65話
「んで、この後はどうするんだ」
ダンの言葉にヴィルは視線を合わせて沈黙した。
思考……どのようにするべきか、本当の意味でのSSSランク級の敵を倒したばかりの今は、経験豊富な彼等であっても満身創痍である。
現に彼もまた二百を超えたレベルが、既に二百五十まで一気に上がっているのだ。それだけの敵であった事は彼にもよく分かっている。
「このまま、進む」
「理由を聞いてもいいか」
ダンの声、それは酷く重く鈍いものである。
最善手を取り続ける少年……力を疑っている訳では決して無い。だが、今し方、味わったばかりの恐怖は信頼すらも覆す程であった。
ヴォル、その名を聞いた瞬間に狂ってしまった当然の歯車である。ダンとギネ、そしてジーナとディーラからすれば、ヴォルの名前は特別……ましてや、残された子供は死んでも守るべき相手でしかない。
守るため……奇しくも、憧憬のために戦い続けた落し子と同じ理由で、彼等は今の今まで敵足り得る全てを殺して見せた。
だが、その命を勝手に散らす可能性があるのならば、同時に彼等が個人的に持つ【命をかけて守りたい者達】へ危険が迫るのならば、無理やりにでも戻すつもりであった。
「え……ここで終わりだから、だけど……?」
「……へ?」
素っ頓狂な声、素直過ぎる反応はダン達の毒気を一瞬で抜いてしまう。親友の姿、その血を引くにしては腹芸をしない様子に、ただ彼等は癒されてしまう。
『俺の……馬鹿息子を……頼む、よ……』
守れなかった事実、最期の約束は忘れていない。
言葉の重み……どこかで、思い出していた事実は自分達の弱さだけを照らし出してしまう。戦いから身を放っていた間に得てしまった安楽、甘えの精神は確かに彼等を全盛期から一気に落としてしまったのだ。
「ふっ、ははは! だってよ! これで終わりって!」
「わ、笑うなよ、ダン……ふ! はは! あの程度で終わりだなんてエルザスも名前負けだな!」
フーバー、その名は二人も知っていたのだ。
歴史書に記されていただけの名前……それでも、共通の親友は彼を好んでいた。知っているはずのない事を、歴史書にも残されていない事を喜びながら口にする姿を、ただ二人は楽しんで戯れていたのだ。
「本当に、終わりなのか」
「……確実性が無くてもいい、かな」
ヴィルの言葉にギネは軽く胸を押えて、横にいたダンを睨みつける。半ば八つ当たり気味に横腹をぶん殴ると笑ってヴィルの頭を撫でた。
「お前の意見だから、俺達は聞くんだ。ヴォルの息子だからとか、ヴィルだからとかは関係が無い話だからな。皆、お前じゃなかったら着いてきていない奴等しかいないよ」
「でも……僕は理由が無いなら話さない方が……」
その言葉に耐えられられなくなった男が、ライアンがヴィルの胸元を掴んで睨み付ける。殺意……そんなものではなく、好意から彼に対して強い気持ちが残ってしまうのだろう。
「ああ!? 俺を動かす時には予見したとか嘘ついてギルドをどうにかしようとしている奴が何を言っているんだ!?」
「だって! それは! 国を守るためなら……!」
返答は睨むだけ、それでも互いに共感出来る事であった。守るべきものがあるから守る、そのためならば何をするにしても気にしない、と。
「そっ、か……うん、そうだよね……」
「ああ、お前が動くならば必要な事由だろ」
ライアンの言葉……過去に何があろうと手を貸してくれた者の言葉は確かに彼の表情を動かしてみせる。
「父さんの気持ちが分かったよ」
言えば動く、その気持ちの先が自滅であった。
騎士としての最期、美しく儚いといえば雅なものだろう。だが、残された者達はどうだろうか。現に血を引く彼は恋焦がれた後に、目指すべきではない世界に足を踏み入れようとしたのだ。
「親子揃って口足らずなのが悪いさね! あんなにも良い母がいて父の血だけを継ぐ方がおかしいのよ!」
「失礼ですよー。母さんの血はこうして魔法に」
『そうじゃない(さね)!』
全員の返答、どれもが同じであったのだ。
求めていた……そう口にするには重すぎる言葉でもあった。愛する二人、だが、最上位の者達がいても尚、守れなかったのだ。
『ごめん! ごめん! ヴィル! 私は───!』
一人の騎士、その言葉と声にただ焦がれた。
もしも、彼と共に立てたならば……自身の父と共に戦えたのならば結果は変わったのではないか、などと。そして結果は嫌という程に彼の実力を示してみせる。
「ぶーぶー! なんだよー!」
「……ぶっ! ははは! そこは母親似か!」
その表情を場にいた全てが知っていた。
とんがらせた口、少しだけ高くなる声はヴォルのものではない。英雄の嫁……そんなな名前を与えられたヴィルの母親のものである。同時に助けられてきた彼等からすれば今はただの奉公にしかなりはしない。
「俺はヴィルだから、命をかけるし、お前以外なら俺のところに来いなんて言わねぇよ」
「行きませんが?」
ヴィルの言葉に口にしたライガは笑って、その後に額へ一つの青筋を立てる。
「そこは嘘でもな!」
「僕、必要不必要には欠かしていない要素があると思うんですよ。少なくとも、ライガさん達に僕は必要無いじゃないですか」
その言葉にライガは、そしてフウガ達も含めて笑って両手を上げる。冒険者……いいや、ヴィルが大切な者達のみに教えた合図だった。悲しさの反面、驚く程に高鳴る鼓動が全員を襲うのである。
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