4話
「さて、ここら辺で休憩だ」
「はぁ……本当に二人はすごいね」
「お前が言うな」
二時間は戦闘を繰り返しただろうか。
その中で倒した魔物の数は知れない。最低でも群れの中にいた派兵のDランク、大半はAランクが普通だった。魔物に与えられたランクは少しばかり冒険者のランクとは異なる。端的に言えばランクに見合った冒険者パーティで対等に戦えると判断されるのだ。
この冒険者パーティという定義は曖昧だった。
ギルド開設当初としては前衛、遊撃を担える中衛、後衛の三種類をランクに合うだけの技術を持つ者と定めたつもりだった。だが、今の冒険者ランク大きく違う。多くは一人のワンマンへと変化してしまっていた。
「俺の特化は前線だ。ギネは自身を含めた他の面々を遊撃として支援を行う事。対して今回のヴィルはそれを見て何をしていた」
「……後衛での全体攻撃魔法。それと攻撃を確実にするための結界の付与くらいだよ。でも、その程度の芸当はSランク冒険者なら」
「誰もが本気で自身の役職に向かうものだ。普通は余裕を持って戦況を見るなんて不可能だからな」
本来、後衛を担うべきなのはギネだった。
だが、頑なに彼は後衛を拒んだ。自分の事なら自分が一番、よく分かっている。確かに後衛を担える条件としての支援魔法は得意分野だった。それに加えて魔法に対しても知見がある。とはいえ、重要な役割を担うためには欠落してはいけない部分が抜けていた。
それは血気盛んな前衛としての意識がある事だ。
故に数キロ先であっても味方への支援を行い、敵の意識を後衛から逸らす中衛のプロフェッショナルとして剣を振るい続けてきた。そんな彼ですらも素直に褒めてしまったのはヴィルの才能故だろう。弟子だから、忘れ形見だから等といった理由ではなかった。
「おい、んな話は後回しだ。善し悪しなんて場面で変わるもんだ。どうせ、今日の良かった事なんて、明日になれば正しいと言えるか分からなくなるんだ」
「確かに……話し合うべきは互いに何が出来る事の方が余っ程、実りがあるね。さっきから独断で突っ込むダンさんが言う事を聞いてくれたらすごく楽なんだけどなぁ」
「ヴィルに言われるなんて相当だな。まぁ、日頃の行いのせいだから仕方ないか。独断専行のダンだったか?」
「違ぇよ! それは冒険者になりたての話だ!」
前線を完璧に熟す、絶対的な壁。
単独で突っ込んでしまうのがヴィルにとっては面倒この上なかったが、一度たりとも彼の眼前まで魔物が来る事はなかった。大半が半分に両断され、耐えるものがいたとしても集団相手に意識を奪い続けていたのだ。いいや、それを成し遂げられていたのは庇い切れない攻撃を流していたギネの存在も大きいだろう。
「噂には聞いていたぞ。確かSランク冒険者になったんだったか」
「……一応、ね」
「俺達が教えたってのに下級で留まる訳がねぇだろ。どうせ、前衛と後衛のどちらでも満点を取ったに決まっている」
ダンの言葉にヴィルは頬を赤らめて首肯した。
冒険者試験は二種類に分かれている。一つ目が多くの者達が志願する前衛職で固められた前衛試験、二つ目が粒揃いが揃う後衛職で固められた後衛試験だ。ヴィルの場合は剣士として前衛試験を、魔法使いとして後衛試験を達成している。
それだけなら他の人でも出来たかもしれない。いいや、現に達成した二人が目の前にいるのだ。剣も魔法も、他の得物すら扱えるからこそ、ヴィルも何不自由なく学ぶ事が出来た。だが、問題はそこではない。
ヴィルの異質な点は両者で満点であった事。
筆記だけならば多少の知識を持っていれば達成する事は容易だった。だが、戦闘試験においては事そうもいかない。何故なら戦闘試験で満点を取るためには試験官を倒さなくてはいけないのだ。ヴィルの時であればBランクの冒険者が相手をしていた。
「どうだった。強かったか」
「強いよ……二人を知っていたからどうにか出来ただけ。それに手を抜いて勝てる相手では無かったから」
「いい事じゃねぇか。相手を見縊らない、そんな当たり前を忘れた奴らから死んでいくからな。その点で言えば慢心が無いだけマシだったって事だ」
その言葉にヴィルは俯いてしまった。
まるで見ていたかのような的確な指摘、少なくとも幼いヴィルに負ける訳にはいかないと冷静さを失った事が敗北した理由だったのだ。剣相手には剣の技術で、魔法相手には魔法の技術のみで勝利を得た。だからこそ、最初からCランクという高い称号を与えられたのだ。
「……学べたか。なら、良かった」
「はい……僕一人で出来る事には限界があったよ。昇格戦では確かに勝てたけど……連携した人達を倒すのは苦労したから」
ギルドランクを上げるための必須条件。
ランク昇格戦では三つの試験があった。一つ目に知能試験、これは読んで字の如く知識を測る試験である。二つ目に技能試験、これは一対一で試験官と戦って技能を測る試験だ。そして最後にヴィルが一番苦労した模擬試験がある。
魔道具によってステータスを均等にした上で昇格戦参加パーティ毎に戦う試験であり、上位一割以外は不合格となるものでもある。それを一人で成し遂げたのだ。だが、明確な限界はヒシヒシと肌で感じていた。
「……お前、まだ旅を続ける気はあるか」
「ない……とは言えないかな」
「なら、今は休むぞ。また教えてやりてぇからな」
その言葉が今はただヴィルには嬉しかった。
越えられない高い壁、少しは手が届いているかもしれないと小さな慢心があったのだ。だが、共に戦った事で甘い考えも消え去った。まだまだ改善の余地がある。名刺程度の大きさの銀色の板、ステータスプレートを取り出し魔力を流す。そこに映し出されたレベルも激しい戦闘からか、一だけ上がっていた。
「お、二百を超えたのか。そろそろだな」
「……はは、今は出来ないけどね。どうせ、教会は貴族の言葉に逆らえないだろうから」
「いんや、そこはツテがあるから安心しろ」
そう言ってギネは小さな小袋を取り出した。
中から三本の薄く細長い茶色の何かを取り出して一本ずつ、二人へ渡す。その先端を口の中に放って軽く噛んでみせた。携行食、塩分と水分を染み込ませた栄養摂取のためのものである。久し振りの味にヴィルは笑みを見せた。
「んで、隠れて聞いている奴はなんだ」
「何を言って……」
「気が付いていなかったのか。まぁ、いいが」
ダンの言葉と共に強い威圧が一箇所へ飛んだ。
一目見て分かる威圧、だが、殺す気が無い事くらいヴィルには分かっていた。それでも軽い怒りを覚えているのは分かる。ギネも動かない時点で何かあっても助ける気はないのだ。それを察してか、草木を掻き分け一人の少女が現れる。
「シャロ……」
「うん……ヴィル、久し振り」
黒い忍装束に身を包んだ存在、シャロ。
見えているのは小さく空いた穴から覗く目元程度だったが、不可思議な格好からヴィルには一瞬で分かった。サッとフードを取ると肩まで伸びた白髪が風に揺らめく。眉毛もまつ毛すらも白く、美しく整った顔立ちの影響もあってか、幻想的な雰囲気を纏っていた。
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