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48話

「なに……あれ……?」


 ルチアの声、同時に面々が畏怖をした。

 過去に戦った者達は強さを称え、知らぬ者達は異形さと漂わせる魔素の量と濃さに対して本物の恐怖を心に宿す。本物を知ってしまったからこそ、嫌という程に身に染みて分かってしまうのだ。


 四足の馬と同じ下半身に対して、上半身には三対の人間の腕と共に、背には大きな翼がある。その時点で過去の彼等は気が付くべきだったのだ。神秘的にも思える姿、取ってつけたような牛の被りモノはサジタリウスでは無い事の証明でしかない。同時にノーグは舌打ちと共に安堵した。


「蛇……がいますね」

「ああ、ヴィルを連れて行ったクソがな」


 尾の先はルビーのように赤く輝いていた。

 薄らと見えた先は間違いのない蛇である。それは同時に天使と戦闘を行った者達の戦意をより高めさせた。救おうとしている者を連れ去った悪魔、神の使徒らしい小狡い魔物がいるのだ。だからこそ、ギネが初撃のために準備を始める。


「あんなの……私は知らない……」

「ああ、アレは……確かに違うな」


 サジタリウス、それは彼等が名付けたものだ。

 だが、知ってしまえば間違いなく違った化け物のそれでしかない。もしも、ヴィル自身がサジタリウスと天使の違いを知っていたならば戦う事すらもしなかっただろう。初見ならば尚の事、今までの言葉が生易しいと思える程の恐怖を植え付けるものであった。


「臆せば……死ぬぞ」

「はぁ……なら、虚勢でも張ってやるよ」

「期待くらいはしてやるよ」


 ダンの言葉にライガは目を笑わせて逸らす。

 眼は先程とは違い、暗闇の先を見ていた。これから起こる事を見ているかのように、激戦の中でも生き残るために得物に力を込める。既に飛ばされたノーグの指示……小さなプライドは残っていたものの死ぬ事に比べれば些事でしか無かった。


「フウゴ……命を賭けるぞ」

「任せてくれよ……馬鹿兄貴」


 笑ったフウゴ、同時にギネが一番に中へと入る。

 前回であれば試しとばかりに与えた十字の一撃、だが、今回は明確な処理方法があった。前回の戦いで覚えた不甲斐無さ、大切な弟子がいた事で手にした勝利では喉の渇きを潤せはしないのだ。砂漠の中に降る雨、そんな幻想を成し遂げるために作り出したのは……一振の槍である。


歪な楔(ファウル・ファンブル)!」


 巨大な槍が頭部に突き刺さった瞬間であった。

 十数の魔法陣が天使の周りに浮かび、中から多くの鎖が飛び出す。それらが各々に巻き上げ始めると強力な魔力が流れ始めた。……壊されないために鎖へと強化を施したのだ。副産物、天使の体は曝け出され顕となっている。その刹那、一筋の雷が過ぎた。


「疾風迅雷……って、カッコつかないな!」

「仕方ないさね!」


 体を上下に割くために行った攻撃。

 SSSランクの攻撃ではあったものの、天使の腹部には一筋の傷が残るだけで期待した成果までは得られなかった。だが、元より雷を纏ったライガの狙いはそこではない。偽の出口の壁へと着いた彼へと迫ったのは巨大な出刃包丁である。


 それを受け取るのと同時にライガは動いた。

 持ったままに雷とも思える速度のまま、天使の周囲を走り回ると出口へと投げ付ける。それを確認した瞬間に入口にいたジーナは右腕を大きく振るった。同時に天使の巨体は地面へと叩き付けられ、出口から外れた得物の刃が彼女の手元へ戻ろうと敵の四肢を傷付け始める。


 だが、それでも足を挫くのが精一杯だった。

 傷だらけ、一手だけが未だに足りず、ライガとジーナも冷や汗を流す。……その後の指示を受けていたのは一人だけだったのだ。仕方の無い事だろう。そして当人はようやく迎えた出番に心踊りながら鋭い爪をキラリと輝かせた。


獣奏じゅうそう


 微かに響いた言葉、同時に体が半分に分かれる。

 一瞬の出来事、その速度はライガと同等であった。違う事と言えば一振の爪から幾重にも斬撃が加わった事だろうか。当の本人は成果にすら目もくれずに天井へ着いて、上空より鋭い眼を爛々と輝かせた。同時に視線が追い付いた天使が敵の姿を視界に映す。


「遅いな! クソ蛇!」


 振るわれた両腕から放たれた幾つもの斬撃。

 天使の目に残っていたのは……四足の狼がいたという事実だけであった。そんな景色を最後に牛の頭が細切れとなる。……一点狙い、だが、その狙いは正しかった。同時に放たれたライガの一撃は確かに天使の半身を上下に分かつことが出来たのだ。


「なるほど、牛頭は回復効果があったのかよ!」

「本当にヴィルに頼り切りだったわけだ!」


 ギネの言葉にダンは素直に返してしまった。

 ダンジョンはヴィルを欲していたという仮定、それがあったからこそ、手の内を晒す前に天使は先の戦いで被りモノを剥いでいたのだ。だが、同時に今となっては……変化していく体へ意識を向けるので精一杯である。


「来るぞ」

「では、ルチアさん……そしてアリア」

「はぁ、本当に不服よ」

「もう準備は出来ているから」


 姿を表した青年……その体に業火が襲った。

次回は明日の9時の予定です。

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