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42話

「本当に……攻略が早いさね」

「ええ、ダンさんやギネさんがいたので」

「ふぅん、それならそういう事にしておくよ」


 ジーナが驚くのも仕方の無い事だろう。

 二から四階層、前回ならヴィルによって殆どショートカットしたそれらを、今回も同じように省いて見せたのだ。いいや、周囲に見える光景からして一つだけ違う事があるとすれば……二階層から五階層の半分までと言ったところだろうか。


 周囲に広がる光景に全員が表情を歪める。

 一度来た者達は前回の壮絶さを思い出し、初めて来た姉妹は伝説程度にしか聞いた事の無い木々が広がっているのだ。フワリフワリと浮く砂の足場が無ければ安心して眺める事も出来なかっただろう。だが、確かに全員が覚悟を定めるには十分であった。


 ノーグが取った手段は効率的なものであった。

 ディーラの口にした中心に何かがある、それを聞いたノーグは一つの仮説を立てた。それは……ダンジョンの階層は柱の横に広げられた空間ではないかというものである。ダンジョンが作り出されるためには核となるコアがあるのだ。では、そのコアにある力をどのようにして全体に効率よく注いでいるのか……簡単な事であった。


 石、それも見た事のない何かがあったのだ。

 魔塞石には魔素を吸い込む力すら持ち合わせていた。魔物の生成に対して、その力は攻略者を助ける事となってしまうだろう。そんな予測からダンに頼んだ事は材質の違う場所への錬金術の行使であった。試し……だが、結果としてその小さな石の束を今は足場として、それでいて周囲に展開出来る程に操ってみせていた。


「ここが……五階層、かい」

「気にしなくていいですよ。ここの攻略も既に検討がつきますから。ですよね、ギネさん」

「はぁ……まぁ、任せてくれや」


 そう口にして二十数個の小さな玉を地面へ撒く。

 隠していた訳では無いが、出鼻を挫かれたギネからすれば少しばかり嫌な思いをさせるものであった。とはいえ、それはギネの心を暖かくさせるものでもある。似たように見透かして口にする少年を知っているのだ。


「人形玉、衝撃を与えた瞬間に人と同じ気配を発して逃げ回る魔道具だ。これで魔物の意識はそっちに向くはずだが」

「問題ありませんよ……僕の魔力なら使ったところで作戦に支障はありませんから」


 足場に手を付けるとノーグの体が微かに輝く。

 共鳴、それによって行ったのは魔工技師の持つ付与術の行使と、足場へ【隠蔽】と【透過】の二つを付与する行為であった。同時に作戦を聞いていたダンは周囲の砂を足場周辺に展開して扉まで速度を出す。


 前回の攻略であれば確実に取れなかった手だ。

 シャロの持つ少ない情報から五階層の緑部屋まで連れて行ったヴィル、それでも彼の持つ知識というのは教えていた者達よりは一段階だけ落ちてしまう。錬金術ならばダンが、魔力操作ならばギネが、体の動かし方ならばジーナが……そして、素材に関してならばディーラの方が上である。


 ましてや、僥倖だったのは敵の少なさだ。

 居ない訳では無い、が、前回で出会う事の無かった空を飛ぶ魔物達は鳴りを潜めている。地にいる魔物はギネの魔道具によって四方に散らばっている今の状況を逃す手はある訳が無かった。それが分かるからこそ、ダンも砂の速度を上げて扉へと向かう。


「はぁ……何とか、着いたな」


 ダンの言葉に全員が静かに首を縦に振った。

 前回と同様で大きく禍々しさすら感じられる門である。だが、違うのは一度は攻略したために閉じている事だ。……いいや、他にも違う部分があるだろう。それはダンとシャロ以外の全員の表情が良くない事だ。


「あー……悪ぃ、速度を出し過ぎたか」

「い、いえ……むしろ、早く休めて幸運です」


 ノーグの顔を見てダンは振り向いて扉を開けた。

 その内部は前回の攻略の時と少しも変わっていない。薄暗い空間の中心には前回の攻略で立てた焚き火の燃え跡が残っていた。冒険者の心得の一つである事だ。後続の冒険者が安全と分かるように残すべきもの……だが、結果として助けたのは自分達自身であった。


「どうやら、天国に来れたみたいだな」

「なら、私は地獄でしょうか」

「……はぁ、物の例えだ。馬鹿弟子が」


 ノーグの軽口に対してダンは微笑んだ。

 前回の攻略時のヴィルの言葉、それをそっくり真似したのは荒ぶり始めた気持ちを和らげるためであった。確かに中に入った瞬間にダンの顔付きが変わってしまったのだ。伸ばせば届いたかもしれない、何か打つ手があったのかもしれない……それなのに今は近くにいない。


「ほれ、起こしてやった。さっさと休むぞ」


 ギネの声が緑部屋の中で響いた。

 起こされた焚き火の横では既にギネとディーラが座っており暖を取っている。分かっていた……今のダンは異様な程に焦っている、と。それを止めるための行為、加えて言えばギネからしても作戦すら立てられていない今の状態では、サジタリウスと戦うなど馬鹿げた行為であった。


「はぁー、疲れたさね。さっさと飯の時間にするよ。お腹がペコペコで痩せてしまいそうさ」

「それ以上、痩せてしまうと死にますよ」

「おや、良い事を言うねぇ。でも、残念ながら死ぬ前に自慢の筋肉が消えそうだよ。そんなものはゴメンさね」


 ギネの意思を汲んでのジーナの言葉。

 同時に放たれたのは威圧であった。ダンを引き戻すための優しさは確かに彼の表情を和らげる。同時に少しばかり甘えるかのようにダンは隣に座ると、ジーナの肩に腕を回して抱き寄せた。固いだけではない女性特有の柔らかさが左手に馴染むのと同時にダンは小さく微笑む。


 皆の目的や願いは共通しているのは明確だ。

 だが、ダンからすれば他にも守らなければいけない存在がいるのも確かである。第一に守りたい存在、それはヴィルを含めた家族であった。誰よりも愛している女性、そんな存在が隣にいる今の段階で身勝手に生きる訳にはいかない。それは肩を貸して愛しい女性を寝かせているギネも同様である。


「腹減ったわ。マジで美味いもんを食わせてくれ」

「あいよ。……任せな」


 ダンの横顔を見てジーナの頬が少し赤らむ。

 静かな宴の時間が始まった。

次回は明日の9時の予定です。

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