46話
「やっぱり……その魔物、サジタリウスなんかじゃないよ。私達も戦った事はあるけど……そんな特殊な戦い方はしていなかったもん」
「ルチアの言う通りだな。俺達が戦ったサジタリウスもダンジョンボスだったが、第二第三と形態を変えた記憶がない。ましてや、部屋全体を埋め尽くすだけの矢なんて……」
破邪の雷龍は揃って大きなハテナを浮かべた。
戦った事があるからこそ、分かってしまう名前に見合わない力……確かにSSランクという上から二番目に位置してはいるだろう。だが、同時に、特にダンとギネの強さを知っているのだ。その二人がいても尚、一撃で沈められなかった敵、それが只管に話を眉唾ものへと変化させてしまう。
「破邪の雷龍は今の話を信じられますか」
「信じない、なんて、言うと思うか。お前は兎も角として、俺達はヴィルの要請だから来たんだぞ。当の本人がいないという現状が事実だと言っているようなものだ」
「それに……貴方は抜きにしても、シャロとアリアの事は信用しているから。二人が否定しないって事は本当なのでしょう」
ノーグを睨みながらフウゴとステラは口にした。
その様子を見て歯牙にもかけず、かといって、無視する訳も無いままに軽く視線を向けて、パンを一欠片だけ口にする。知ってはいた事ではあったが彼等の持つ強いマイナスな感情は、彼にとっても面倒でしかないものであった。
自身の話した内容自体は信用している。
裏を返せば、その上での話をしたところで聞いてくれるかは分かりはしないのだ。戦力として加わるであろう五名……確かに喉から手が出る程に欲しいものではある。だが、船頭多くして船山に上る、その言葉通りに作戦を聞いてくれなければ邪魔にしかならないのだ。
「ええ、なので、踏み込んだ話をしたいと思います。隠して問題が起こる方が面倒この上ありませんから」
嘲笑、尊敬と嫌悪の感情の境目にあるものだ。
理解はしている、それでも目の前の者達の言動を納得している訳ではない。当然の事ながら、信用していないと遠回しに伝えている破邪の雷龍の四名も同じである。似ているからこそ、自身の土俵へ引き込むために素直な考えを口にした。
「私は、いいえ、僕はヴィルを連れて行った魔物はサジタリウスとは別の……それこそ、ダンジョン自身だと思っています。そうですね、通称として【天使】とでも名付けておきますか」
「天使……確かに大層な名前に見合うだけの強さだったな。にしても、ダンジョン自身、か」
「はい、そう考えた方が納得出来る事が多いですからね」
「ばっかばかしい! そんな話が!」
ルチアの声、同時に強い威圧が飛んだ。
SSSランクである彼女ですらも額に汗を流してしまうようなものである。同時に彼女は大きな後悔の念を抱いた。威圧を飛ばしていたのは他でもないダンやギネ、そしてジーナとディーラであったのだ。黙って話を聞け、そんな言外の行動に破邪の雷龍は揃って口を閉ざした。
「そもそもの話として、僕はエルザスがヴィルを招き入れるために現れたと思っています。ただ、それならば彼が生まれた段階で発生していてもおかしくはないはず……そこで考えたのが」
「本当はヴォルが村に来た時から発生していた」
ダンの言葉にノーグは笑って首を縦に振った。
不思議と感じていた不自然さ……加えて言えば、シャロから聞いていた調査区間は何もエルザスだけでは無かったのだ。だというのに、今は依頼の対象となった強い魔素は源流である、エルザスの最奥からしか流れ出てきてはいない。ヴィルを狙ったという考えはダンからしても妙に合点が行く話だった。
「仮に、そうだとして……お前はどういう考えからヴォルが理由だと結論付けたんだ」
「偶然にしては出来すぎている、その前提で考えた場合、今回の件は多くの事が説明出来てしまうんです。少なくとも、ヴィルの有無で天使が出現するかどうかに違いがある時点で、そしてアイツだけを連れて行った時点で関係無いと片付けられる訳がありません」
前提、その要素がノーグには重要だった。
同時にダンを含めた全員が静かに首を縦に振る。知らぬ人が聞けば突飛な考えだと笑われるかもしれない……だが、いざこざを抜きにしたとしても否定出来るだけの理由は誰も持ち合わせてはいなかった。
「ヴィルの御父様が来た時から通常のダンジョンのように魔素を構築していき、招き入れる用意が出来たのが丁度、ヴィルが戻ってきた時だった。いいえ、もしかしたら村にいない時は表に出ていなかった可能性もあります」
「有り得るな。そもそも、魔素の発生だってヴィルが王都を出た時くらいからだった。その時点で俺達がエルザスを観測したように、エルザスもヴィルが戻ってくる事を察知したなら」
「少なくとも、狩りの中で来た事はあったが、以前まではエルザスなんてものは無かったぞ。ノーグの言っている事はかなり、信用出来そうな話だ」
狩りを行っていたのは、ダンとギネである。
だからこそ、ノーグは余計に自分の考えに強い自信を持てた。能力も高く、知的好奇心も強い二人が周囲の探索を行わない訳が無いのだ。もちろん、それを踏まえた上で口にした算段はあった。ただ、二人の発言があったからこそ……ノーグは大きく深呼吸をした。
「ただの……憶測です。ヴィルが生まれた時に、という可能性もありますが、それならば何故、ヴィルの生まれた場所から離れたところで、姿を表したのかという疑問が湧いてきます。加えて言えば……ヴォルさんも似たような力を持っていた事は聞いていましたので」
「……ああ、そうだな。確かに考えれば考える程に二人に何かを伝えるために、残すために現れたとしか考えられない。ただ、それならば余計に攻略させようとしないのはおかしくないか。ヴィルはエルザスの下層にいるんだろ」
ダンの言葉にノーグは真っ直ぐな視線を向けた。
問われているのは覚悟である。無闇矢鱈と進む事を拒んだノーグ、彼に求められているのは明確な納得出来るだけの策なのだ。ヴォルは既に世を去っており、当のヴィルはダンジョンに幽閉されている今、同様に天使を出現させるための確実な作戦が必要となる。……それを出来るのは、この場で一人しかいなかった。
「それを知るために下層へ行きます。作戦内容は簡単です。───僕がヴィルになります」
ノーグは満面の笑みで返した。
次回は明日の9時の予定です。
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