31話
「はぁ、ようやく……話は纏まったな」
「長引いたものだ。それもこれも」
「皆、本気でヴィルを救いたいから、ですね」
ノーグの言葉にギネは大きく溜め息を吐いた。
彼の気持ちは分かりはする。だが、ヴィルを助けたいという思いが強過ぎる男の意見はどれも過激なものが多かった。それを制していたのは他でもない、同様に重みのあるギネの言葉である。特段と意見のぶつけ合いに関してはギネも嫌な気持ちは持ち合わせていない。むしろ、相手と分かり合える行動は彼の大好物であった。
問題は……話が纏まった今の時間である。
昼過ぎ頃から始まった会議は当に夜にまで到達しており、外では月光が輝いていた。本来であれば話を纏めてすぐに用意を整えておきたかったギネの内心を擽ったのは間違いのない事である。ヴィルを助けるという前提を出せば聞こえはいいが、ダンの口にした意見というのは殆どが無作戦とも取れるものであった。
「言い換えの上手い奴だな。とはいえ……それは間違っていないか。コイツですらも真っ当な意見を出すくらいなんだからな」
「な、それは! お前もだろ!」
「お前よか普通だわ!」
ギネの言葉にノーグは苦笑してしまう。
確かにダンは無作戦に近い特攻を口にしてはいたが、対してギネは時間のかかる確実な手段を口にしていた。どちらも両極端、だからこそ、ノーグにはヴィルという存在の苦労が嫌という程に分かってしまう。強さの分だけ自我の強い二人に言う事を聞かせられるだけの存在であったのだ。
それを口にすれば誰もが納得するだろう。
意味無く、勝手に他冒険者の要素をパーティ名に宛てがう人間は何処にもいない。角蛇の総意としてヴィルの要素である【白】は絶対的な象徴であったのだ。だからこそ、二人の意見を織り交ぜながら成し遂げられそうな作戦を……ようやく、彼等は作り出す事が出来た。
「なんだい、ようやく話が終わったのかい」
「ジーナちゃん……い、言い方が……」
奥の厨房から姿を表したのはジーナである。
その背後をオドオドと大きな黒い魔導帽子を被った女性が現れた。その顔は魔導帽子の鍔によって隠れてはいるものの言葉振りとは別に、向けられた視線によってダンとギネの姿勢が一気に正しくなる。
「ディーラ、そんな事はどうでもいいさね。ヴィルを置き去りにした奴らにかける慈悲は無いよ。これからは助ける事を前提として動くさね。発破をかけてやるのも妻の役目だよ」
「そう……うん、分かった!」
ジーナの言葉にダンとギネは扉へと足を向けた。
気が付かれないように恐る恐ると、仲良く隣同士で足を進めていた二人ではあったが毛髪を捕まれてしまい、作戦は頓挫する。恐怖からギリギリと動く首が背後を向けた瞬間に見えたのは鬼を背負う女性であった。
「おい! ギネ! てめぇ! ヴィルを守れなかったってのはホントか!?」
「あ、ああ……!」
胸ぐらを掴まれたギネはそう返すしか無かった。
本気で怒った時のディーラ、その恐怖は知る者からすれば平身低頭の意を掲げるしかない。未だに影で見えない顔であっても、その奥の表情等は容易に想像出来る事であった。
「覚悟は出来てんだよなぁ! 詫びも入れねぇからてっきりぶち殺されてぇのかと思ったぞ! さっさと土下座して詫びろや! 誰のせいでこうなったってんだよ!」
「わ、私のせいです! 誠に申し訳ございません!」
見事なまでのギネの土下座に周囲は沈黙した。
ただでさえ、異様な雰囲気に紛れて確かな魔素が周囲に漏れ出していたのだ。その根源は間違いなくディーラから溢れ出たもの、それが分かるからこそ、白の角蛇の三名は口に出さずともに感嘆してしまう。だが、そんな意志とは無関係にディーラは自身の怒りを横にいた男にギリギリと向けた。
「ダン! てめぇもだよ! 何逃げようとしてんだ!」
「は、はいィィィッ!」
「お前らがいるからヴィルの攻略を許してんだぞ! アタシ達がどうしてヴィルに全てを教えると決めたのか忘れたとは言わせねぇからな! 今回は仕方ねぇから許してやるが! 次はねぇ! いいな!」
その言葉にダンはギネと同じく土下座した。
恐怖、サジタリウス相手にすら感じなかった圧倒的な何かが確かに彼女から漏れ出していたのだ。それを察知するにはノーグ達には早過ぎた。近距離以前に強者であるからこそ、理解出来た違った意味での化け物がそこにいるのだ。
「ご、ごめんなさい……ジーナちゃん」
「いいさね、コイツらには多少のお灸が必要だったからね。むしろ、ディーラが言わなかったら本気でボコしていたところだよ」
その睨みつけるような目に全員が恐怖した。
魔素がどうこうではない、分かりやすい脅威として咄嗟に感じてしまうのだ。それも仕方の無い事だろう。ダンやギネ、ヴィルに比べれば劣るものの二人は単独でBランクとなった姉妹である。その二人が弱い訳も無かった。
「せっかくさね! 今から宴だよ!」
「今から、ですか……?」
「何を言っているんだい! どちらにしてもSSSランクダンジョンの情報を持って帰ってこれた事に変わりはないさね! 当たり前を祝わないなんて冒険者の名折れだよ!」
ノーグの問いにジーナは肩を組んで答える。
その顔は笑っていたが目は違った。多くの人の死を見届けてきた者の目、それが自分達へと向けられているのだ。そう、ダンやギネが濁したところでジーナやディーラには分かっていた。彼等が挑んでいた場所は自分達の常識に当てはめられた空間ではない、と。
「何時、死ぬか分からない世界さね。楽しめる時に楽しまないなんて愚かだよ。難しく考えたところでヴィルは帰って来れない……転移のある、あの子が未だに戻ってきていないなら何かあるに決まっているさね」
「それは……その通りですね」
「そうさね! して! あの子が簡単に死ぬような子ではないと誰もが理解している! だったら! 今は英気を養う方が先さ! それが冒険者の流儀だよ! 異論は認めない!」
両手を大きく広げるジーナは先に外へと出た。
その扉の先から中へと漂った香りは只管に皆の好意を擽るだけであった。多くの村人達の声、そして多くの肉や酒ばかりが並ぶ空間である。それだけを見てダンとギネは悲しそうに笑みを浮かべてしまう。それは戦士への……死への手向けと似ていたからであった。
次回は明日の9時の予定です。
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