへ向かった。


――――――――――


 冒険者ギルド。


「おはようございます、ルイスさん」


「おはよう!」


 受付嬢が顔を上げる。


 そして。


 ルイスの隣にいる少年を見る。


「今日もカイルさんとご一緒なんですね」


「うん!」


「……まだ何も決めてないけどね」


「一緒に行くだろ?」


「依頼による」


「行くって!」


「なんで君が決めるんだよ」


 受付嬢が小さく笑う。


「それで、今日はどのような依頼を?」


「西街道!」


「即答ですね」


「昨日、変な魔獣が出ただろ?」


「甲羅を持つ四足型ですね」


「ああ」


 ルイスは掲示板を見る。


「他にも何かいるかもしれない」


 受付嬢が少し驚く。


「それを調べたいんですか?」


「うん」


 ルイスは頷いた。


「倒すだけじゃなくて、どっちから来たとか、変な動きしてないかとか」


 昨日。


 その前。


 少しずつ覚えたこと。


「それも見た方がいいんだろ?」


「……そうですね」


 受付嬢が微笑む。


「では、ちょうどいい依頼があります」


 一枚の依頼書を取り出した。


『西街道周辺・魔獣討伐及び目撃地点の確認』


「これ!」


「討伐対象を確認すると同時に、発見場所と移動方向を記録する依頼です」


「受ける!」


「僕の意見は?」


 カイルが横から口を挟む。


「カイルも行くだろ?」


「…………」


 依頼書を見る。


「森には入らない?」


「もちろんです」


 受付嬢が答える。


「街道周辺までです。森の入口へも近づきすぎないでください」


「ならいい」


「よし!」


「なんで君が嬉しそうなんだよ」


「一緒に行けるから!」


「…………」


 カイルが一瞬黙る。


「……そう」


 小さく呟いた。


「それと」


 受付嬢が二人を見る。


「危険を感じたら、すぐに戻ってください」


「分かってる!」


「ルイスさん」


「本当に分かってる!」


「ならいいんですけど」


 今度はカイルを見る。


「カイルさんもお願いしますね」


「任せてください」


 カイルは少し得意げに胸を張った。


「ルイスが無茶しそうなら止めます」


「なんで俺が無茶する前提なんだよ!」


「昨日までの行動」


「今日はしない!」


「今日“は”なんだ」


「あっ」


 受付嬢が吹き出した。


「ふふっ」


「笑わないでくれ!」


「すみません」


 依頼書を受け取る。


「じゃあ行ってきます!」


「お気をつけて」


 二人はギルドを出た。


――――――――――


 西街道。


 街を離れるにつれ、行き交う人の姿も少なくなっていく。


 草原を風が吹き抜け、その向こうには西の森が広がっていた。


「なぁ、カイル」


「何?」


「昨日の続きやろうぜ!」


「続き?」


「魔力!」


「ああ」


 カイルがルイスを見る。


「ちゃんと覚えてたんだ」


「当たり前だろ!」


 ルイスは胸へ手を当てる。


「身体の中にあるやつを感じるんだろ?」


「そう」


「昨日、一瞬だけなんか分かった気がした」


「だからって、依頼中に目を閉じるなよ」


「まだ何もしてない!」


「やりそうだから言った」


「信用ないなぁ」


「あると思う?」


「……ちょっとは!」


 カイルが笑う。


「帰ってから付き合うよ」


「約束な!」


「ああ」


「じゃあ」


 ルイスがカイルの杖を見る。


「魔法だけ見せて!」


「結局それかよ」


「一回!」


「嫌だ」


「なんで!?」


「魔力を使うから」


「疲れる?」


「当然」


「でも昨日結構使ってたじゃん」


「戦うためなら使うよ」


「なるほど」


 ルイスは少し考える。


「じゃあ戦うまで我慢する」


「本当に少しずつ学習してるな」


「俺をなんだと思ってるんだ!」


「勢いで生きてる奴」


「違う!」


「そうかなぁ」


 二人の声が街道へ響く。


 しばらく歩いた頃。


「…………」


 カイルの足が少しだけ遅くなった。


「どうした?」


「いや……」


 西の森へ顔を向ける。


「何か変?」


「うまく言えない」


「魔力?」


「たぶん」


 カイルは眉を寄せた。


「森の方から……何か感じる」


「森から?」


「うん。でも、森そのものってわけじゃない」


 カイルは目を細めるようにして、遠くの木々を見つめた。


「もっと奥の方から、いつもと違う魔力の気配が混じってくるっていうか……」


「誰かいるのか?」


「分からない」


 カイルはすぐに首を横に振る。


「遠すぎるし、何の魔力なのかまでは僕にも分からない。ただ……昨日より少し強く感じる」


「昨日もあった?」


「ほんの少しね。気のせいかと思ってた」


「…………」


 ルイスも森を見る。


 自分には何も分からない。


 木々。


 風。


 遠くで揺れる枝。


「魔法使いって、そういうのも分かるんだな」


「得意な奴ならもっと分かると思うけど」


「すげぇ!」


「褒められるほどじゃ――」


 ――ガサッ。


 二人の表情が同時に変わった。


「……来た」


 ルイスが短剣を抜く。


 カイルも杖を構える。


 街道脇。


 草むらが大きく揺れた。


 そして。


 そこから。


 一羽の大きな鳥が姿を現した。


「……鳥?」


 全長は一メートルほど。


 翼を広げれば、ルイスの身長を優に超える。


 青黒い羽毛。


 鋭いくちばし。


 頭部には、小さな角のような突起が二本。


「また知らない奴だ!」


 ルイスの目が輝く。


「喜ぶな!」


「だって見たことない!」


「今から襲ってくるんだぞ!」


「それはそれ!」


「どういう分け方だよ!」


 鳥型の魔獣が翼を大きく広げる。


「来るぞ!」


「分かった!」


 魔鳥は地面を蹴り、空へ飛び上がった。


「飛んだ!」


「鳥なんだから飛ぶだろ!」


「そうだった!」


「しっかりしろ!」


 魔鳥が空中で旋回する。


 そして。


 急降下。


「――!」


 ルイスが横へ飛ぶ。


 鋭いくちばしが、地面すれすれを通過する。


「速い!」


 魔鳥がそのまま上昇する。


 短剣を構える。


「届かねぇな……」


「僕が落とす」


「できる?」


「誰に言ってる?」


 カイルが杖を掲げる。


「風よ――」


 術式が淡く光る。


「ウインドバレット!」


 杖先から。


 圧縮された風の弾がいくつも放たれた。


「おおっ!」


「見とれてないで魔鳥を見ろ!」


「分かってる!」


 魔鳥が空中で身体を捻る。


 いくつかをかわした。


 だが。


 ――バンッ!


 一発が右翼へ直撃する。


「ギャアッ!」


 魔鳥が大きく体勢を崩した。


「ルイス!」


「任せろ!」


 落下してくる。


 だが。


 ルイスはすぐには飛び込まない。


「…………」


 見る。


 翼。


 身体。


 足。


 硬そうな羽毛。


「昨日の奴みたいに、硬いところあるかもな」


「来るぞ!」


 魔鳥が地面へ降りる寸前。


 鋭い鉤爪をルイスへ向ける。


「そこ!」


 真正面から受けず。


 斜めへ踏み込む。


 爪の外側へ。


 そして。


 蹴り。


「はっ!」


 翼の付け根へ叩き込む。


「ギャッ!」


 魔鳥の姿勢が崩れた。


「今!」


 羽毛ではなく。


 翼の内側。


 薄い皮膚が見えている場所。


 そこへ短剣を走らせる。


 ――ザシュッ!


「ギャァッ!」


「通った!」


 魔鳥が暴れる。


「うおっ!」


 くちばしが横から迫る。


 身体を反らしてかわした。


「近い!」


 後ろへ跳ぶ。


 魔鳥は傷ついた翼を広げる。


 だが。


 上手く飛び上がれない。


「カイル!」


「分かってる!」


 杖先へ風が集まる。


「もう一発――!」


「待って!」


「え?」


 ルイスが魔鳥を見る。


「翼じゃない!」


「どこ?」


「脚!」


 片方の翼が傷ついている。


 飛べない。


 なら。


「動き止める!」


 ルイスが走る。


 魔鳥のくちばしが迫る。


 横へ。


 かわす。


 懐へ入る。


「はっ!」


 脚へ蹴りを叩き込んだ。


「ギャッ!」


 体勢が落ちる。


「今だ!」


「分かった!」


 カイルが狙いを変える。


「ウインドバレット!」


 風の弾が魔鳥の脚へ集中した。


 ――バンッ!


「ギャァァッ!」


 魔鳥が完全に地面へ倒れる。


「よし!」


 ルイスが踏み込む。


 首元。


 羽毛の薄い場所。


「ここなら――!」


 短剣を突き立てた。


 魔鳥の身体が大きく震え。


 やがて。


 動かなくなる。


「…………」


 ルイスはすぐに短剣を抜かなかった。


 周囲を見る。


「他はいない?」


 カイルも辺りを確認する。


「見えない」


「よし」


 ようやく息を吐く。


「倒した!」


「悪くなかったね」


「本当か?」


「ああ」


 カイルが杖を下ろす。


「昨日より、ちゃんと相手を見てた」


「だろ!」


「僕の魔法があったからだけど」


「それもそうだな!」


「……普通そこ否定しない?」


「なんで?」


「いや……」


 カイルが少しだけ顔を逸らす。


「助かったぞ!」


「……そう」


「カイルが落としてくれなかったら、俺の短剣じゃ空まで届かないからな!」


「当たり前だ」


「だから」


 ルイスが笑う。


「一緒だと強いな!」


「…………」


「どうした?」


「いや」


 カイルも小さく笑った。


「悪くないかもね」


「だろ!」


 二人は倒れた魔鳥を見る。


「魔石取ろうぜ」


「もう忘れなくなったな」


「金になるからな!」


「そこ?」


「街灯にもなる!」


「後から付け足しただろ」


「ばれた?」


「分かるよ」


 ルイスは魔鳥から魔石を取り出した。


「おっ」


 手のひらに乗せる。


 昨日までに見たものとは色が違う。


「こいつ、ちょっと色違うな」


「魔獣の種類が違うからだろ」


「種類で変わるのか?」


「ああ」


 カイルが覗き込む。


「色だけじゃなく、大きさや含んでる魔力の量も違う」


「へぇ……」


 ルイスは魔石を光へかざす。


「じゃあ魔道具によって使う魔石も違ったりする?」


「用途によって選ぶことはあるね」


「やっぱ魔石って面白いな!」


「君、昨日まで名前も知らなかっただろ」


「だから面白いんだよ!」


 ルイスは魔石を布へ包んだ。


「知らなかったこと知れるの、楽しいだろ?」


「…………」


 カイルが少しだけ笑う。


「君らしいな」


「そうか?」


「たぶん」


 使えそうな素材も回収する。


「よし!」


 ルイスが立ち上がった。


「次はどこから来たかだな」


「ああ」


 二人は魔鳥が最初に姿を現した草むらへ向かう。


 草が踏み倒されている。


 さらに。


「……これ」


 カイルが少し先を指差した。


「羽?」


 青黒い羽根が数枚。


 木の枝にも引っかかっている。


 その先。


 折れた細い枝。


 踏み倒された草。


 一直線ではない。


 けれど。


 辿っていけば。


「やっぱり」


 ルイスが顔を上げる。


 痕跡の先。


 西の森。


「森の方から来てる」


「そうみたいだな」


 カイルも森を見る。


「…………」


「行ってみる?」


「駄目」


 即答だった。


「まだ最後まで言ってない!」


「森に入ってみるって言うつもりだっただろ」


「……なんで分かった?」


「君だから」


「ひどいな!」


「依頼の指示、覚えてる?」


「森には入らない!」


「森の入口にも近づきすぎない」


「危なくなったら戻る!」


「ちゃんと覚えてるじゃないか」


「俺だって学習する!」


 ルイスは少しだけ名残惜しそうに森を見る。


「気になるけどな」


「僕も気にはなる」


「じゃあ――」


「駄目」


「まだ何も言ってない!」


「だから駄目」


「くそぉ……」


 だが。


 ルイスは足跡を追わなかった。


「……この場所だけ覚えとこう」


「そうだな」


「ギルドに報告する」


「それが一番だ」


 ルイスはもう一度、西の森を見る。


 魔獣。


 魔鳥。


 カイルが森の奥から感じたという、正体の分からない魔力の気配。


 少しずつ。


 何かが繋がり始めている。


 けれど。


 まだ答えは見えない。


「……絶対いつか調べる」


「ちゃんと許可もらってからね」


「分かってる!」


「本当に成長したなぁ」


「なんだよその言い方!」


 二人は街へ戻り始めた。


 その背後。


 西の森。


 木々の奥。


「…………」


 ほんの一瞬。


 枝の間で何かが動いた。


 人影のようにも。


 ただ風に揺れた木々のようにも見える。


 ルイスも。


 カイルも。


 それには気づかなかった。


――――――――――


 夕方。


 グランベル冒険者ギルド。


「お疲れ様でした」


「ただいま!」


「ただいま戻りました」


 受付嬢が二人を迎える。


「今回は魔鳥を討伐されたんですね」


「ああ!」


 ルイスが魔石を取り出す。


「これ!」


「魔鳥の魔石ですね」


「やっぱ種類によって色違うんだな!」


「カイルさんに教えていただいたんですか?」


「うん!」


「魔獣によって、魔石の色や大きさ、性質には多少の違いがあります」


「やっぱり!」


 受付嬢が魔石を確認する。


「状態も問題ありません。こちらは買い取り可能ですよ」


「よし!」


「それから」


 受付嬢が依頼書を開く。


「目撃地点の確認はどうでしたか?」


「あっ、それ!」


 ルイスが地図を見る。


「ここ!」


 一地点を指差す。


「魔鳥が出てきたのはこの辺」


「はい」


「それで、草とか羽根とか辿ったら」


 指を西へ滑らせる。


「やっぱり森の方から来てた」


「……西の森」


「あと」


 カイルが口を開いた。


「これは確実とは言えませんけど」


「はい?」


「森の奥の方から、少し妙な魔力の気配を感じました」


 受付嬢の手が止まる。


「妙な?」


「はい。何の魔力なのか、どこから出ているのかまでは分かりません」


 カイルは少し考える。


「昨日にも僅かに感じたんですが、今日はそれより強かったです」


「森そのものから、ということですか?」


「いえ」


 カイルは首を横に振った。


「少なくとも、僕にはそうは思えません。森の中のどこかから届いているような……そんな感じです」


「なるほど」


「ただ、魔獣が増えていることと関係がある、とも言い切れません」


「はい」


 受付嬢はその言葉も記録する。


「ですが、情報として報告しておきます」


「お願いします」


「それと」


 ルイスが身を乗り出した。


「森には入らなかったぞ!」


「…………」


「なんで黙るんだよ!」


「いえ」


 受付嬢が笑う。


「ちゃんと指示を守ってくださったんだな、と」


「当たり前だろ!」


「少し前までは本当に心配だったので」


「俺、そんなに信用なかった!?」


「ありましたよ」


「どれくらい?」


「…………」


「なんで考える!?」


 カイルが横で笑う。


「ははっ」


「カイルまで!」


「だって」


 カイルは笑いながら言う。


「森を見つけたらすぐ『入ってみる?』って言ったじゃないか」


「でも入らなかった!」


「そこは偉い」


「子供扱いすんな!」


「僕たち同い年くらいだろ」


「それもそうだ!」


「納得するんだ……」


 受付嬢も笑った。


 やがて。


 依頼達成の処理が終わる。


「今回の依頼も達成です」


「よっしゃ!」


「討伐だけでなく、目撃地点と移動方向まできちんと確認されています」


「役に立った?」


「はい」


 受付嬢が頷く。


「こうした情報の積み重ねは、とても重要です」


「……!」


「それに」


 ルイスの冒険者証へ目を向ける。


「ここ数日の依頼達成状況も、きちんと記録されていますからね」


「ランク?」


「まだ昇格ではありませんよ」


「なんだぁ……」


「ですが」


 受付嬢は少し笑う。


「この調子で依頼を確実に達成していけば、昇格のための評価にも繋がります」


「本当か!?」


「はい」


「よっしゃ!」


 ルイスが拳を握る。


「もっと頑張る!」


「無茶をする、という意味ではありませんからね?」


「分かってる!」


「そこも評価されます」


「……!」


「依頼を達成することだけでなく、指示を守ること。必要な情報を持ち帰ること。無理だと判断したら撤退すること」


 受付嬢はルイスを見る。


「それも冒険者として大切な実績です」


「なるほど……」


 ルイスは自分の冒険者証を見る。


 まだFランク。


 だけど。


 少し前より。


 その文字が嫌には見えなかった。


「じゃあ」


 冒険者証を握る。


「ちゃんとやって上げる!」


「はい」


「絶対Eまで行く!」


「まずはそこですね」


「その次も!」


「気が早いですよ」


 ルイスが笑う。


 その隣で。


 カイルが呆れたように肩をすくめた。


「本当に元気だな」


「カイルも頑張ればいいだろ!」


「僕は君ほどランクにこだわってない」


「なんで?」


「魔法の研究とか、他にもやりたいことあるし」


「へぇ!」


 ルイスが目を輝かせる。


「それも聞きたい!」


「今度ね」


「今日!」


「今日は疲れた!」


「じゃあ明日!」


「……はいはい」


 ルイスが笑う。


「また明日な!」


「…………」


 カイルが少しだけ目を丸くする。


「どうした?」


「いや」


 昨日は。


 ルイスが勝手に誘った。


 今日も。


 最初は成り行きだった。


 でも。


「……ああ」


 カイルが小さく笑う。


「また明日」


「おう!」


 二人はギルドの前で別れた。


――――――――――


 夜。


 月影亭。


 ベッドへ横になったルイスは、天井を見つめていた。


「……今日も楽しかったな」


 魔鳥。


 魔法。


 西の森。


 知らないことは増えるばかり。


 でも。


 もう一つ。


「また明日、か」


 自分で言って。


 少し笑った。


 旅をしていれば。


 いつか別れる。


 次の街へ行く日も来る。


 それでも。


 同じ場所にいる間くらい。


 誰かと一緒に冒険するのも悪くない。


「……仲間って、こんな感じなのかな」


 ルイスは目を閉じた。


 答えはまだ分からない。


 ただ。


 明日もまた。


 カイルと何か知らないものを見つけられたらいい。


 そんなことを思いながら。


 ルイスは静かに眠りへ落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。