32話
宴は続き、会議の如く踊りに踊っていた。
村の女性は酒を注ぎ、男は酒を飲み交わし……下手に手を出せば殴られて地面と濃厚なキスをしているような光景である。それを見て笑い、下手をすれば殴り合いに発展すらしていた。それによって出来た大穴は村のそこらに作られている。
怒号や叫び声が響く中でダンは一人外れた。
村近くの木々の中、村が抱える池の近くに足を進めて小さく息を切らしている。多くの酒を飲んだ影響か、その頬や顔は赤く、どことなく足取りも正しいとは言えない。一口の水を片手のコップから口にして進んだ先に、確かに望みの存在がいた。
「あれ……早かったですね」
「お前の頼みだ。無視したくはねぇ」
月夜に輝く金色の髪、湖に彼はただ映えた。
ノーグ、その名は王国の端に籠るダンやノーグでさえも聞くほどである。共鳴、それは他者との関わりを通して絶対的な力を得ると言われる、言わば神の力にも等しきものとして称されていた。それはサジタリウス戦での一撃を見て確かに理解した事でもある。
本気を出したダンやギネを超えた一刀両断。
腕を切り落とすだけで限界であった二人に対してノーグが見せた力は本物であった。実態は全員の善戦によって活躍の無かった力、だが、ダンからすれば嫌という程に分かる事である。今の鈍った自分では彼のような偉業は成し遂げられない、と。だからこそ、ダンには分からなかった。
「んで、俺に何の用だ。こう見えて頭を回す行為に関しては不得意だからな。聞かれても答えられる事と答えられねぇ事がある」
「大した事はありませんよ……それよりも」
「おう、悪ぃな」
喉から出そうな言葉をグッとノーグは堪えた。
誰がどう見ても等と漏れ出しそうな声を抑え、ズガと横に座ったダンに瓶から何かをコップへ注いで手渡す。そのまま、空になった自分のコップへも並々と注ぐと一気に飲み干した。少し赤らんだ頬をそのままに左膝を立てて両腕を置いて重心を寄せる。
「美味い酒だな……ヴィルのか」
「ええ……僕が一番に好きな酒です。依頼が上手くいく度に月夜をツマミに共にしたものです。あの子は僕達の好みを一番に理解していましたから」
コップに再度、酒を注ぐと腰から麻袋を取る。
中身をガサと探ったかと思うと三つの瓶と一つの大皿を出した。瓶の中身を皿の三方へ少しずつ置いて小さな笑みを零す。上方には黄色みがかった何かで和えられた肉があり、右方には黄土色の何かで和えられた野菜がある。そして左方には赤みのかかった何かで煮込まれた魚があった。
「これが……それか」
「三種の神器、なんて冗談で口にしていますよ。シャロの好みとアリアの好み、そして僕の好みを分けたものです。そして何故だか、彼が好んでいたのは中央の物でした」
ホロと崩れる肉と野菜、そして魚を中央に置く。
それらをグチャりと混ぜて出来上がった物は見てくれだけで言えば汚しさすら感じられるだろう。だが、それを一口だけ食したノーグは、それに次いだダンも表情を綻ばせるだけであった。塩味の強い中に包み込むような酸味があり、それらが不思議と酒を誘うのだ。
プハと一気に飲み干した酒は新鮮であった。
本来であれば通るはずの香りが混ざり合う事で良きものとなる。吐き出した後に鼻腔を突くのは月夜に漂う花々の香りであった。……それらは全てダンとギネの受け売りである事は本人からすれば分かる事である。
「ダンさんに聞きたかったんです」
「俺かぁ……悪ぃが説明なんて性分に合わねぇよ」
「構いませんよ。きっと、違いますから」
二度目の返答はただの謙遜でしかなかった。
何となく、その先に続く言葉が分かってしまうのだ。その目は、その様子は……年齢こそ、違えども幼き時のヴィルそのものであった。あの時も彼は月夜を前にして似たように口にしたのだ。甘い香りが漂う花々の傍で確かに口にした。
「どうすれば、僕は強くなれますか」
「……どういう意味だ」
意地悪な返答に対してノーグは笑って返した。
意図等、分からないはずもない。冒険者であれば、一人の戦士になろうと思えば誰もが通る道でしか無いのだ。戦士としての思いを無視した言動は普通であれば反感すら買っていただろう。とはいえ、罵れるだけの余裕等、ノーグには少したりとも、ありもしなかった。
「その通りの意味……なんて、意地悪な聞き方ですよね。言葉として表すならば、どうすれば僕は大切な者達を守れるだけの力を手に出来るか、について聞いています」
「───知らねぇよ」
酷く冷徹であった。同時に優しくもある。
ダンの視線は重さがあったものの鋭さに関しては薄かった。殺す気ではない……それでもノーグを試すために強い殺気をぶつけてみせていたのだ。だからこそ、ノーグもコップや皿を麻袋にしまってから軽く礼をしてみせる。左腰に差した剣をゆっくりと引き抜いてから構えた。
「そうだ。そっちの方が余っ程、やりやすい」
周囲の土が蜂の群れのように盛り上がっていく。
バラバラと空中に浮かぶ土や砂、そのような絶対的な力がありながらも剣を抜くのは最後まで残った戦士としての意地であった。そして、それは何ものよりも重く固く、それでいて強大である。分かるからこそ、ノーグは小さな息を吐き切った。
「単独SSランク冒険者、その胸お借りさせていただきます!」
「はぁ……来い。小僧」
その声と共にノーグはダンに向かい走り出した。
距離を取ったとはいえ、ノーグの身体能力ではすぐに着くような程度でしかない。ダンが理解して取っていた行動は土によって作られた槍を無数に落とす行為であった。同時に振るわれた剣はノーグの得物とぶつかり合い、ガギンと心地の良い音を奏でてみせる。
だが、そんな音色に酔える余裕は互いに無い。
大きく後退したノーグを追うかのように地面に突き刺さっていくのは土の槍であった。それで消滅するならばマシだっただろう。そんなノーグの心を強く裏切ったのは地面へ同化した槍が、より多くの土を宙へ浮かせるという事実であった。
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