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45話

「下に行く作戦……なんだ、それは」

「ええ、まずは説明から」


 ライガの疑問にノーグは真っ直ぐ視線を向ける。

 どのように伝えれば理解して貰えるだろうか、関わりがある分だけノーグにも分からない事があったのだ。優秀故に常識から外れた空間の事をどれだけ理解してくれるのか……逆の立場では到底、信じられないと思えたからこそ、見合わせたままで固まってしまった。


 そんな中で、一つの大きな虫の音が響く。

 音の主は少しばかり恥ずかしげに腹を押さえており、それを見てノーグからも微かな毒気が抜かれた。嘘を口にするつもりは無くとも、下手に口にする理由も無い。心の中でライアンに感謝をしながらノーグはジーナへ視線を向け直した。


「詳しい事は食事をしながらにしましょうか。幸いにも食料ならジーナさんが作ってくれたものがありますので問題ありません」

「え! それって携帯食じゃないって事!?」

「無礼……そういう時は、まずは御礼から、ありがとうございます」


 ドガと鈍い音と共に小さなクレーターが出来る。

 神殿には似合わないそれを作り出したのは他でも無いステラである。ピョンピョンと飛び跳ねながら喜ぶルチアの後頭部を掴んだかと思うと、顔面から叩き付ける姿は多くの者の苦笑を誘う。プシューと音を立てて、くの字となるルチアにノーグは小さく手を合わせた。


「お前も食う気満々かよ……まぁ、食事に預かれるなら喜ばしい事だけどな。ジーナさんの料理なんて憧れない奴の方がいないし」

「構いやしないさね!」

「やった! 干し肉卒業! 最高!」


 ジーナの返答に再度、ルチアは跳ね上がった。

 だが、その後頭部が掴まれ、同じ箇所に顔面から叩き付けられてしまう。小さなクレーターが一回りだけ大きくなり、揃ってダンとギネの背中をヒヤリとさせる。似たような過去、しれっと向けられている視線から静かに体を逸らした。その様子にジーナは溜め息を吐いて口を開く。


「ただ、全員で分けられる程の余裕は無いよ。だから、今から作るって事になるが大丈夫かい」

「構いません! 干し肉じゃないのなら!」

「干し肉は干し肉さね……ただ、アタシ特製の干し肉を使うんだから一緒にされては困るよ」


 ジーナの言葉にステラは笑顔で首肯した。

 それを見て空間魔法から大きな鍋を一つ取り出すと水球を作り出し、瞬時に弾けさせて鍋下に轟々と燃える炎を投げ込んだ。その中へ既に刻まれているネギや干し肉、キノコ類を放り込むと混ぜ始めた。それ以外に何かを入れる事もせずに掻き混ぜる様子を全員が眺める中、パンと一つ大きく音を立ててノーグが注意を集める。


「煮込んでいる間、ただ待つのは暇でしょう。今のうちに色々と話しておいた方が……時間の短縮にもなると思いますし」

「俺は構わないが、やるなら簡潔に頼む」

「……俺達も構わないぞ」


 ライガの視線に他の三人は首を縦に振った。

 その様子を見ていたノーグは鍋の近くに腰を下ろすと視線をシャロとアリアに向ける。それに気が付き、近くを座ると呼応するかのように鍋を囲むように全員が腰を下ろす。目視してすぐにノーグは笑って口を開いた。


「まずは状況の説明からですね」


 そこから話した事は今までの経緯であった。

 ライアンから出された依頼、魔素の源流が神殿エルザスという場所である事。ダンやギネを含んだ白の角蛇で攻略を進めはしたものの、その難易度が他のダンジョンとは比べ物にならない事。そして一回目の攻略の中でヴィルが最下層に閉じ込められたという事だ。


「すると、なんだ……ヴィルは生きているのか」

「ええ、生きています。それにダンジョンの中にいる事も分かっています。この魔道具は私達が生きている事を、繋がっている事を表すためのものですから」


 ノーグは右腕を上げて見せて笑う。

 同時にライガへと睨んだような視線を向けてから即座にライアンへと向け直す。牽制、知っているという事を伝えるための動作ではあったが、ライガも強く頭を搔くだけで何かを口にする事は無かった。


「問題は……ここからです」


 表情を戻したノーグは続きを口にする。

 ヴィルの代わりにジーナとディーラが参加する形で攻略を行った事。そして損耗の少ない中で、万全な状態のまま戦ったサジタリウス戦後……入口付近まで飛ばされた事を淡々と話す。小さく口元を歪ませながらも事実をもとに、考えを誤らないように彼は纏めたのだ。


 そんな彼の前に二つの皿が出された。

 片方の丸皿には炊きたてかのように湯気の立つコッペパンが二つあり、もう片方には出来上がったばかりのスープが深皿の中に注がれている。ジーナなりの優しさ、それに気が付いてノーグも一口だけスープを喉に流し込んだ。それを見て他の面々も口にする。


「お、美味しい!」

「これがジーナさんの料理……!」

「おう! 好きに食うさね!」


 調味料を使わずとも、感じる塩味と旨味。

 片方は干し肉に染み込んだ塩と肉の中にある油が溶け出したものである。旨味はジーナ自身が採取したキノコから取れるもの……そのような当たり前の味がただ只管にノーグの心を潤す。空から降り注ぐ陽の光を一度だけ睨んで、皆へ笑顔を向け直した。


「進むのは簡単です。ただ、問題なのは」

「話からして……サジタリウスか」

「ええ……ただのサジタリウスなら恐らくは僕とアリア、それにシャロが居れば問題ありません。ですが、アイツは違います」


 そう、ノーグの恐怖の根源はそこであった。

 だからこそ、一度目の戦闘を振り返りながら皆に伝え直す。二度目の敵こそが本物のサジタリウスであると強調しながら、それとは別格の強さである事を只管に伝え続けた。

次回は明日の9時の予定です。

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