40話
中心にあったのは前回と同様、魔素の塊である。
ヴィルならば視界に入れた瞬間に右指を弾いていただろう。だが、誰もが変化していくそれを見つめるしか手は無い。出来る事と言えば後衛達の火魔法や生活魔法によって全体を明るくする程度だった。それと同時にボヤと光が羅列していく。
幻影魔法込みのランプ、それらが周囲にあった。
明かりは取れた、だが、同時に時間制限を与えられてしまったのだ。分かるからこそ、全員の額に汗が滴る。強い威圧……サジタリウスとまでは行かずとも、それを浴びるだけで背筋がピンと伸びる程には強いものであった。
「ダークウルフにライトウルフ……どちらも単体でSランクに当たる魔物です! 他はブラックウルフではありますが!」
「強化込み、だろうな! どうする! ノーグ!」
アリアの声にダンが重ねがけた。
与えられている時間は数秒、ヴィルならば……等と彼の頭を過ぎったが即座にやめる。人であれば真似出来ない芸当を行っていたと結論付いてしまったのだ。だからこそ、求められるのはノーグとしての指示であった。
「ダンさんは防衛の支援! シャロとアリアは遠距離からの攻撃! 僕とジーナさんで両者を押さえ込みます!」
「あいよ! 任せな!」
ノーグの指示、同時にジーナが走り出す。
ダンやギネを超える程の速度、それもあって生成されたブラックウルフへ詰め寄るには二秒もあれば十分であった。瞬間、背丈を超える出刃包丁を振るったかと思うと周囲にいた十体のブラックウルフを細切れにする。
「いいかい! ノーグ! これが本物さね!」
「さすが、ですねッ!」
数秒だけ遅れてノーグが間に入る。
視線の中にあるのは最後衛で待つ二体のSランク、それとは別に残り百は居そうなブラックウルフ達であった。その状況はノーグにとって幸運でありながら不幸でもある。強い者達が攻めてこないのは雑魚を狩れるチャンスであった。対してデメリットと言えば何をされるか分からない事だろう。
ノーグ視点で言えば、今のパーティは強かった。
前衛を担えるジーナとノーグ……それだけで目の前のブラックウルフ程度なら殲滅が可能だろう。中衛に控えるシャロとダン、片手間とはいえ、向かってきた支援によって既に五体の敵が煙へと変わった。そして未だに動いていない他の面々……問題は今回の作戦が強行である事だ。
下手に消費をして戦闘する事は出来ない。
それが分かるからこそ、判断に困ってしまう。ダンやギネの強さは理解していても、ジーナとディーラの戦い方を知らないのだ。かと言って、不明瞭な中で自由に動かす指示を飛ばせるだけの余裕等は持ち合わせていない。……そんな様子をチラと見てジーナは笑う。
「合わせな! 獣之咆哮!」
「ジーナちゃん、援護は任せて……!」
雄叫びをあげたかと思うと意識が集中した。
目標はジーナ……だが、それらが彼女へ危害を加える事は無い。ギネに背負われた女性から放たれた八つの魔法陣、一つから十もの闇の矢が放たれると貫き殺して行ったのだ。それと同時にディーラは杖を取り出して声を張り上げる。
「霊道顕現……!」
今し方、死んだ十五のブラックウルフ達。
それらは煙へと変わる事なくゾンビのように立ち上がると背後にいた仲間達へと牙を向ける。圧倒的な数に勝利する事は無かったものの、確かに二十数体の体へと傷をつける事に成功していた。それを見せた瞬間にディーラは声をあげる。
「ノーグ! 私は魔素と闇魔法に長けている!」
「分かりました! 殺した相手をお願いします!」
一瞬で良かった、一度だけで良かった。
心臓付近を貫いて五体を殺すのと同時に確かに全てがゾンビへと変わったのだ。先の光景を見ていたブラックウルフ達によって即座に煙へと変えられはしたが、手の内を知れたという事がノーグにとっては活路であった。
「ギネさん! ディーラさんをお願いします!」
「言われずともだな! 少しは支援してやる!」
ギネが右指を弾くと三十の魔法陣が現れる。
全てが最後方にいた二体の魔物の上空から現れており、ぶつかると同時に起こったのは大爆発と煙幕であった。それと同時にノーグの体の奥から力が湧き上がる。ジーナも同様であったようで先に踏み込んだかと思うと壁となっていたブラックウルフを両断していった。瞬間、ノーグはニヤリと笑う。
「霊道……顕現……!」
共鳴、それは全ての力を扱える奇跡である。
だからこそ、技術だけならば格上であったヴィルとも殺し合いながら相打ちに留めていたのだ。それでも全てにおいて最高の力を持つ訳では無い。使おうと考えている相手の力を理解していなければ扱う等とは不可能なのだ。
本音で言えば、ヴィルの力を使いたかった。
それでも、その力は最後の切り札として取っておきたかったのだ。ヴィルは彼の力を聞いた時に「使い勝手が良過ぎる力」だと口にした。一度でも触れさえすればストックが可能、それでいて相手の持つスキルや魔法を自由に扱えるようになるのだ。切らなければ時間制限も無い……が、ヴィルの力を使えば再度、触れなければ行使が可能とはならない。
仲間というのはノーグに必要不可欠である。
そして、今ある状況は彼にとっても僥倖以外の何物でもなかった。今のノーグにとって三人までしか共鳴の対象を行えはしない。それも三人の力を行使すれば確実に気を失うだろう。だが、二人までなら大して負担にはならない。
「力、お借りしました」
「やるさね! 良い剣捌きだよ!」
一度だけ振るった剣、十体が細切れとなる。
余った左手を軽く引いたかと思うと殺したブラックウルフ達から黒い煙が抜かれ、それらが一箇所へと集まっていく。その視線が最後方の魔物へと向かった瞬間に小さく声をあげた。
「放出」
重く低い声は部屋全体へと響き渡った。
周囲の仲間であろうとも背筋が凍るような声、同時に放たれたのは黒く太い光線である。軽く触れただけでもブラックウルフは煙へと変わり、余った右手の中へと収束する中……狙い定められた二体に対しては無意味であった。
いいや、それでは語弊があるだろう。
確かに二体に取っても脅威であった。だからこそ、ライトウルフが吠えるのと同時に白い結界によって弾いてみせたのだ。本来であれば恐怖を覚えるであろう状況、だが、ノーグは只管に冷たい笑みを浮かべて黒の渦を潰して見せた。
「チェックメイト……さて、やりましょうか」
冷たいノーグの声が周囲に響き渡った。
次回は明日の9時の予定です。
宜しければブックマークや評価、いいねや感想などよろしくお願いします! 作品制作の意欲に繋がります!




