36話
「おう、遅かったな」
「お二人が早かっただけですよ」
ノーグの返答にダンは軽く鼻を鳴らした。
村を出て少ししたところ、朝食を取って陽が昇った時を合図として待ち合わせていた五人ではあったが、救いに行ける事に高揚しているのか、足取り早く向かっていた白の角蛇の三名よりも余っ程、早い時間から二人は到着していた。
先の攻略と変わらず、黒で統一された服装達。
計三日、当初の予定よりも一日だけ長引いてしまったが、確かに準備に関しては万全とも呼べる程に整っている。先の攻略において使用していた装備品を改良した物達、それらは初夜を終えた段階で二名の手で作り直され、返却されていた。問題は胸を張る二人の手にあるものだろう。
「……それは?」
「おう、お前達用の新しい得物だ」
「なる、ほど……?」
「まぁ、そんな顔すんなよ。せめて、説明でも聞けや。こう見えても俺とギネで悩んだ挙句に殴りあって作り出したものだからな。そこらの魔道具よりも気合いの入り方が違ぇよ」
ダンの豪快な笑い声にギネは頭を押さえた。
見てくれだけで言えば、不可思議な物達である。ダンから得物と言われなければ一種の魔道具としか感じられないような物ばかり……精々、誰が見ても分かるのはダンの左手にある背丈百七十センチ程度のロングソード程度だろうか。
「まずは、これを嬢ちゃんにやろう」
「ん……これは何?」
「それは苦無という武器だ。そうだな……言葉で説明するよりは見せた方が楽か。一先ず、そこにある木を見ていてくれ」
ギネが指さしたのは道端の一本の木である。
何の変哲もない普通の木、そこにギネが一本の苦無を投げ付けただけだった。それと同時に起こったのは当たった木がズルリと半分に切れて落ちていく様子である。その様子に驚いている余裕すら与えずにギネはもう一本、苦無を先程投擲した苦無目掛けて投げ付けた。
それは弾かれる、ではなく、流された。
斜めに刺さった苦無の持ち手側に当たったかと思うと角度を変え、情報目掛けて飛び直す。それが見えなくなるまでに三本の木はあっただろうか。だが、どれもが既に音を立てて半分となってしまっていた。
「分かりやすいのが今の二つだ。一つ目に貫通、これは投擲した威力を三倍まで引き上げる事が出来るだけの力。その程度なら何処にでもあるだろうから少しばかり工夫をさせて貰った」
「ん、それで十分、おかしいと思う」
「SSランクより上だと常識だぞ。んで、話の続きだが、二つ目に反射を付与している。何かに刺さるのと同時に四角錐の反射の効果を帯びた魔力の膜を展開するんだ。そこに攻撃を当てる事で威力を二倍にして、その角度に合った方向に流してくれる」
反射、というよりは、加速に近いだろう。
滑らかな魔力の膜、それに物理攻撃も魔法も滑らせ膜を譲渡する事で火力を増強する。想像出来たとしても得物に付与するためには熟練した技術が必要であった。少なくとも、小さなシャロでも簡単に投げられそうな苦無や複雑な見た目を鋳造する事も、そしてスキルとしてすら滅多にお目にかかれない二つを付与する事も……才能の溢れた王都ですら、出来る人間など一人か、二人しかいなかった。
「んで、こうして横の空になった鞘に魔力を流せば帰ってくるからな。これが最後の力、編成だ。どうだ、これなら使う気になるか」
「ん……でも」
「一先ず、付けてみろ。分身体じゃ、出せる火力も減ってしまうんだろ。それなら手数を増やしてやった方が攻略も楽になるはずだ」
表情は変えないながらも嬉しそうに聞く姿。
それを見てシャロは小さく笑った。本来であればSランク冒険者であろうとも、背伸びをしなければ払えない程の代物を手渡してきておきながら、ギネが気にしているのは使ってくれるかどうかだけである。ホルスターを腰に着けただけ、だというのに、ダンもギネも目を見合わせて喜ばし気に笑った。
「次はアリア嬢だ。これに関しては俺が説明してやるよ。まず持って、嬢ちゃんの弱点を先に教えるべきだろうからな」
「……はい。お手柔らかにお願い致します」
「構えなくていい。簡単な事だからな……嬢ちゃんの弱点は強力な血魔法を人前では扱えない事、そしてそれに影響して扱いが未熟だってところだな。ハッキリ言えば、一度一度の血液の消費が多過ぎる」
それは何もサジタリウス戦に限っていない。
探知のため、確かに必要な事ではあったが彼女は大切な指を落としてまで力を発動していた。既に魔法によって癒えているとはいえ、その時の血液の消費が響いていた事は言うまでもない。実際、サジタリウス戦で即座に血魔法へ移れなかったのも完全に回復していなかったからでもある。
そして、問題はそこに限った事ではない。
今までは使わずとも対処が出来ていた、もしくは使いさえすればどうにか出来てしまっていた。その結果が彼女を悪い意味で強くさせてしまったのだ。未熟な今のままでも最後の切り札として使えば勝てる、そのような意識が根付いている事をサジタリウス戦でダンとギネは分かっていた。
「片手間で使えるようになれ。これは拳銃っていう魔道具だ。ここを引けば針が出てくるからな。事前に血を補充しておけば、血魔法の発動の時に適量を使ってくれるようになる」
「……血魔法を持っていないのに補助の力を付けられるものなのですか。魔工技師や最高位の錬金術師である、お二人の力を馬鹿にしている訳ではございませんが……」
「悪いが、それが俺の魔工技師の力だ。こういう力を与えたいと思えば付与が可能になる。そのための外見は正しく作られていなければいけないが、そんなもんはダンがどうにかしてくれるからな」
その言葉はアリアの表情をただ歪ませた。
悪い意味では無い、本当にそのような力が与えられているのであれば喉から手が出る程に欲しかったのだ。血魔法を隠しながら魔道具の力として扱える……そこまで考えが至って一つの過去が頭を過ぎったが振って払う。
「……幾らでしょうか」
「要らん。道具は使われてこそ、価値を発揮するからな。それで満足出来ないなら……そうだな」
怯えるアリアの頭にダンは手を置いた。
撫でるでもなく、だが、離す訳でもない。その目にあるのは賭けであった。それでいて娘を見るような感情でもある。そう、ただ、ダンとギネの願いは変わらず、その一点だけであった。
「ヴィルを救えた前祝い、って事でどうだ」
次回は明日の9時の予定です。
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