50話
すいません、体調不良で昨日は投稿出来ませんでした。
「闇の中へ誘いましょう」
ステラの言葉、同時に天使は右手を戻した。
恐怖、天使等と勿体無い名前を与えられた存在ですらも感じてしまったのだ。同時に闇と化して矢の雨から逃れる姿に自身の判断の正しさを理解する。近付いた瞬間に放たれた無数の魔法は只管に肌身を焦がした。
耐えかねて右手を振るう、それが過ちであった。
ニヤリと笑う血を纏った少女、シャロが目の前にいたのだ。その数は目に見えて十……同時に幻惑だと考えた天使は五十の魔法陣を展開させるが愚かであった、と即座に悟る。
「全部、本物だよ!」
両手に違えた八本の苦無が降り注ぐ。
魔法陣……それすらも撃ち抜いて天使の四肢を貫いてみせた。脅威、混乱、複数の感情が入り交じった中で両手を使って矢を放つ。等しく部屋を包み込む程の矢の雨、だが、密度が明確に違っていたのだ。
「星天十二宮」
全てを苦無に当てるために発動した一振の弓。
本気、それは誰が見ても明らかである。神の姿を模した彼ですらも焦りを隠せないのだ。だが、同時にノーグはニヤリと笑みを見せて念話を全員に飛ばした。最小限、それでいて最大限の成果を得ようとする彼ならではの命令である。
全てが戦略に当てはめた結果の作戦。
ヴィルならば彼の作戦を『面白くない』と一笑するだろう。対してノーグはヴィルの作戦を『身勝手過ぎる』などと評価するのだ。相対する考え、それでも今に限っては誰も死なずに勝利するという目的のためには、同じ考えに行き着いてしまう。
「一応! ギルドマスターなんだけどな!」
人の姿を捨てた狼、ライアンが両手を握る。
過去と同じ映像、確かに天使は何かに足を取られてしまった。それを行ったのがライアンか、ヴィルかの違いでしかない。絡め取られてしまった手足は既に自由が利かなくなっており、左右上下と向けた視線の先には見え難い糸があった。
「おおっと、アイツ以下だとかは言うなよ。気にしてんだ」
狼の十の指が上下した瞬間、天使が上る。
舞う、そのような優しい表現は向かないだろう。無理やり胴体を顕にされ、先程の傀儡よりも人形らしい、ぎこちのない動きを強制されてしまっている。人らしい顔、だが、まるで感情を失ったかのように表情は変わらず、その顔は周囲の熱気を受けても尚、汗すら流さずにいた。
そんな様子が無性に苛立ってしまうのだ。
「合わせろ。クソガキ共」
「仕方ねぇな!」
「ヴィルのためだ!」
ライアンの声にライガとフウゴが反応する。
空いた胴体に二本の剣戟が通る刹那、その裸体にすらも多くの糸が絡みついていく。ノーグから求められた命令は至極簡単な事、分かりやすいものだからこそ、難しい事でもあった。三人の視線がぶつかり合う、微かな互いの呼吸音を合図に先にある目的のために跳んだ。
「我流、紫死舞!」
「雷電!」
「封風!」
天使の四肢と首が一瞬の中で胴から離れた。
首を飛ばした一撃は眼前にいた狼によるもので、自身が行える強化の全てを右腕に集めただけの極簡単な技である。だが、魔力とは分散しやすい特性があった。熟練の魔法使いでもない、純粋な戦士が行える芸当では無い。とはいえ、それですらも成す事が出来ない火力であったのは事実であった。
だからこそ、三人全員が驚愕の表情を浮かべた。
両腕を落とした雷による一撃も、両足を落とした風による一撃も……どれもが最高クラスの一撃とはいえ、容易く得られない成果だと考えていたのだ。彼等の思考から抜けていたのは……微かに聞こえる歌声の存在を忘れていた事である。
「さすがは歌姫……」
「ここまでとは、な」
二人の感嘆の言葉、同時に魔法陣が開く。
入口付近まで飛ばされる転移の魔法陣……それを理解したのと同時に念話が飛ぶ。だが、その内容よりも前に動き出す者達がいた。ノーグならそう指示するだろう、ではない。後方で指示を出す彼の奥にいる少年なら何を求めてくるのか、そう考えたからこそ、最速で指示通りの行動を成し遂げる事が出来たのだ。そう、先程の魔法陣は転移ではなく、互いの位置を入れ替えるためのもの。
「傀儡封!」
「鉄の処女!」
光に包まれ始めた天使を残った傀儡が囲んだ。
その口元からは小さな鉄が漏れ出しており、それらが連結していく事で大きな鉄の処女を作り出してみせた。徐々に徐々にと閉まっていく扉が封をされると、全体に幾つもの護符の模様が描かれていく。
『もう、アイツの中に魔素は残っていないから』
ヴィルの口にしていた言葉が脳裏を過ぎる。
ノーグは動けない、それは確かに事実ではあったが正しい事でも無かった。静かに静かに近寄りながら大きな拷問器具に手を当てる。ヒンヤリと冷たな感触が伝わるのと同時に……ノーグは大きく深呼吸をして吐き切った。
「へぇ……こんな事を任せていたのか……!」
懺悔の念、だからこそ、止められはしない。
彼の体を通して内部の魔素が魔力へと変換されていくのだ。高濃度の毒、それも内部にあるのは魔素だけではない。その名前の通りに天使であるとするならば、神の力とも思えそうな異質な魔力も残っているのだ。共鳴でヴィルの力を扱えているとは言えども、その体は一人の青年でしかない。
もしも、近くにいたならば……。
確実に彼はヴィルに頼んでいただろう。無知にも毒を散らしてくれ、と。自分達の戦いやすさのために我慢を強いていたのだ。それが分かってしまうからこそ、謝り分かち合うために、その意地と誇りのためだけに魔力や魔素を全て外へと放出していった。
「残り二分……いける、のか……?」
もしも、仮定の話が幾らでも浮かんでくる。
恐怖、脅威……魔素を吸い尽くしたところで次の形態に変化していたならば戦闘は続くだろう。その時に勝てるかどうかは彼にも分からない。即座に負の思考を消し去ろうと頭を振った。だが、その考え自体を否定する。ヴィルの力が抜けた瞬間にダンジョンの攻略は破綻するのだ。最悪な思考こそが先の展開を予測する良い考えであった。
「残り、一分……いいや、もう、無理か……!」
共鳴、その前に体が限界を迎え始めた。
魔素を飛ばしながらも、白魔法で自身の精神と肉体を回復させていたのだ。それであっても明確に体が悲鳴をあげている。鉄の処女に触れている右手は魔素と何かにやられて濃い紫色へと変化し、壊死を開始し始めていた。
「ごめん……僕じゃ……」
「いいや、十分だ!」
「後は任せろよ!」
手が離れた瞬間……それは変形を始める。
サジタリウスを模した見た目、そう考えていたノーグは静かに瞳を閉じて笑った。小さく小さく圧縮されていった目の前の何かは、そのまま煙となって消え去ってしまったのだ。同時に空いた小さな穴、そこ目掛けてシュと影が飛んだ瞬間───
「開けてくれてアリガトよ! クソ蛇が!」
錬金術、内部の鉱石は魔力をよく通した。
穴を開閉しやすくするために使用した特性が、それを予測していたノーグの作戦によって利用されてしまう。徐々に徐々に広げられていく穴、それを見てダンは右手の中の蛇の首を砂で落とす。そのまま、肩で息をしているノーグを背負うと笑った。
「それじゃあ、助けに行こうぜ。王子様を、な」
次回は明日の9時の予定です。
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