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44話☆

 信じたくない事実、全員の唾を飲む音が響く。

 轟々と吹き荒れる風、嫌という程に強い朝陽が彼等を照らす。何度も瞬きを行う、何度も深呼吸を行う、流れてくる汗が目にかかる度に腕で拭い去った。だが、それでも世界は景色を変えようとはしない。


「振り出し……ですか」


 ノーグの言葉、事実が顕著に彼等に伸し掛る。

 勝利……明確な油断等の無い攻略であった。それでも何かが前回とは違っていたのだ。……いいや、その違いは誰もが嫌という程に理解している事である。ただ、それが事実であれば救える手立てが無くなるからと考えないようにしていた仮説だった。


 ダンジョンはヴィル以外を必要としていない。

 エルザスと答える事の出来た子供、過去に同じ事をした時も何かしらの異変があった時ばかりであった。何かに愛された不憫な少年、救いたいという思いが募る中で裏腹に事実だけが彼等を照らしてしまう。


 救いたい、助けたい……だが、不可能である。

 では、どうすれば燃え続ける焔を消せるのだろうか。消せないのだ。足を踏み入れようと体が勝手に動いてしまう。所詮、同じような結果を招いてしまうと分かっていながらも、同じように攻略出来るのかも分からない中で体だけが頭を置き去りにしようとする。


「待ってください」

「ああ!?」


 ノーグの制止の声、途端に強い威圧が飛んだ。

 本気のダンの威圧である。確かにピシリと周囲の世界が軋む程のそれを前に、ノーグも一瞬だけ表情を歪めたが前髪を掻き上げて威圧で返した。向かって来るのなら戦う覚悟すら出来ている。そんな事は周囲の誰もが理解していたが、その光景を一瞥するのみで、脳内にあるのは止める事よりもダンジョンへ戻る事しか無かった。






「はい、止まれ」

「ノーグもだな。仲間割れは意味無いぞ」


 ダンの首元に迫った刃、背後に一人の男がいた。

 右腕に龍の鱗を模した篭手を着けたダンよりも少しだけ大きな存在である。それでも臨戦態勢の中で背後に迫れた実力にダンの額から一つの汗が流れ落ちた。未知数な実力を持つ存在、その顔を見て静かに溜め息を吐いて頭を強く搔く。


「さすがはSSSランク冒険者だな……ライガ」

「ダンさんに褒められるなんて光栄だね」

「皮肉だ。アホタレ」


 ダンの顔を見てライガは静かに剣を下ろした。

 同時に剣を下ろすノーグを見て、その前を通せん坊していた男、ライアンも大きく溜め息を吐いてみせる。どちらも最上位に位置する実力を持つ冒険者なのだ。ぶつかりあった時に何が起こるのか等、目に見えて分かる事である。


「そっちも少しは冷静になったか。失敗した作戦に同じ人材を当てるのは禁止だと強く言っていたはずだけどな」

「んー、まぁ、仕方ないんじゃない。ヴィル、いないからアイツ関連なんでしょ」


 ライアンの言葉に杖に乗った少女が答える。

 百五十センチ程度の身長に、細長い耳を隠そうともしていない、肩にかからない程度の緑色のショートヘアーは陽の光を綺麗に吸い込んでいた。フヨフヨと漂いながらボヤァーと眺めている先には腰を付いている面々である。


「ルチア、それは少しだけ言い過ぎだな」

「フウゴは逆に考えなさ過ぎ」


 フウゴ、ライガと似た顔と背丈の男である。

 耳にかからない程の長さの髪であり、違いという違いは前髪の流す方向と色程度だ。ライガは右側に流している金髪で、フウゴは左側に流している黒髪である。同時に龍の鱗を模した篭手を彼は左腕に付けていた。


「はぁ……だとしても、アレはやり過ぎだろ」

「失敬失敬。でもさぁ、シャロちゃんとアリアちゃんがいる時点で止まらなかったでしょ。戦うくらいなら無力化した方が楽だし、それにウチにはステラちゃんがいるから問題は無い!」

「本当に他人任せな奴だな……」


 フウゴは溜め息を吐いて視線をステラに向ける。

 白い神官服を着た百六十センチ程度の少女、その子が膝を曲げて上半身をグデンとさせているシャロに近付いていた。小さな錫杖、長い銀髪がチラと見えており、その細い目は確かにシャロの事をジッと見詰めている。


「……大丈夫そう?」

「ん……少し良くなった。ありがと」

「そ……悪いのはルチアだから気にしないで。後で強く言っておくから。でも……感心はしていないからね」


 ステラの言葉にシャロは頬を軽く搔いた。

 否定はしない、気持ちに関しては彼女にも分かるからである。それでも無謀な選択である事は誰が見ても明らかであった。高ランク冒険者でありながら冷静さを欠き、冒険者としての指針すらも無視をする行為は厳罰を与えられてもおかしくないものだ。


 とはいえ、その場にいる誰もが安心した。

 冷静さを取り戻したからというのもあるかもしれない。だが、ライガとフウゴのそれ、ルチアの右足、ステラの左足の龍の鱗は確かに王国を消滅の危機にまで陥れた化け物の素材である。人は彼等をSSSランク冒険者パーティー、破邪の雷龍と呼んでいた。


「随分と遅かったですね」

「来て早々に言う事がそれか。仕方無いだろ、理由無くSSSランク冒険者パーティを動かすなんて不可能に近い。今回だってヴィルの救援に対して人材不足からギルドマスターが赴き、その護衛を担ったって名目を作ったんだからな」

「その割には……笑っていますね」


 ノーグの言葉にライアンは口元を手で隠した。

 図星、ヴィルの救援要請など一度たりとも無いような不測の事態である。そのためには下手な高ランク冒険者では足手まといになる、そんな判断をしたのは間違いの無い事だった。だが、主となるのはそこでは無い。ただただ、ライアンの中にあったのはヴィル達ですらも手を焼く敵との戦いを楽しみにしていたのだ。


「ダンさん……これなら先程の話の続きを、胸を張って言えます。本当はすぐに口にするべき事でした。ですが、全滅する可能性を考えると恐ろしくて」

「御託はいい。今回は……俺が冷静さを欠いたのが問題だ。それにようやく目を見て分かったからな」

「ええ……下に行く作戦、考え付きました」


 ノーグの笑顔を陽の光が只管に照らした。

次回は明日の9時の予定です。

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