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52話

「んだ……これ……!」


 扉の先、出た瞬間に広がっていたのは森である。

 陽の光が燦々と照らしながらも、多くの濃い魔素が周囲に漂っている状況下……咄嗟に杖を振ったルチアの判断は正しかった。目の前に広がる木々の間を通り抜けて行ったのは全員が見た事のある魔物である。


「サジタリウス……それも複数体……!?」

「さすがはSSSランクダンジョンだな」


 もしも、と皆が考えて胸を撫で下ろした。

 SSランクの魔物、それだけでも圧倒的な脅威である。一体でSSランク冒険者パーティと張り合えるだけの力を持つ存在……それらが目の前を七体も走り去ったのだ。個々人に覆われた魔法が無ければ確実に戦闘となっていただろう。


 それは風と水を掛け合わせた魔法であった。

 基本的な下級魔法の二種属性ではあったが、それらを咄嗟に緻密な組み合わせを行えるだけの腕前は出来る者の方が少ないだろう。ましてや、覆われた者達に少しも負担を与えずに、本人達の漏れ出す音や魔力、気配そのものを消しされる等、神業に近かった。


 だが、それがあってようやく第一歩目である。

 当たり前のように広がる非日常的な世界にノーグは額から一つ汗を流した。王都でも指折りの冒険者が揃っている今ですら、何が起こるか分からない空間では容易に死にかねないのだ。サジタリウス七体だけならば問題なく倒せるだろう。では、そこに新しく他のSSランクの魔物が来た場合はどうだろうか。……ノーグはギネの横腹を肘で軽く突いた。


「目的はヴィルの救出です。そのためには」

「ああ、俺の探知で大まかな位置を測る」


 ギネが軽く目を閉じると小さく舌打ちをした。

 仕方の無い事である。その場には濃い魔素が漂っているのだ。例えるならば霧のかかった砂漠の中で一つの砂鉄を視認しろ、と言われているようなものである。近くまで行けば少しは視界の中に入るかもしれないが、一歩踏み出した先が今いる足場と同じとは限らない。


 少しでも下手をすれば……呑まれるだけだ。

 そのままの意味、邪が彼の心の奥から喰らい始め、人としての全てを奪い尽くしてしまう。人には扱えない者であるから魔力とは違う名称を与えられているのだ。毒を喰らえば死ぬのみ、それでも進まない道は無い現状……悩むギネの手を優しく包み込む女性がいた。


「私が、いるから大丈夫」

「すまない……少しだけ無茶をする」


 探知の範囲が広がった……高々、五メートルだ。

 それだけで彼の感じる魔素の量が極端と大きくなり、既にコップへ並々と溜まった水が一瞬だけ漏れ出しそうになる。溢れてしまえば……その時に何が起こるか等は分かりはしない。それでも今ある状況が悪化するのだけは明白であった。


 そんな運命が、微かながらに揺らいでいく。

 魔素への耐性、普通では無い力を持つ女性の手によって水が一気に減ったのだ。同時に感じ取れた人の気配……それは四方に幾つもある状態ではあった。ヴィルと同じく選ばれた者達、そんな考えと共に意識したのは数である。救おうとしているヴィルは一人しかいないのだ。ならば……。




「右七百メートル先、右斜め前八百メートル先……そこに一人ずつだけ、人の気配がする。他にも気配はあるが少なくて三つだ。ヴィルのものだと考えない方がいい」

「でしたら……近い方から、ですね」

「ああ、それでいい。後、少しだけ作戦を変更させてくれ」

「キャッ……!」


 ディーラを背負うギネにノーグは苦笑した。

 確かに探知の質は魔素を放出してくれるディーラがいれば高まるだろう。だが、それは同時に前衛を張ると言った彼の戦闘能力を割く行為でもあるのだ。得られるメリットの反面、デメリットの大きさも分かりやすく多い提案。悩むノーグの横顔を見てダンは態とらしく大きな溜め息を吐く。


「本来の戦い方だから気にすんな」

「それって……?」


 質問にダンは気恥しそうに視線を逸らす。

 ギネの過去、それを知っているからこそ、勝手に言えたものでは無かった。そして同様に話そうとしないダンを見てノーグは視線を戻す。聞く相手を間違えていたのだ。事実であるならば本人に聞くべき事である。……だが、少しばかり靄が晴れたのも事実であった。


「目的はヴィルの救出、でしたもんね」

「そうだな」

「なら、拒否する理由は無いですよ。ただし、ディーラさんの身はギネさんが守ってください。それが出来るなら少しも支障を来さないのならば文句は言えませんから」


 ノーグの言葉にギネは笑って首を縦に振った。

 同時に進み始めたダンを見てギネとノーグも隣を歩く。その足はゆっくりゆっくりと速度を早めていった。七百メートル……その事実を聞いて急くのだ。六百、四百、百と迫ったところで見知った顔が見えた。


「ヴィル……!?」

「あ、ダンさん! それとギネさんにノーグ!」


 今し方、殺したであろうサジタリウスの首。

 それを地面に落として少年はにこやかに笑った。

次回は明日の9時の予定です。

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