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28話

「本当に……勝てるとはね」


 灰となり、光へと変わったアルラウネ。

 そんな様を見てからヴィルは彼女のもとへと到着する。激戦、と呼ぶには呆気の無さすぎる戦闘方法であった。過去に戦ったAランクの魔物、エルダートレントを倒した時と同じ手法を取っただけに過ぎなかった。だが、それは彼自身が理解している通り、ヴィルだから容易に出来た結果でしかない。


「鑑定……やっぱり、そうか」


 ドロップした物は石と蔦、木に……小瓶。

 石は真紅に輝いており、縦五十センチに横三十センチはある程に大きなものであった。手に持てば血潮が躍動するかのように唸りをあげる。まるで石本来が鼓動を行っているかのように感じられる程であった。それがアルラウネのコアである事は誰の目から見ても明らかである。


 そして蔦と木は彼女達の残りカスだった。

 問題は透明な液体が入っている小瓶、その中身はアルラウネの体液である。持っている能力は浄化と魔力増強、加えて鎮火と呼ばれるヴィルですら初見となるものだった。とはいえ、名前からして即座に意味は理解出来る。単なる火であれば体液をかけた段階で消化されていたという事であった。


 問題はヴィルの炎は黒く澱んだ特別製だった事。

 黒炎ブラックエンヴィ、作成したヴィルはそう名付けていた。炎魔法と黒魔法の複合魔法であり、その難易度は同等のSランク冒険者でも限られた者にしか発動出来ないものである。加えて言うのであれば二種類の上位魔法を持っている者も少ないのだが……。




「吸魔……はぁ、さすがに、か」


 一人しかいないからこそ、漏れた弱音。

 広大な範囲を占めるアルラウネを燃やし尽くすには多量な魔力を必要とした。倒した事で放出された魔素、また自身の魔法の残滓を吸い込む事で多少は回復出来たものの、消費量の一割にでもなれば十分な程である。


 SSランクの魔物を倒せた事実、それは良い点だ。

 とはいえ、単体のアルラウネを倒しただけで他の魔物と戦えなくなる程に脆い結果でもある。良い面があれば悪い面があるのが世の理、経験則からヴィルは小さく息を吐き切って魔力を練り直す。ポーションで回復する……そのような考えも過ぎりはした。だが、それは物資を無駄に使うだけの結果にしかなり得ない。


「転移……本当に便利な事だよ」


 空間魔法、実用性が極端に高い魔法である。

 数万人に一人、そのような割合で現れれば良いと言える程の魔法でもあった。他の魔法とは違い、発現条件が不明なもので、どれだけ使用者のステータスが低かろうと所持するだけでAランク冒険者パーティに入れる程である。


 空間魔法を持つ者のみの特別な職業すらある。

 ポーターのような人を他のエリアまで運ぶ職業や、エスピーと呼ばれる貴族お抱えの逃がす事に特化した空間魔法使い、ギネのように持ち合わせていれば魔道具に付与する事が出来る……それらに共通する事は基本的に高待遇な事である。


 白の角蛇達は収納のリングを持っていた。

 作成者は……ヴィル、彼が仲間である事を象徴するために作り出した魔道具である。伝承で残された角の生えた大蛇が掘られた物であり、付与された能力は収納と魔法耐性、そして信頼の三つだった。最後のスキル『信頼』、それがあるからこそ、ヴィルは他の面々が問題ない事を知り、対して他の三人はヴィルが元気に生きている事を知れるのだ。


「……はぁー、疲れたなぁー!」


 緑部屋の中心で寝転びながら天井を眺める。

 手を伸ばした左手の薬指がキラリと輝き、ヴィルはニヤリと笑みを浮かべた。岩肌の影響で寝るには適さない空間である。その硬さからシャロの膝を、アリアの暖かみを……そして胸元へと潜り込んでくる二人の妹のような存在を恋しく思えてしまう。


 未だに夢見てしまうような光景。

 甘えだと騎士への意志に身を任せ、何もかもを分からないつもりでいた。シャロの想いに応えてしまったのも似たような理由である。今生の別れとなる可能性があるから、と……そして騎士ではない自分への精一杯の慰めとして一夜を共にしてしまった。


 だが、少しも後悔はありはしない。

 いいや、後悔は明確にあるのだ。彼の中に伝え切れていない感情が無限にも思い浮かぶ程に、返し切れていない恩が残ったままであった。シャロへ、アリアへ、ヒナへ、キアラへ……そしてダンやギネ、ノーグにすら返せていない感情が残っている。思い返せば嫌な程に顔が浮かんでしまうのだ。


「さっさと……帰らないといけないな」


 独白、それは心の底からの本音であった。

 ダンジョンが自身を歓迎していようと過ごすべき空間とはイコールではない。彼の求めている居場所は昔から少しも変わっていないのだ。少しも光の差さない空間であろうとも、視界の先に彼等はいたのである。戻れないという事実があろうとも合流出来れば話は大きく変わる。


「……生きないと」


 騎士らしさ、そんなものは微塵も残っていない。

 あるのは人としての縋る思いである。意志よりも先に彼は願ってしまったのだ。今はただ皆と会いたい等と幸福に縋ってしまった。……自嘲、意識した訳でもなく小さなの吐息が一つだけ漏れ出す。まま、堰を切り笑い声だけが空間に響き渡っていく。


「確かに……騎士としては不合格だよなぁ」


 それでも表情に少しの悲しみも残っていない。

 気が付けた事への幸福、そして見て見ぬ振りをしてきた自分への嘲だけが無限に洞窟へ反響していく。腰に差した剣も、機能しないからとしまっている鎧も、その全てが彼には愚かしく思えてしまった。


「父さん、僕は……」


 小さく漏れ出した声、その続きは無かった。

 幼き子供が見せるべき姿、今だけはどれだけ背伸びをしていたとしても彼を咎める者はいないだろう。ただただ、幼さの中に心を沈める少年の寝息だけが部屋の中に響いた。

次回は明日の9時の予定です。

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