39話
ボワと輝くランプ達は以前と変わりなかった。
西洋の場内のような異様な光景、初めてのそれらにジーナとディーラは静かに息を飲んで得物を構え直す。ダンジョンと聞いたからには薄暗い景色を想定していたのだ。だが、実態はどうだろうか。仮にそのようなテーマパークだと言われてしまえば納得出来てしまうような光景なのだ。
「さすがに……穴は埋まっていますね」
「穴……って、そういう事かい」
「ええ、お二人のおかげで楽ができました」
ノーグは笑って答えるとダンとギネを見た。
ジーナから漏れ出した怒気を抑えてもらうために口にした言葉ではあったものの、ダンとギネは慌てたように手を左右に振る。完全な嫌味にしか聞こえないナイスアシスト、もとい、オウンゴールであった。
「……それって、ヴィルはどうしていたの」
「道を作るように頼んだのは彼ですよ。まぁ、魔塞石に気を取られていた部分に関しては少し呆れていましたけど」
「そう……」
二人を一瞥するとディーラは壁に手を付ける。
壁に触れて横に横にと動かしてはいたが、やはりランプ等の装飾品に関しては空を切るだけであった。大きな溜め息、それと同時にディーラは壁中へと魔力を流し込んだ。ボヤと見えていた景色、だが、確かにそれは見掛け倒しであった。残ったのはただの洞窟、悪く言えば他のダンジョンと変わりない世界である。
「……これが本来の姿、ですか」
「幻影魔法……かなり強烈なものだから……」
「長居は良くない、って事か」
ディーラは静かに首を縦に振って肯定した。
幻影魔法、それもまた禁忌とされる魔法である。耐性の無い者であれば容易にコントロールを可能とし、過去の戦争では魔法のみで騎士団一つが壊滅した事実すら残っている。そして、ディーラが危惧していたのはより先の事であった。
ランプの灯りが幻影魔法の発動条件だったのだ。
ユラユラと揺らめく光、それに当てられた者は耐性の有無に関係なく幻覚を見る事となっていた。下手をすれば狂乱し、仲違いをしていてもおかしくなかった事実……解除した今だからこそ、ディーラには一つの疑問が残る。
「これ……前回は何も無かったの」
「ええ……もしかして、穴を開けた事が関係しているのでしょうか」
「そう、かも……地図を見て思ってはいたけど、ここから最短経路で穴を開けたら中心を通る事になるから……」
中心に何かがある、火を見るより明らかだった。
同時にノーグの脳裏に前回の探索が思い出される。確かにヴィルは二階層からも同じように出来るかと聞いていたのだ。四階層までは似たような景色が続く事からして……出すべき指示は即座に固まった。
「ダンさん、ギネさん……また穴を」
「必要、無いかな……これも見せかけだから」
その言葉と共に壁に大きな穴が空いた。
前回の探索でダンとギネが作り出したものと同様の大穴である。ディーラが行ったのは簡単な事であった。単純に違和感のある場所に手を付けて内部の確認をした上で魔力を流しただけである。少しだけ違う事があるとすれば、彼女自身も吸魔を使い壁が吸い込んでいた魔素を抜き取っていた事だろうか。
魔塞石の特性をギネから聞いていたおかげであった。異様な耐久性は内部に魔力や魔素を多く溜め込める特性の影響であり、金属結合によって原子と原子が繋がれた上で、その補強や性質を活発化させていたのが魔力や魔素であったのだ。つまりは根本的な魔素さえ抜き取ってしまえば周囲の金属と変わりないのである。
「下も……同じなら問題ないよ。これなら幻影魔法を解くよりも壊した方が楽だから……」
「ディーラさんは……大丈夫ですか」
「私は魔力も魔素も似たようなものとしか思っていないから大丈夫。実験するために慣れさせたから気にしなくていいよ。それに……」
ディーラはそれ以上の言葉を続けなかった。
負担は無い、そんな事が有り得る訳が無いのだ。無理に言葉を増やしたところで少しばかり歪めさせてしまった口元を隠せはしない。一階層を修復させるために大量の魔素が注ぎ込まれているのである。吸収せずに放出したとしても彼女の体内を猛毒が通った事には変わりない。
だが、それでもディーラの目は鋭く輝いていた。
猛毒すらも受け入れる覚悟、どうして等とは誰も言えはしない。皆が共通の考えを持っている中で無碍に出来る訳が無かった。だからこそ、ギネは静かに隣に行き、頭を軽く撫でる。出会った頃よりも大きな背に乗せられ、ようやくディーラも表情を少しばかり和らげ身を任せた。
「無理はするなよ」
「うん……想定していたよりは少ないから大丈夫だよ。それにヴィルを救うのに……弱音を吐いていられる余裕は無い、から」
「なら、安心だな。他は任せてくれ」
いつもより弱々しく笑う姿にギネは悔やむ。
魔力の扱いに長けた王国随一の魔道具の達人、魔工技師と呼ばれておきながら大切な人を守るための道具は何も無いのである。魔素への耐性を手に出来ていたなら、そう考えてしまうのは仕方の無い事だろう。だが、それこそ、普通の人間に出来た芸当では無いのだ。
「ノーグ、部屋に関しては俺とディーラは居ないものとして考えて欲しい。戦いはするが連携出来る程の余裕は無さそうだからな」
「大丈夫です。サジタリウスと比べたら部屋の魔物なんて雑魚でしかありませんから。むしろ、休ませてあげられなくてすいません」
「問題無いな。二階層からは少しだけ壊す方法を変えるから休まなくてもどうにかなる。それに休んでいられる時間があるなら今みたいな方法を取らなくて良かった、だろ」
ギネの言葉にノーグは首を縦に振って返した。
少しばかりしてぶつかったのは過去にも見た白い門である。部屋への入口、同時に内部に関しては誰も知らない空間であるのだ。一人の少年の魔法によって発生する前に倒せてしまった敵、だが、今いる面々では同じ事を出来る存在はいなかった。いいや、いる方がおかしいのである。
魔素が魔物に変わる前に吸い付くしたのだ。
そもそも、魔素を魔法の中に閉じ込めるという事自体が高等な技術であった。それと同時に魔物の発生に耐えられる頑強さも与えなければいけないのだ。魔力操作ならばギネが、発生と同時に処理出来るだけの火力ならばダンが、魔素の扱いならばディーラがいる……それらが力を合わせてようやく成し遂げられる芸当だった。
だからこそ、全員が得物を持つ手に力を強める。
ギィと押した白い門は不思議と軽く感じられた。
次回は明日の9時の予定です。
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