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41話

 ノーグの声、同時に全員に声が伝わる。

 念話、口にせずとも感情が伝わるスキルの一つであった。彼にとっては持ち合わせていなかったものである。だが、持っているアリアの力を借りている内に確かに手にした力でもあった。そんな声が怒号のように彼等へと指示を飛ばしたのだ。


 それを全員が一度は体験した事があった。

 ヴィル、幼くも才能に溢れた彼から学んだ事は少なく無かったのだ。ダンやギネは彼の指示に従ったからこそ生き長らえ、ジーナとディーラはその指示によって敗北した。白の角蛇の名前の由来こそ、彼の指示あってのものだろう。


 だから、最初にシャロが前線へと飛び出る。

 分身等ではなく本体による突撃、本来であれば危険極まりない行為だろう。それでも確かに二体の意識は彼女へと釘付けとなった。当時に放たれた苦無の雨は、身を持って受けるにはダメージが大き過ぎる。それ故に先程と同じく光の結界によって阻もうとした……が、無意味であった。


「ヴルゥ……ッ!」

「グルルゥッ……!」


 即座、とは行かずとも苦無は徐々に貫いていた。

 咄嗟に躱したのと同時に二体のいた位置に威力の劣らぬ雨が降り注いだ。自分達を狙った矢、そう考えての回避ではあった。だが、問題は当の本人の熟練度である。一般的なスキルである【投擲】、それを最大レベルまで極めた力は……物理法則すらも無視した。


 地面に当たるスレスレ、シャロの右手が開く。

 グワと四方に展開した二十本のそれは四方に百ずつへ分身して向かっていった。どの方向にも敵はおり、当たるのと同時に煙へと変える。同様に五十本ずつが手足のように二体のウルフへと迫るが流石に受ける訳もない。


 グワと振り上げた腕、弾いては地面に刺した。

 だが、同時に向かってきたのは四十にも及ぶ光線の数々である。分かっていた事ではあった。シャロの一撃でブラックウルフが全滅した手前、その魔素を行使した魔法が放たれてもおかしくはない、と。


 ただ、問題だったのは火力と特性である。

 魔法由来の攻撃に魔力を宿した攻撃以外では弾けぬ効果、それと同時に理解するために燃えたダークウルフの右前足は、彼等にとっても必要不可欠な犠牲であったのだろう。少なくとも最大火力を防ぎ切った今となっては……ライトウルフの雄叫びで治したそれにも釣りが来る。


「おいおい、随分と余裕そうだな!」


 瞬時に二体を囲んだのは鉄の処女であった。

 ノーグの一撃、その本懐は火力では無い。撃ち込んだ中に紛れ込んだ地面への一撃、それらが巻き上げた土煙はダンの攻撃を確実に当てる手段となった。徐々に閉まっていく扉、逃げられる余裕は無く閉じ込められてしまう。とはいえ、問題だったのは光魔法と闇魔法に長けた二体の魔物であった事だ。




 光魔法、それは神の叡智と呼ばれる神秘である。

 闇魔法、それは神の邪心と呼ばれる悪心である。


 どちらも神に関わる力、それ故に不徳だった。

 光魔法は白魔法程の神への忠愛が足りず、闇魔法は黒魔法と並んで神への愛はあれども悪意があるとされているのだ。とはいえ、それらは単純な使用者の力を極端に高め、剰え今のような躱せぬ攻撃を光や闇へと身体を変化させて耐えてしまう。


 普通ならば、それだけで絶望するような話だ。

 ただ、結果を見てノーグはただ笑った。


「チェックメイトと言ったはずだよ」


 既に詰めていたジーナとノーグの二人。

 外へ出るまでの間に与えた猶予は、アリアが歌い始める時間を作り出し、同時にギネが補助で四肢を押さえ込む氷の槍を降らせる時間となってしまったのだ。振りかぶった攻撃を魔法で受けるのは難しくないだろう。……だが、それはノーグの放つ力を見て無意味と悟る。


「魔素ってさ、僕には効かないんだよ」


 受け続けた事由、意図は錯綜すれど価値は違う。

 殺しあったからこそ、得たのは相手を倒すために手にした力であった。仮に魔素を放とうとも、魔法を行使しようとも喰らい尽くされるのが顛末であったのだ。そんな思考への過分な情報が二体の命を奪う。


「脆いねぇ!」

「ええ! 本当にね!」


 二人の一撃に二体の首が飛んで煙となる。

 ジーナはノーグの様子を見て静かに笑った。等しく首を落とした力は彼女の技、【荒落とし】であったのだ。魔物の頭部を落とした上で魔素を払い切り霧散させるものである。ただの戦士ではない彼女だから成し遂げられた攻撃を真似する青年、興味を持たない訳もない。


「はぁ……少し、遊び過ぎましたかね」

「あんな……これで遊んでいるなんて」

「これだけの手札が揃っているのですよ」


 遠回し、だが、その言い方や視線は知っていた。

 話しかけていたダンが嫌っていた存在、貴族特有の物言いである。普段であれば叩いていたであろう頬を少し摩って抱き締めた。……痛い程に重なってしまうのだ。一人となってしまった弟子のように目を離せば孤独へと足を踏み込むような、優しさに満ち満ちている存在である、と。


「良かったよ。僕の力が……使えるようで」

「ああ、お前有り気の攻略だからな!」

「なら、進みましょう。想いは同じですから」


 微笑む姿、ジーナはただ陰ながら哀れんだ。

 奥に潜む感情など……誰も分からないのだから。

次回は明日の9時の予定です。

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