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35話

「イヤッホーィ!」


 ヴィルの甲高い声と共にアルラウネが灰となる。

 それによって新しい蔦が彼のもとへと向かうが右指を弾くと強風が吹き荒れ、それらを一瞬で粉々に切り裂いてしまう。同時に風を自身へと纏わせると蔦が向かって来た方向へ、即座に飛んでいった。


 迎撃するかのように四十の蔦がヴィルへ向かう。

 だが、それらが彼の身へと到達する事は無い。全てが目の前で展開された風で粉々とされるのと同時に燃やされてしまうのだ。徐々に徐々にと振りを悟った蔦が戻っていくが判断が少しばかり遅かった。


「黒炎!」


 ヴィルの視界に捉えられた二体のアルラウネ。

 四十メートル先の敵とはいえ、発動した二つの魔法陣によって燃え始めた二体の魔物は蔦を扱うだけの余裕など残ってはいなかった。瞬間、ヴィルは右指を弾いてアルラウネ達の進路を結界で塞いだ。慣れた手付きの狩り、それらは落ちてからアルラウネとの戦闘に明け暮れていた結果である。


 時間からして一日、経過した程度の間。

 その中で倒したアルラウネの数は六十は優に越えていた。何れに対しても少しの危険すら感じずに撃破に成功している。それでも彼女達の数が減っていないのはSSSランクダンジョン特有の魔素の濃さからだった。


 魔物は魔素が集まりコアが形成され生物となる。

 その常識は数百年前の研究者が導き出した回答であった。そして、その回答は殆ど正解に近い物でもある。魔素が薄ければ生成される魔物の量も格段と減るのだ。だからこそ、過去の記録に比べてダンジョン攻略での冒険者の死者数は格段と減少している。


 とはいえ、それは魔素の濃さが低い場合である。

 吸魔の鎖のような魔素を吸収する魔道具で吸える量には限度があるのだ。特にヴィルのいる空間のような誰も彼もと入れる訳ではない場所ともなれば、その魔素を吸い出すための手段なんてありはしない。サジタリウスと戦うまでの上層部とヴィルのいる下層は同じ場所でありながら隔絶されているのである。


「はぁ……流石に、か」


 機械音、その声はヴィルの表情を歪ませた。

 嫌な記憶のある相手……サジタリウスが背後から大弓を構えていたのである。咄嗟に作り出した円形の土壁によって攻撃は受け流されたものの、その眼に映るのはヴィルだけであった。ジロリと睨み付ける眼から逃げようと考えたが簡単に動きはしない。


 恐怖、脅威……過去の戦いで刻まれた経験だ。

 落ちる前の戦い、それは他の仲間達がいたからこそ、戦えただけの事でしかない。SSランクの魔物という前提はただただ人々の心を畏怖させ続けるのである。……故にヴィルは杖をしまい、新しく剣を取り出した。その見た目は先程のダン達が拵えた装備品とは打って代わり、純白の騎士そのものである。


聖装マージ


 ヴィルの声に対してサジタリウスが矢を番える。

 予備動作も無く放たれた一撃は土壁を消し去ったヴィルへ一閃に向かい、通過した道には通った証だけが残っていく。並の冒険者であれば必殺とも感じられる一撃……勝利を確信したようにサジタリウスは笑みを見せたが、カツンという嫌な音に歪ませていった。


「おいおい、その程度で笑うなよ」


 ヴィルより少し小さなカイトシールドがあった。

 左手に持たれた光の溢れる盾は確かに一撃を受けて流してしまったのだ。サジタリウスもそれを理解して即座に弓を構え始めたが、三秒程度の余裕があれば詰め切るには十分であった。瞬間、大きな盾を構えながら右前足に強くぶつけたかと思うと反対側の前足を強く切り付ける。


 咄嗟にサジタリウスも地面へ大弓を構え直す。

 だが、その眼前に現れたのは一つの大きな魔法陣であった。魔法の発動、瞬時に下がろうとしたが足が動きはしない。魔法陣に気を取られている間に右後脚にすらも剣戟を与えていたのである。それに気が付くには数秒ばかり遅かった。


「じゃあ、死ね」


 大きな矢がサジタリウスの頭部を吹き飛ばした。

 それを見てヴィルも剣と盾を構え直す。だが、数秒ばかり眺めたところで煙へ変わる姿を見て、どちらも別の空間へしまった。ボス戦と同様に第二第三と変化すると考えていた彼ではあったが、残った結果はただの杞憂でしかない。


「ダンジョンボス特有の仕掛け……にしては、僕に絞ってやっているようにも見えるな。それに確かに強いけど……」


 チラリと周囲を眺めて大きな溜め息を吐く。

 目の前にいたサジタリウス、その強さは分かりやすくSSランクの魔物と呼べるものではあった。だが、その事実とは裏腹にボス部屋で戦ったサジタリウスの強さは一線を画す程の差があるのである。確かに問題なく、アルラウネやサジタリウスを倒せている状況とはいえ、その強さが引き継がれ続けるという確証も無い。


 かと言って、彼には帰る手立てが無かった。

 もしも、ボス部屋にいたサジタリウスがヴィルのいる階層に現れたとすれば、その時に待っているのは確実な蹂躙である。それは当の本人が痛い程に分かっている事であった。アルラウネにも似たような強化が入った場合、その時に相性の差があれども勝てるかどうかは分からないのだ。


「はぁ……とりあえずっと」


 大きな伸びをしてヴィルは小さく欠伸をした。

 そのまま、周囲を軽く眺めてから転移を発動して緑部屋へと戻る。感情に飲まれてしまったとはいえ、サジタリウスを容易に倒せる事を知れたのは不幸中の幸いであった。ヴィル視点、魔物の狩りに専念していたのは他でもない、ダンジョンが所持する魔素を少しでも減らす事である。


 もしも、転移阻害にも魔素が使われていたら。

 そのような幾つものIFの話が浮かぶ以上は、その可能性の根本となるものを潰していく方が楽であった。緑部屋の中心で寝転ぶと、塞がってしまった岩壁を静かに眺める。願わくばと発動した魔法陣はやはり上手く作動はしない。


「次は……サジタリウス狩りかなぁ」


 ヴィルの声は無情にも暗闇ではよく響いた。

次回は明日の9時の予定です。

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