53話
「お前……それを倒したのか?」
「あー……そうだね。何か、意外と弱かったんだ」
「一応、SSランクの魔物なんだけどな……はぁ」
ヴィルは頬を掻きながら笑ってみせた。
その姿にダンとギネは苦笑し、破邪の雷龍達は信じられないとばかりに目を見合わせる。確かに彼等も倒した事のある魔物ではあった。だが、それでも四人で連携をしてようやく、倒した雷龍の素材で出来た武具があったからこそ、倒せたに過ぎない。
「アレ……どうして、ライアンさんやライガさん達がいるの。白の角蛇に依頼を出したって聞いたけど」
「お前が鳩を飛ばしたからだろうが……はぁ、まぁ、そういうところは今に始まった訳ではないからいいけどな」
「そうだよ。今は出会えた事を喜ぼう。ほら、ヴィル。こっちへ来てくれ」
ノーグは手招きをしてから腕を広げてみせた。
その様子にヴィルは満面の笑みで近付いていく。少しばかり目元が潤んでいたのは隠していた本心なのかもしれない。ギュッと抱き締める力は確かに強く、離れてしまった時間を取り戻すかのようにノーグはより強く抱き締め返した。少しして離してからノーグはニコリと笑う。
「お前、誰だよ」
「ヴィルの顔で話すな」
「虫酸が走りますわ」
刹那、周囲に血飛沫が撒き散らされた。
ノーグの袈裟斬りを筆頭に、横に迫っていたシャロがヴィルの四肢を苦無で居抜き、トドメのようにアリアが漏れ出す彼の血で出来た十字架に貼り付けてしまう。その様子に他の者達の表情に驚きが走るが、煙へと変わった姿に魔物であった事を即座に悟った。
「ドッペル、ゲンガー……!?」
「嘘だろ……何で分かったんだよ!」
「ええと……その前に整理しましょう。まずは落とした素材を回収してからです。SSランクの魔物のコアや素材は高値で売れるでしょうし」
ゴースト系統の最高進化種、ドッペルゲンガー。
元の姿は誰も知らず、出会った者すら少数しかいなかった。書物には記されているものの、その判別方法は死んだはずの仲間がいたから区別がついたという悲しき方法である。現に白の角蛇の三人を除いて、誰もが本物のヴィルであると信じてしまったのだ。
冷淡、冷静な様子が余計に不信に繋がる。
ダンは素直に素材を回収していたが、破邪の雷龍は我慢の限界だったのか、ライガが前に出て胸元を掴んでしまう。いいや、その目にあったのは自身よりも先の展開を見据えている、ノーグへの嫉妬である。目前となり締まる力が強くなる中でも変わらずにヘラヘラと笑う姿に、ライガは大きな舌打ちをした。
「お前……もし、本物だったらどうしていたんだよ」
「有り得ない事を口にして、どうかしたのですか」
「良いから答えろ……どうしていたんだよ!」
声を出せるようにと弱めた首が一気に締まる。
脅し、場合によっては……その覚悟すら持ち合わせていたのは同様に、彼もまたヴィルを大切に思うからであった。だからこそ、その様子を見てノーグは嘲け笑えてしまうのだ。グッと首にかかる手を掴んで無理やりに空気を肺の中へと流し込む。
「どうもこうも、ヴィルなら確実に防いでいましたよ。それにアイツなら絶対にしない事をしていましたから。そうでなければ、彼を愛して止まないアリアとシャロが距離を詰めたりしないでしょう」
「ん、誰が見ても分かるくらい変だった」
「ええ、寧ろ、その程度も分からない癖にお兄様に手を出そうとしている、その頭の弱さに驚いてしまいますわ。だから、ヴィルに振られてしまうのですよ」
既に二人はライガへ攻撃の構えを行っていた。
殺そうとすれば殺される……少なくとも、殺し合えば誰かが犠牲になる事は情緒の傾いた彼ですらも理解出来ている。大きな溜め息を一つだけ吐き出すとノーグを木へと投げ付けて両腕を天に上げた。瞬間、その頬を苦無が通り一本の傷を付ける。
「貴方がどうかは知らない。でも、ノーグは私達にとって大切な仲間……傷付けるなら死んでも殺すから」
「少なくとも、殺そうと思えば殺せますので。あまり感情に飲まれない方が良いですよ。まだ、死にたくは無いでしょう」
「ああ、殺すのも、殺されるのもゴメンだな」
ライガの頬に出来た黒い蝶の模様。
話には聞いていた……禁忌とされる力の一端、破邪の雷龍の面々から戦闘の意思が消えたのも当然の事だろう。もしも、敵対行動と取られる何かをしたのならば即座にライガは死ぬのだ。危険な橋を渡ってまで、嫉妬や自尊心に傾倒出来る訳も無かった。
それが分かるからこそ、ノーグは立ち上がる。
痛くも無い体を起こす時に表情を少しばかり歪ませてみせて、立ち上がってからは服についた土埃を払う素振りを見せた。抗議、そんな事はライガにも分かってはいたが表情を見て小言を口にする事すらも止める。その目を知っていたからだ。
「それでどうして気が付いたか、でしたね」
「ああ……口振りからして、一目見て分かったんだろ。お前らの言う通り、俺達には少しも違いが分からなかったからな」
「ええ、簡単な事ですよ。そうですね、例えば」
そこでノーグは視線を右側へと移した。
それを見て全員が視線を向け直す。ガサガサと草を掻き分ける音、それと同時に漏れ出したのは魔力と魔素であった。先程のドッペルゲンガーと出会った時には感じなかった異常……同時に主が姿を現す。
「あれ……なんで、皆がいるんだ……?」
それはヴィルの姿と声をしていた。
次回は明日の9時の予定です。
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