3話
理由は分かりませんが……ここまで読んで頂けるとは思っていませんでした。ありがとうございます。
「午後はどうするさね」
「俺達は狩りだな。ヴィルは」
「一緒に行くよ。二人の腕前も見たいし」
たらふくと食事を終えて少ししての事。
昼食から空いた時間と言えば歯を磨く程度しか経ってはいなかった。だが、慣れていると言いたげにダンとギネは既に装備を整えている。ダンは黒い鎧と腰には彼の肩辺り、百七十センチ程の片手剣を差していた。対してギネは漆黒のローブを羽織っており腰には平均サイズの片手剣が、背中には二メートルと少しはある杖が差されている。
狩り、その名は村の中での隠語だった。
本当の意味合いで表すならば……間引き。食料のためではなく村を襲われないために魔物倒すという行為でしか無かった。王都では見慣れた光景だっただろう。だが、戻ってきた今だからこそ、ヴィルにはハッキリとした違いが感じられた。それは現れる魔物の強さの差、だ。
「いいぞ。足引っ張んじゃねぇぞ」
「もう守られる立場じゃないよな」
「ああ、今度は僕が二人を置いていくよ」
軽く指を弾いたかと思うとヴィルの服が変わる。
純白の鎧と兜、その腰には同様に白く彩られた剣が差さっていた。何も分からない者達からすれば笑えるような格好なのかもしれない。騎士になれなかったにも関わらず近しい姿を取っている。だが、ダンとギネ、ジーナは静かにその姿を見詰めていた。
「……おかしい、よね」
「違ぇよ……ヴォルを見た気分だっただけだ」
「ああ、懐かしい気持ちになったな」
その名を聞いてヴィルの胸が締め付けられる。
ヴォル、それはヴィルの父親であり、騎士の中での最上位の地位である聖騎士へと至った存在でもあった。その実力は折り紙付きであり、今の格好も父を真似て作らせたものでしかない。……いいや、本気を出す覚悟を持っていると言った方が正しいのだろう。
「どこをやりてぇ。任せるぞ」
「ダンさんは前衛、ギネさんは遊撃……それなら僕は後方が合っているよ。だって、それが父さんの役割だったから」
「……聞きたいのはヴィルの意見だったが、まぁ、折り合わせはやってみてからだ。やっていないのに配置なんて考えるだけ無駄だからな」
ヴィルは父と二人の関係性をよく知っていた。
悪友、そう聞けば生易しく感じる程の友情があったのだ。ダンが死にかけた時にはヴォルとギネが助けに入り、ギネが貴族に襲われた時にはヴォルが自身の名を使ってダンが兵士を薙ぎ倒してみせた。そしてヴォルが危機に陥った時には───
「ッ……悪ぃな、疼いちまった」
「俺も似たようなものだ。……ヴィルのおかげだろうな」
戦士としての矜恃、あの時についた古傷。
ヴォルが死んだ時から今まで出来ていた事すら忘れていたものだった。だからこそ、二人は柄に強く力を込める。あの時に果たせなかった事、二度と引き起こさせないと誓った最低最悪な景色を忘れかけていたのだ。そう、握った感触で二人は強く実感した……自分達は甘んじていたのだ、と。
「今回の案内役は俺、探知役はギネ……ヴィルには指示を任せる。個々で判断する事はあるだろうが大きな事に関しては任せるぞ」
遠回しに命を任せると言っているのだ。
一介の冒険者ではない、絶対的な実力を持つ経験豊富な高ランク冒険者がヴィルに命を任せたいと口にしている。チラと見たギネも首を縦に振る時点で逃げ場等はありはしない。だからこそ、それだけの信頼に応えなければいけないのだ。縦に振った首は力強く二人は安堵した。
「……と、これで二人に届いたはずだ」
「これが念話と探知……本当に次元が違うよ」
「人には向き不向きがあるだけだ。俺は剣よりも杖に才があり、ダンには杖よりも剣に才があっただけでしかない。そして……」
そこから先の言葉は続けられはしなかった。
今は亡き、それでいて自分達が見捨ててしまった本物の天才がいたのだ。そして、その忘れ形見が目の前にいる。想定していた以上の力を得て戻ってきたのだ。教えられる事は教えられたが……足りない部分を補ったのは皮肉にも親友を失った時と同じ理不尽からだった。
「行こう。辛気臭いのはコリゴリだよ」
「ああ! そうだな!」
「ダン、少しは加減しろよ」
「安心しろ。疲れる程は飛ばさねぇ」
そう口にした瞬間にダンは目の前から姿を消す。
魔力の残滓なんてものは無い。只管に彼の身体能力で狩場となる場所へと走り出してしまったのだ。確かにヴィルとギネならば追い付ける程度だろう。それでも二人から大きな溜め息が漏れてしまうのは仕方の無い事だ。
「帰ってきたら愛してやるから安心しな」
「優しくしてくださいよ。じゃあ、行ってきます」
「では」
狩りを終えてからのダンを想像して二人は笑ってしまった。それでも大切な存在でもある。ジーナに愛され過ぎて乾涸びるダンを見ないためにも最高の成果を持って来なければいけない。だから、ヴィルはその両足に風魔法を付与した。
「お兄ちゃん! 怪我しない魔法だよ!」
「任せてくれ。良い結果を持ってくるよ」
ヒナの作り出した、いつものハートマーク。
それを見てヴィルは静かに胸に手を当てた。幼い彼女は忘れてしまっただろう約束が、誰かを幸福にしたいと思いながらも死ぬ訳にはいかないと、彼が強くなる理由を与え続けたのだ。今ですらヴィルの胸はマグマを流されたかのように熱くなっていた。
「お、速ぇじゃねぇか!」
「むしろ、得意分野で負けていたらどうするんだ」
「違ぇねぇ! すばしっこさが取り柄だからな!」
速度を落としているとはいえ、かなりのものだ。
程度で言えば、本気で強化をかけたヴィルが隣を走るので精一杯と言っていい。戦闘のような短時間での速度勝利はあろうとも、長期的に走るとなれば下手に魔力を割く事は出来る訳もない。とはいえ、ヴィルには違う意味で汗が流れていた。
魔力強化込みの速度を筋肉のみで行っている。
それが出来ればどれだけの冒険者が前衛を張れるというのだろうか。出来ないからこそ、SSランクの中でも二つ名を与えられる存在なのだろう。むしろ、目指すべき高い壁は未だに高いままでいたのだ。それがヴィルには悲しいながらも心の底から嬉しかった。
「止まれ。群れとぶつかるぞ」
頭へと流れた声、それを合図に二人は止まった。
同時に現れたのは四体の体躯三メートルは優に超える鬼の顔をした魔物、オーガジェネラルがそこにはいたのだ。単体だけでもBランク冒険者パーティで倒せるかどうかの存在、それらが四体ともなればSランク冒険者パーティが必要となる。
「強化はかけた」
「あざす……ッ!」
瞬時の驚く程の身体的な能力の向上。
ヴィルが行える強化では一振で両断等、不可能な話だ。だが、二十メートルは離れた場所から的確にヴィルへ強化魔法をかけ、その練度も絶大な力を示してみせたのだ。ここまでの芸当を誰が出来るというのだろうか。だから、ダンもギネも揃って単独でSSランクまで到達出来た化け物でもあった。
だが、そんな事実に負けられる訳も無い。
夢があるのだ、未だに残った覆せない夢が温かみを与えられた両の手の中に残っている。だからこそ、決める手は既に決めていた。幼い時に見て憧れた父の絶対的な剣技、ダンとギネの力を合わせたような剣と魔法の複合技だ。
「燃え尽きろ、炎雷斬」
一振、それに掠ったものは燃え尽き消える。
ただ、それだけ……だが、今の技を真似られるようになったのは半年前の事だ。そこまでどれだけの鍛錬を詰んだだろうか。全ての属性を扱えるようになってから特に炎と雷に注視して三年は経っていた。その成果がようやく現れたのだ。
「これで……背中は任せられるかな」
「最初からだな!」
「じゃなきゃ、許さねぇよ!」
ヴィルは二人のサムズアップへ笑って返した。
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