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49話

 轟々と燃え滾る炎、中から一人の青年が現れる。

 人形と見間違う程の美しさ……だが、その姿を見て誰もが息を飲んだ。過去の天使と戦った者達は馬としての足を捨てた姿に、そして他の面々は名前に違わぬ美しさに見蕩れてしまった。


 神の姿、確かにそれは神そのものであったのだ。

 四メートルはある巨体、微かに漂う風に靡く金の短髪は優美さを醸し出しており、一枚の大きな布で隠された体は絹のように白く美しい裸体を隠していた。同時に彼の頭部に漂う大きな光の輪は異様さと神秘さばかりを強調している。


「ふむ、この程度か」


 声が響いた。そう、確かに声が響いたのだ。

 前回では有り得なかった現状、紛うことなき人の声が部屋全体に響き渡っている。同時に放たれる威圧は魔素ではない。明確な魔力……いいや、その二種類が混ぜ込まれた力と異質な何かがあるのだ。




「僕はそれを許してはいないぞ」

「……ッ!」


 全員の脳内に響き渡ったノーグの冷たい言葉。

 それによって数名が小さく体を震わせた。彼等は重ねてしまったのだ。今の声が……自身の認めた化け物と同じものである、と。自分の力を見せただけ、その程度で真似してしまった存在が今し方、声を上げたのだ。


「行けるんだよな」

「以前……変わりなく」


 一言、だが、その言葉がギネの背中を押す。

 神に背く行為……無神論者の彼ですらも天使と知った敵への攻撃を躊躇っていたのだ。何もして来ないのならば逃げるのも、そんな甘えに近い感情すらも湧いてきていた。だからこそ、そんな自分自身が憎くて憎くて許せやしない。


「飛びっきりだからな……!」

「魔工技師、期待しています!」

「ああ……任せろよ……ッ!」


 その言葉と共に心臓へと右腕を突き刺した。

 ギネの胸からダラダラと血が垂れていく。死すらも見えてしまう程の出血量……だが、その表情は余計に高揚に満ちていき、腹部に大きな穴が開いた。同時に無数の鎖が絡み合い……一つの鉄の心臓を作り出す。


 魔工技師、非戦闘職業でしかないのだ。

 好敵手と認めているダンとの差は明確であった。魔力操作をどれだけ鍛えようと、魔法の練度をどれだけ高めようと……産まれながらに戦闘員であった彼とは違っていたのだ。故に、特異な力を工夫して糧としなければいけない。結果として彼が選んだ道は───






「俺自身が魔道具だ」


 その体から幾つもの鉄の糸が漏れ出していく。

 傀儡、何も知らない人から見れば哀れと思える程に覚束無い足元であった。天から垂れる糸で操られているかのような力無き姿……だが、本気となった彼の力がその程度な訳が無い。だからこそ、ディーラは笑って杖を軽く振るった。


「援護くらいはさせて!」

「お前を選んで正解だよ!」


 何も無いところへの強化……無意味では無い。

 即座に現れた五十もの本物の傀儡へかけた強化だったのだ。嫁、いいや、ギネを心の底から愛しているからこそ、咄嗟に導き出した答えである。それと同時にディーラも彼と共に一撃を与えるために準備を整えていた。


「スゥ……魔霊嬢をナメるなッ!」


 天使の足元から百数ものスケルトンが現れる。

 どれも魔物、だが、攻撃の対象は全て天使であった。弓を番え放つ姿は一人の弓兵でしかない。それらをウザったそうに見ていた天使だったが、即座に機械音を上げて結界を作り出す。……同時に足元の結界にヒビが入った。


「少しは認めてあげるわ!」

「そりゃあ、どうも」

「チッ……そういうところよ……!」


 ルチアは舌打ちをしながら右手を振り下ろした。

 箒に乗っての空中から行った強化魔法、同時に天使の目元へと無数の光の槍が向かう。それに左手を伸ばした天使ではあったが、瞬時に自身の行動が愚かである事を悟った。光魔法、それが効くわけが無いにも関わらず、脅威であると錯覚してしまったのだ。


 同時に向かってきた鉄人形達。

 無数の魔法陣が天使を囲んだ瞬間に鎖を打ち込み始めたのだ。普段であれば結界で弾ける程度の火力だろう。だが、当のそれは先程の無数の矢によってヒビが入っている。そんな思考が天使の頭を過ぎった瞬間に目の前で瓦解した。


「雷轟!」

「風轟!」


 魔法陣の縫い目を辿って向かった二名の猛者。

 近接戦での世界最強と言えば……そんな問いに対して、名前が上がるライガとフウゴが既に得物を迫っていたのだ。結界にぶつかり破壊した様に左手を構えるが既に遅い。当の二人はダンの転移によって遠くへ戻っていたのだ。両手を振り切った隙だらけの天使、そこへ鎖が降り注ぐ。


「鉄の鎖、とでも思っていたか」


 機械音、当然の事だろう。それは特効だった。

 刺さった瞬間では見立て通りに鉄の鎖であったのだ。だが、八割が天使の体に刃を向けた瞬間に変わった。ただギネが右指を弾いただけ……その瞬間に全てが吸魔の鎖へと変化したのだ。多くの魔力が吸い込まれていく中で、天使も動かない訳が無い。


「さすがは伝説の二人、ですね」

「おう、お前の師匠だからな」

「……力は認めているからな」


 ダンとギネの転移、全てが無に帰した。

 誰かを真似した右指を弾く動作も、無限に降り注ぐ矢すらもが無意味だったのだ。いいや、むしろ、初期位置に戻してしまった点からしてノーグ達の方が有利なのだろう。小さくニヤリと笑みを見せると念話で指示を飛ばした。

次回は明日の9時の予定です。

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